貧困の文化(ひんこんのぶんか、英: culture of poverty)は、人類学者オスカー・ルイスが著書『貧困の文化―メキシコの“五つの家族”』(1959年)の中で用いた表現で、貧困者が貧困生活を次の世代に受け継ぐような生活習慣や世界観を伝承しているという考え。
松岡陽子は「貧困の文化」理論のエッセンスを次の16点に集約している[1]。
〈貧困の文化〉論の核となっているのは「野心の少なさ、あきらめの気持ちや宿命論」であり、ルイスはそれらを鍵概念として度々指摘している[2]。そしてそれらは「希望(宗教的な救済でも地位達成願望でも運動的な目標でもよい)」という将来に対する見通しによって変わってくるものであり、「希望」の有無が〈貧困の文化〉を持つかどうかの分水嶺となっている[2]。
「貧困の文化」論は。民主党のダニエル・パトリック・モニハン[注 1]上院議員のモニハン・レポートなどに採用され、アメリカの対貧困政策に大きな影響を与えている。
その一方で、ルイスがこの概念を提案して以来、人類学者や社会学者などから数多くの批判がなされており、しかもルイスのモデルはそもそも現実のデータとあっていない(Goode and Eames, 1996)と指摘される。またこの概念は、本来発展途上国を対象としたものである為、先進国の政策に応用するのは不適切とされる。
ルイスの研究は古典的な社会保障の立場から、一種の犠牲者非難であるという指摘もある[3]が、〈貧困の文化〉をめぐる問題の根底には、研究の最終的な到達点の違い(「貧困」の根絶か、「生き生きとした生活」を可能にする条件の実現か)があり、単なる犠牲者非難に堕すのではないとも指摘される[2]。