ブッシュが想像した memex は、個人が所有する全ての本、記録、通信内容などを圧縮して格納できるデバイスであり、「高速かつ柔軟に参照できるように機械化されている」ものである。memex は「個人の記憶を拡張する個人的な補助記憶」を提供する[1]。memex の概念は後のハイパーテキスト開発(さらには World Wide Web の創造)や個人用知識ベースソフトウェア開発に多大な影響を与えた[2]。
memexのビジョンは1960年代の初期の実用的なハイパーテキストシステムの着想を与えたとされている。ブッシュがAs We May Think(英語版)で示したmemexなどのビジョンは1930年代と1940年代の既知のテクノロジーから外挿したもので、ジュール・ヴェルヌの考え方やアーサー・C・クラークが1945年に提案した静止衛星による通信などと近い。ブッシュの提案したmemexはマイクロフィルムのコマとコマにリンクを設定できるが、現在のハイパーリンクのように文書の中の単語や文節や画像をリンクすることはできない。
ブッシュは「技術的困難さは度外視している」と記しているが、同時に「真空管の出現で技術が大きく進歩したように、将来重要な新技術が登場するかもしれない点も無視している」と記している。実際、AWMTのビジョンをマイクロフィルムで実現することは、月へ人間を送り込むのにジュール・ヴェルヌの夢想した大砲を使うのと似たようなものである。どちらの場合もビジョンそのものが重要なのであって、それを詳述する際のテクノロジーは重要ではない。マイケル・バックランド(英語版)は、「ブッシュのこの分野への貢献は2つある。1つは高速マイクロフィルム・セレクターを実際に試作したという工学上の業績、もう1つは "As We May Think" という思索的論文を書いたことで、熟達した文章と著者の社会的名声によって大きくしかも長く続く反響があり、それが他者を刺激する効果を発揮した」と結論付けている[7]。
"Memex: Getting Back on the Trail"[8]の中でティム・オレンは、AWMTでブッシュが描いたビジョンについて「百科事典と仲間の航跡を自分の成果に取り入れることができる個人用機器」と表現している。
バックランドがこれを書いたのは World Wide Web (WWW) の黎明期であり、WWWは1991年に登場したが1993年ごろまで広く使われるには至っていない。初期のウェブはとにかくリンクするのが支配的(連想的)だった。分類やインデックスといった部分はその後に発達し、検索エンジンによる自動インデックスが分類しようとする努力を上回る卓越性を獲得したが、どちらもリンクと相補的であり続けている。バックランドが memex だけでなく初期のWWWについても同様の誹謗を行ったかは不明である。インデックス(検索エンジン)が不慣れな主題を扱う際に最も適切な手段であることが後に明らかになったが、連想的リンクも対象領域について学ぶ際の効果的なナビゲーション方法であり続けている。インターネット時代において、リンクは一般にそのページの作者が自覚的に埋め込むが、インデックスは一般に常に機械的である。ブッシュがインデックスに卓越性を認めなかったのは、その有効性を見誤ったというよりも、単にインデックス生成の機械的プロセスを想像できなかっただけかもしれない。
As We May Think ではハイパーテキストだけでなく様々な未来の発明(パーソナルコンピュータ、インターネット、World Wide Web、音声認識、ウィキペディアのようなオンラインの百科事典など)を予測していた。ブッシュは次のように書いている。「全く新しい形式の百科事典が出現するだろう。事前に用意された連想の航跡(associative trails)が項目間を走り、memexにそのまま入れることができ、memexの機能を拡大するものである。」
^ abBuckland, Michael K. "Emanuel Goldberg, Electronic Document Retrieval, And Vannevar Bush's Memex". Journal of the American Society for Information Science 43, no. 4 (May 1992): 284–294
^ abNyce, James M.; Kahn, Paul (eds.) "From Memex to Hypertext: Vannevar Bush and the Mind's Machine". San Diego, London (...) 1991. [A reprint of all of Bush's texts regarding Memex accompanied by related Sources and Studies]