V(D)J遺伝子再構成 (VDJいでんしさいこうせい、英:V(D)J recombination またはsomatic recombination )は、免疫システム内の免疫グロブリン (Ig)・TCR(T細胞受容体 )生成の初期ステージにおける遺伝子再構成の仕組み。初期のリンパ組織(骨髄ではB細胞 、胸腺ではT細胞 )で起こる。
V(D)J遺伝子再構成は、骨髄や胸腺でのリンパ球 の遺伝子断片(V、D、J)のランダムな組み合わせである。抗体やTCRをコードするDNAは多数の断片として染色体の上に並んでいる。これらのDNA断片はリンパ球の分化の過程で連結され、完全なDNAとなる。いろんな遺伝子をランダムに選べるので、いろんなタンパク質 をつくり、いろんな抗原(バクテリア 、ウイルス 、寄生菌 、腫瘍 、花粉 など)に対抗することができる。[ 1]
背景
ヒトの抗体 分子(とB細胞受容体 )は、三つの遺伝子座 の遺伝子で暗号化されるC部位とV部位との重鎖(H鎖 )・軽鎖(L鎖 )で構成されている。
第14染色体の免疫グロブリン重遺伝子座(IGH@):免疫グロブリン重鎖のための遺伝子断片。
第2染色体の免疫グロブリンκ(カッパ)遺伝子座(IGK@):免疫グロブリン軽鎖のための遺伝子断片。
第22染色体の免疫グロブリンλ(ラムダ)遺伝子座(IGL@) :免疫グロブリン軽鎖のための遺伝子断片。
各々の重鎖遺伝子・軽鎖遺伝子は、(V,D,J)三種類の遺伝子断片のかけ算ででき、抗体タンパク質の様々な部位をつくる。
たとえば、免疫グロブリン重鎖部位は44個のV 遺伝子断片、[ 2] 27個のD遺伝子断片、6個のJ遺伝子断片から成る。[ 3] 軽鎖も多くのVおよびJ遺伝子断片から成るが、D遺伝子断片はふくまない。
DNA再構成は、リンパ球 から遺伝子断片をコピーし、約3000億種類の抗体 をつくることができる。
ほとんどのT細胞受容体 は一つのアルファ鎖と一つのベータ鎖から構成される。T細胞受容体は免疫グロブリンと似ており、V、D、J遺伝子断片をベータ鎖に、V、J遺伝子断片をアルファ鎖にふくみ、それら(遺伝子断片)はリンパ球の成長過程で再構成され、そのT細胞に特有の抗原受容体をもたらす。
自己反応しない受容体をつくれなかった細胞はアポトーシス する。
免疫グロブリンの状況
免疫グロブリン重鎖のV(D)J遺伝子再構成をかんたんに図示したもの
重鎖
B細胞 の生成時、最初の再構成は重鎖遺伝子座のD遺伝子断片とJ遺伝子断片のあいだで起こる。
これらの遺伝子断片のあいだにあるDNAは除去される。
このD-J間の再構成の次に、上流にあるV遺伝子断片が加わり、VDJ遺伝子断片が再構成される。こうしてVとDのあいだの断片は細胞のゲノム から除去される。
最初の転写(非スプライスRNA)はこの重鎖のVDJ部位とCμ とCδ を持つ(V-D-J-Cμ -Cδ となる)。
この最初のRNAはポリアデニル化 したテール(尾)をCμ 鎖の後ろに加えられ、VDJとCμ のあいだのものはなくなる。
このメッセンジャーRNA が免疫グロブリンμ重鎖タンパク質を産む。
軽鎖
免疫グロブリン軽鎖遺伝子座のκ鎖とλ鎖は、上記の重鎖と同様にできる。ただ、軽鎖にはD断片が無い。
脚注
^ Abbas AK and Lichtman AH (2003). Cellular and Molecular Immunology (5th ed.). Saunders, Philadelphia. ISBN 0-7216-0008-5
^ Matsuda, F; Ishii, K; Bourvagnet, P; Kuma, K; Hayashida, H; Miyata, T; Honjo, T (1998). “The complete nucleotide sequence of the human immunoglobulin heavy chain variable region locus” . The Journal of experimental medicine 188 (11): 2151–62. doi :10.1084/jem.188.11.2151 . PMC 2212390 . PMID 9841928 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2212390/ .
^ Li A, Rue M, Zhou J et al. (June 2004). “Utilization of Ig heavy chain variable, diversity, and joining gene segments in children with B-lineage acute lymphoblastic leukemia: implications for the mechanisms of VDJ recombination and for pathogenesis” . Blood 103 (12): 4602–9. doi :10.1182/blood-2003-11-3857 . PMID 15010366 . http://www.bloodjournal.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=15010366 .
参考文献
Hartwell LH, Hood L, Goldberg ML, Reynolds AE, Silver LM, Veres RC (2000). Chapter 24, Evolution at the molecular level. In: Genetics . New York: McGraw-Hill. pp. 805–807. ISBN 0-07-299587-4
V(D)J Recombination. Series: Advances in Experimental Medicine and Biology, Vol. 650 Ferrier, Pierre (Ed.) Landes Bioscience 2009, XII, 199 p. ISBN 978-1-4419-0295-5
関連項目