P-270 モスキート(ロシア語: П-270 «Москит»:「蚊」の意)は、1984年にソビエト連邦で配備された艦対艦ミサイルである。GRAUインデックスは3M80、空対艦型はKh-41と呼ばれている。
また、西側諸国においては、アメリカ国防総省(DoD)識別番号のSS-N-22、NATOコードネームのサンバーン(Sunburn:「日焼け」の意)などの名称で知られている[1]。
開発・配備
P-270は、1970年代にラドゥガ設計局にてP-15 テルミート(SS-N-2 スティックス)の後継ミサイルとして開発が開始された。そのため、サイズと重量をP-15と同等とすることが求められた。しかし、P-15よりコンパクトに収める目論見は成功せず、P-15の全長6.5m・直径0.78mに対し、P-270は全長9.745m・直径0.74mとほぼ1.5倍のサイズ、重量もP-15の2,500kgに対しP-270は4,500kgとやはり倍近いミサイルとなった。そのためか、配備はソヴレメンヌイ級駆逐艦、ウダロイII級駆逐艦、タランタルIII級ミサイル艇にとどまり、P-15装備艦への換装は行われなかった。
P-270の推進系はインテグラル・ロケット・ラムジェット (integral rocket ramjet、IRR) である[2]。旧ソ連では実用化が早く、同海軍では1980年代初頭から使われていた方式であった。当時は、「西側には無い先進性」であったが、現在では日本のASM-3など世界的に広まっている。
目標が近距離の場合は艦艇のレーダー(ソヴレメンヌイ駆逐艦はMR-331 バンド・スタンド)、遠距離の場合は艦載ヘリコプター・航空機からの目標情報により照準・発射され、ロケットによりM2前後まで加速する。最小射程は3km。巡航はラムジェットによりM2.5で高度20mを飛行する。敵による発見を避けるためには低空を飛行し、地球の丸みの陰に隠れるのが有効だが、超音速ミサイルは低空に降りすぎると衝撃波が海水を巻き上げ、かえって発見されやすくなる。20mの巡航高度は、この2つの要素から導かれたと思われる。ミサイルのコースから発射艦の位置をたどられないように迂回したコースを飛行させることもできる。P-270は一般的な艦船のレーダー見通し距離(12nm、約22.2km)を30秒足らずで飛行するため、「迎撃されることの無いミサイル」と呼ばれる事もあるが、実際にはP-270自身の見通し距離に艦船のレーダー見通し距離を足した距離で探知されてしまうため、それほど安全には飛行できない。そこで、目標まで5-7kmまで接近すると高度を7mに下げ、目標の艦からの攻撃を回避するため10-15GのS字運動をしながら突入する。命中すると300kgの徹甲弾頭のみならず、弾体の運動エネルギー(理論上戦艦大和の主砲弾(重量1.46t、初速M2.3)より大きい)、残存燃料による火災も目標に多大なダメージを与える。
現在、P-270と同等以上の性能を持ち、よりコンパクトなP-800 ヤーホント対艦ミサイルが実用化されており、これ以上P-270装備艦が増えることは無いと思われる。
1999年、ロシアは中国にソブレメンヌイ級駆逐艦を2隻(P-270は3M80E低空巡航においては射程150km、最大射程250km)輸出、その後更に2隻(P-270は3M80BEで射程は低空巡航において射程200km)を輸出した。また、ベトナムにはタランタルIII級ミサイル艇が輸出されている。
仕様諸元
- 射程:
- 最低:10km
- 最大(3M80E/3M80E1):120/100km
- 飛行速度:2,800km/h
- 巡航高度:20m
- 船の外側面に対して相対的な発射範囲 角度±60°
- 発射準備時間:
- ミサイル起動から最初の発射まで:50秒
- 戦闘体制から:11秒
- ミサイル発射間隔(一斉射撃で):5秒
- 発射重量:
- 3M80E ミサイル:4,150kg
- 3M80E1 ミサイル:3,970kg
- 弾頭種類:徹甲弾
- 弾頭重量:300kg
- 寸法:
- 全長:9.385m
- 機体直径:0.8m
- 翼幅:2.1m
- 格納時の翼/尾翼幅:1.3m
運用国
- ソビエト連邦
- 開発国であり、最初の運用国。
- ロシア
- ソ連の装備や生産を継承。
- インド
- 水上艦用に購入。
- 中華人民共和国
- 水上艦用に購入。
脚注
外部リンク