近接航空支援 (英語 : Close Air Support, CAS )は、火力支援 目的に行われる航空作戦 。[1]
方法
火力支援 という性格上、最前線 で活動する味方地上部隊 との綿密な調整と、攻撃機 に対する厳格な統制 が必要とされる。これは、射爆撃 の効果を最大化するとともに、誤爆 を防ぐためのものである。
アメリカ空軍 の場合、戦術航空統制センター(TACC)が統制中枢とされ、この隷下に、各地上部隊に随伴する戦術航空統制班(TACP )および観測機 に搭乗した統合末端攻撃統制官 (JTAC)が前線航空管制業務を実施する。TACPには、必ず1人のJTACが含まれるほか、場合により、空軍との連絡将校 である航空連絡官(ALO)も加わることになる。これらの手法は、多くが砲兵 の間接射撃 から導入されたものであり、FACは砲兵の観測班(FO)に、TACCは射撃指揮センター(FDC)に相当する。
攻撃機に対する管制は、具体的な進入経路の指示のほか、発煙弾 やレーザー目標指示装置 により攻撃目標をマーキングしたり、地理座標系 に基づく座標 データを伝達することによっても行われる。
近接航空支援による火力 投射は、砲兵 による支援射撃 と同じカテゴリーに属するが、投射可能な火力の量と持続可能な時間において異なっている。すなわち、近接航空支援は、任意の場所に大火力を瞬間的に投射できる一方、特定の場所への持続的な火力投射には不向きという特性を有している。
使用される機体は状況によって様々である。攻撃ヘリコプター は、もっとも手軽な近接航空支援火力であり、また、多くの国では陸軍 の管轄であることから、地上部隊との連携にも優れるが、対空兵器 に対して脆弱であるという欠点がある。
固定翼機の場合、通常は小回りがきく小型の戦闘機 や攻撃機 であることが多い。速度は必ずしも重視されないどころか、むしろ遅い速度で所定の(とくに低い高度の)空域に滞空し続けられる特性や燃費 の良さが要求されることも少なくない。さらに、低速で低空を巡航することは敵の対空砲火 にさらされやすくなることを意味するため、A-10 サンダーボルトII やSu-25 フロッグフット のように近接航空支援を主目的とする機体では、速度よりもペイロード と防御装甲 が重視されている。現在では誘導兵器の発達により、B-52 ストラトフォートレス などの大型機で高空から支援を行うことも可能になってきている。直接の火力投射としては爆弾 ・ロケット弾 ・空対地ミサイル が使用されるが、低空を飛行する小型機の場合は機銃掃射 も行われる。
歴史
近接航空支援そのものは、空軍 力の任務としては古典的なものであるが、航空優勢 の獲得競争という本格的な航空戦 の開始とともに、その重要性は相対的に低下したものとみなされた。しかし、アメリカ海兵隊 の海兵隊航空団 は、海兵隊の地上部隊 の支援が主任務の1つであったことから、近接航空支援任務を依然として重視しており、研究を重ねていた。この結果として開発された攻撃法の1つが急降下爆撃 であり、1927年 にニカラグア におけるサンディーノ戦争 で実戦投入された。
急降下爆撃法および近接航空支援の運用法は世界各国に影響を与えたが、特にドイツ空軍 において影響が大きかった。ドイツ軍 は当時、陸軍 の装甲部隊 化を推進していたが、支援火力 を提供する砲兵 部隊の戦術 機動力 が不足していることが師団 の機動を制約していた。そこで、支援火力を近接航空支援に大きく依存することにより、機甲師団 の機動力を大幅に向上させうることから、電撃戦 ドクトリン が採択されるに至ったのである。
大祖国戦争 (独ソ戦 )にて、このドイツ空軍と対峙したソビエト連邦軍 は、シュトゥルモヴィーク (襲撃者)と呼ばれる、重装甲 ・大口径 機関砲 を装備した近接航空支援を主任務とする攻撃機 でドイツの電撃戦 戦術に対抗し、成形炸薬 弾頭 を有するロケット弾 を主体とする襲撃戦法でドイツ機甲部隊を打ち破っている。第二次世界大戦 後、西側諸国 では近接航空支援の任務を対地攻撃用兵装の攻撃機や軽攻撃機が担当し、近接航空支援専用機はほぼ無くなった[2] が、ロシア連邦 ではその後もシュトゥルモヴィークと呼ばれる機種区分は存在し続けている。
日本陸軍 ではシュトゥルモヴィークに相当する任務を行う攻撃機を「襲撃機」と呼称しており、「軽快な低空運動性・低搭載量・低常用高度・固定機関砲装備・装甲装備」が航空撃滅戦 を主任務とする爆撃機 との主な違いであった[3] 。
脚注
^ A Dictionary of Aviation, David W. Wragg. ISBN 0850451639 / ISBN 9780850451634 , 1st Edition Published by Osprey, 1973 / Published by Frederick Fell, Inc., NY, 1974 (1st American Edition.), Page 29.
^ 青木謙知『ミリタリー選書1現代軍用機入門(軍用機知識の基礎から応用まで)』イカロス出版13頁
^ 陸軍航空本部第三課 『陸軍航空兵器研究方針ノ件達』 1940年4月、アジア歴史資料センター、Ref:C01005534700
参考文献
宮本 勲「近接航空支援の今昔」『航空ファン 』第632集、文林堂、2005年8月、65-68頁。
「99式艦上爆撃機の開発と運用,実績」『世界の傑作機No.33 99式艦上爆撃機』、文林堂、1992年3月、14-21頁。
関連項目