炭酸水素ナトリウム
炭酸水素ナトリウム (Sodium hydrogen carbonate)
識別情報
CAS登録番号
144-55-8
PubChem
516892
ChemSpider
8609
UNII
8MDF5V39QO
日化辞 番号
J44.042F
EC番号
205-633-8
E番号
E500(ii) (pH調整剤、固化防止剤)
DrugBank
DB01390
KEGG
C12603
MeSH
Sodium+bicarbonate
ChEBI
ChEMBL
CHEMBL1353
RTECS 番号
VZ0950000
ATC分類
B05 CB04 ,B05XA02 (WHO )
バイルシュタイン
4153970
InChI=1S/CH2O3.Na/c2-1(3)4;/h(H2,2,3,4);/q;+1/p-1
Key: UIIMBOGNXHQVGW-UHFFFAOYSA-M
InChI=1/CH2O3.Na/c2-1(3)4;/h(H2,2,3,4);/q;+1/p-1
Key: UIIMBOGNXHQVGW-REWHXWOFAQ
特性
化学式
NaHCO3
精密質量
83.982338573 g mol−1
外観
白色結晶
密度
2.20 g cm−3 [2]
融点
50 °C , 323 K, 122 °F (分解)
水 への溶解度
103 g/L;[2] 69.3 g/L (0 ℃);[3] 236 g/L (100 ℃)[3]
log POW
-0.82
酸解離定数 pK a
10.329[4]
6.351 (炭酸)[4]
屈折率 (n D )
1.3344
構造
結晶構造
単斜晶系
薬理学
投与経路
静脈注射, 経口
危険性
安全データシート (外部リンク)
SDS AGC SDS例 厚生労働省 ICSC 1044
主な危険性
激しい目のかゆみ
NFPA 704
半数致死量 LD50
ラット、経口 4,220 mg/kg[5] [6]
関連する物質
その他の陰イオン
炭酸ナトリウム
その他の陽イオン
炭酸水素アンモニウム 炭酸水素カリウム
関連物質
硫酸水素ナトリウム リン酸水素ナトリウム
特記なき場合、データは常温 (25 °C )・常圧 (100 kPa) におけるものである。
炭酸水素ナトリウム (たんさんすいそナトリウム、英 : sodium hydrogen carbonate )、別名重炭酸ナトリウム (じゅうたんさんナトリウム、英 : sodium bicarbonate 、ソディウム バイカーボネイト、ビカ、重炭酸曹達(ソーダ)、略して重曹 とも)は、化学式 NaHCO3 で表される、ナトリウム の炭酸水素塩 である。
常温 で白色の粉末 状である。水溶液のpH はアルカリ性 を示すものの、フェノールフタレイン を加えても変色しない程度の弱い塩基性である。水には少し溶解し、メタノール にもわずかに溶解するものの、エタノール には不溶である。具体的には、水(0 ℃) 100 g につき 6.9 g、水 (20 ℃) 100 g につき 9.6 g、メタノール(25 ℃) 100 g につき 0.8 g 溶解する。
合成
塩化ナトリウム 溶液の電気分解 で得られた水酸化ナトリウム 溶液に、二酸化炭素 を反応させて製造する。
NaOH
+
CO
2
⟶ ⟶ -->
NaHCO
3
{\displaystyle {\ce {NaOH + CO2 -> NaHCO3}}}
工業的には、ソルベー法 によって多量に製造される。これは、炭酸水素ナトリウムの水への溶解度 が比較的低いことから沈殿 することによる、複分解 反応である。
NaCl
+
H
2
O
+
NH
3
+
CO
2
⟶ ⟶ -->
NH
4
Cl
+
NaHCO
3
↓ ↓ -->
{\displaystyle {\ce {NaCl + H2O + NH3 + CO2 -> NH4Cl + NaHCO3 (v)}}}
(矢印↓は沈殿を意味する)
また、天然の鉱物を精製しても得られる。日本ではAGC や東ソー ・トクヤマ などが生産している。
反応
ソルベー法の過程で得られた炭酸水素ナトリウムは、焼成することによって炭酸ナトリウム の原料となる。
2
NaHCO
3
→
Δ Δ -->
Na
2
CO
3
+
CO
2
+
H
2
O
{\displaystyle {\ce {2NaHCO3 ->[\Delta] Na2CO3 + CO2 + H2O}}}
炭酸水素ナトリウムは、炭酸の酸解離定数 がpK a 1 = 6.3、pK a 2 = 10.3 であるため、水溶液は pH = 8.3 程度の弱い塩基性を示す。
HCO
3
− − -->
+
H
2
O
↽ ↽ -->
− − -->
− − -->
⇀ ⇀ -->
H
2
CO
3
+
OH
− − -->
,
{\displaystyle {\ce {HCO3^- + H2O <=> H2CO3 + OH^- ,}}}
pK a
=
6.3
{\displaystyle =6.3}
HCO
3
− − -->
+
H
2
O
↽ ↽ -->
− − -->
− − -->
⇀ ⇀ -->
CO
3
2
− − -->
+
H
3
O
+
,
{\displaystyle {\ce {HCO3^- + H2O <=> CO3^2- + H3O^+ ,}}}
pK a
=
10.3
{\displaystyle =10.3}
酸と反応して炭酸と塩を与え、炭酸は二酸化炭素と水に分解する。
NaHCO
3
+
HCl
⟶ ⟶ -->
NaCl
+
H
2
CO
3
{\displaystyle {\ce {NaHCO3 + HCl -> NaCl + H2CO3}}}
H
2
CO
3
⟶ ⟶ -->
H
2
O
+
CO
2
↑ ↑ -->
{\displaystyle {\ce {H2CO3 -> H2O + CO2 (^)}}}
酢酸 と反応すると酢酸ナトリウム を与える。
NaHCO
3
+
CH
3
COOH
⟶ ⟶ -->
CH
3
COONa
+
H
2
O
+
CO
2
↑ ↑ -->
{\displaystyle {\ce {NaHCO3 + CH3COOH -> CH3COONa + H2O + CO2 (^)}}}
水酸化ナトリウム と反応して炭酸ナトリウム を与える。
NaHCO
3
+
NaOH
⟶ ⟶ -->
Na
2
CO
3
+
H
2
O
{\displaystyle {\ce {NaHCO3 + NaOH -> Na2CO3 + H2O}}}
熱分解
加熱 により、炭酸ナトリウム、二酸化炭素、水に分解する。粉末は270 ℃で分解し、水溶液は放置しておいても徐々に分解してゆくが、65 ℃以上で急速に分解する。なお、常温・常圧 であっても空気中には水分が含まれるため、放置しておくと少しずつ分解していく。
2
NaHCO
3
→
Δ Δ -->
Na
2
CO
3
+
H
2
O
+
CO
2
{\displaystyle {\ce {2NaHCO3 ->[\Delta] Na2CO3 + H2O + CO2}}}
用途例
消火剤
粉末化し、流動性付与剤として無水ケイ酸 やホワイトカーボン を加え、防湿剤として金属石鹸 やシリコーンオイル をコーティングしたものが、消火剤として用いられる。消防法施行規則第21条の規定による第一種粉末消火薬剤であり、B火災(油火災)とC火災(電気火災)に適応していることから、「BC粉末消火剤」とも呼ばれる。
熱分解 によって生成されたナトリウムイオンと燃焼反応で生じる遊離基 (OH•、H•)が結合することで燃焼の継続を抑制するのが、粉末消火薬剤の消火原理である。安価であることから、化学消防車 や消防艇 の粉末消火装置に用いられる。
2
NaHCO
3
⟶ ⟶ -->
Na
2
CO
3
+
CO
2
+
H
2
O
{\displaystyle {\ce {2NaHCO3 -> Na2CO3 + CO2 + H2O}}}
Na
2
CO
3
⟶ ⟶ -->
Na
2
O
+
CO
2
{\displaystyle {\ce {Na2CO3 -> Na2O + CO2}}}
Na
2
O
+
OH
⋅ ⋅ -->
+
H
⋅ ⋅ -->
⟶ ⟶ -->
2
NaOH
{\displaystyle {\ce {Na2O + OH . + H . -> 2NaOH}}}
また、酸と反応して二酸化炭素を発生するので、泡消火器、酸アルカリ消火器にも用いられる。
中和剤
鉛蓄電池 の電解液(希硫酸 )の中和剤としても用いられる。
調理
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調理用の重曹
食品添加物 として調理 に使われる。
加熱によって二酸化炭素を発生する性質から、食材に練りこんで加熱すると、多孔質でフワフワかつサクサクした生地ができる。ベーキングパウダー の代替品として速成パン (特に炭酸水素ナトリウムを用いて膨張させた速成パンはソーダブレッド と呼ばれる)やクッキー 、パンケーキ 、どらやき などを膨らませるのに用いられるほか、カルメ焼き の欠かせない材料である[注釈 1] 。
口中で炭酸ガスを発生させるソーダ 飴 には、粉末で封入される。ワラビ などの山菜やタケノコ のアク 抜き、松の実 などの臭み取り、豆を早く煮るための添加、肉を柔らかくする下ごしらえといった用途のほか、グレープフルーツ や夏みかん の強烈な酸味 を中和させるために直接かけることや、冷凍エビ の食感の改善などにも使うことができる。また、中華麺 を打つときに入れるかん水 (炭酸ナトリウムが主)の代用として麺打ちにも使われる。
このように食品に使用され安全性も高いが、大量に摂取するとアルカローシス などの問題を引き起こす恐れがあるとされているので、特に幼児が誤食しないように注意する必要はある。合わせて、体重 1 kg 当たり約 1.26 g で、呼吸器 に異常をきたすとのデータもある[7] (ただし、通常これほどの量を摂取するとは考えにくい)。
pH調整剤
pH調整剤 として添加の効果が認められている[8] 。代謝性アルカローシス は、明らかな血圧 降下作用を惹起すると指摘されている[9] 。
「炭酸水の素」
水に炭酸水素ナトリウムとクエン酸 を混ぜるだけで、炭酸ガス が発生して炭酸水 となるので、飲料の材料としても用いられる。砂糖 を加えてサイダー にすることや、レモン を加えてレモンソーダにするということも可能である。ただし、混ぜる際にはクエン酸ナトリウム も発生するため、加圧による炭酸飽和 で作られる市販の炭酸水とは味が異なる。
市販の粉末ジュース の素としても利用されている。
洗浄・脱臭
この節の内容の信頼性について検証が求められています 。 確認のための文献や情報源 をご存じの方はご提示ください。出典を明記し 、記事の信頼性を高めるためにご協力をお願いします。
研磨効果、鹸化(乳化 )効果から、洗剤 や洗剤の補助としてティーカップなどの茶渋 落とし、換気扇などの固着した油汚れ・焦げ落とし、練り歯磨き やうがい などに使用される[注釈 2] 。
高温のスチームと重曹を高圧洗浄器で噴射することにより、重曹の粒によるブラスト効果でコンクリート表面の汚れや落書きを効率的に除去する工法が開発されている。
重曹は、水質汚染 で問題とされるBOD ・COD 値がなく、環境ホルモン も含まれていないので、自然破壊 を引き起こさない。また、食品添加物としても使用できるほど、人体に安全であることも売りとなっている。
重曹と油脂が混じると、脂肪酸ナトリウム(石鹸 )が生成される。重曹水は石鹸水より弱いアルカリ性であり、油脂に対する洗浄効果は弱い。重曹は水に溶けにくく、十分に撹拌しなければ洗浄効果が低下する。携帯ポットなどは洗いにくいうえに洗剤が落ちにくいが、重曹はその点で洗い残しがあっても安全である。
酸性 の臭い に対する脱臭 効果があり、肉・魚臭さの消臭や靴箱の脱臭剤などにも使用できる。
入浴
天然の温泉 に含まれる場合は重曹泉 となり、これを模した入浴剤 も多くある。
医薬品
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この節は検証可能 な参考文献や出典 が全く示されていないか、不十分です。 出典を追加 して記事の信頼性向上にご協力ください。(このテンプレートの使い方 ) 出典検索? : "炭酸水素ナトリウム" – ニュース · 書籍 · スカラー · CiNii · J-STAGE · NDL · dlib.jp · ジャパンサーチ · TWL (2020年11月 )
医療用医薬品 として、商品名メイロン [11] として販売されてきたが、後発医薬品も幾つか販売されている。胃酸 過多に対しては経口摂取による制酸剤 として使われる。あくまでその場限りの対症療法 であり、根治とはならない。また、胃液 には塩酸 が含まれていることから炭酸水素ナトリウムは急速に分解し、二酸化炭素 の気泡が発生する。この気泡が胃 を刺激し、さらなる胃液の分泌を促進することが知られている。
また、点滴剤はアシドーシス の対症療法 に用いられる。ただし、近位尿細管性アシドーシス に対しては、点滴ではなく経口的に投与し続けることでアシドーシスの補正を行う。なお、投与がナトリウム の過剰摂取につながり、高ナトリウム血症 となることが稀にある。また、炭酸水素ナトリウムを服用または静脈内への水溶液の注射などをすると、尿 のpH をアルカリ側に傾けること(=pHを上げること)ができる。このため、尿のpHが上がると排泄が速くなるような薬物(例えばフェノバルビタール )を、腎臓から尿中へより速く排泄させるために炭酸水素ナトリウムを投与する場合がある[12] 。
加えて、めまいを抑制することが経験則として判明している(内耳血流を増加させ、内耳虚血時の酸素分圧の低下を抑制していると考えられるが、発作時における三半規管の状態が観測困難であるため、いまだ確定はしていない)ことから、メニエール症候群 を代表とする内耳障害による悪心・嘔吐を伴う発作に際しては、点滴剤に制吐剤を加えたうえで投与される。これは前述の通り、虚血部位である内耳のアシドーシスの補正・排泄サイクルの鋭化に基づく耳石の排出力の上昇など、炭酸水素ナトリウムの薬効性が複合的に機能することもあり、特に経口摂取が不可能なほどの重篤な発作においては有用となる。
このほか、炭酸水素ナトリウムと無水リン酸二水素ナトリウム を混合したものを、坐剤 として直腸内へ挿入することがある。この2つの物質が反応することによって直腸内で二酸化炭素が発生することを利用し、直腸性便秘(腫瘍などの便の通過障害となる器質的な原因が無く、かつ大腸の動きが鈍いことも原因ではない、直腸に便が溜まるタイプの便秘)の治療に用いられることがある。直腸内で二酸化炭素が発生すると直腸の粘膜を刺激し、結果として排便を促す効果があるとされている[13] 。なお、大腸内に二酸化炭素が入り込んでも、いずれ粘膜を通して生体内に吸収されてしまうことが知られている。
臨床応用
農業・園芸
酸性土壌 の中和 に用いれば、アルカリ性の土壌を好む植物の生育が良くなる場合があるが、通常、ナトリウムは植物に害を及ぼすので(動物と違い、通常の植物ではナトリウムは有効な生体構成材料として利用できないため(詳細は栄養素 (植物)#ナトリウム を参照)、多くの植物にとって土壌に残留すると成長に悪影響を及ぼす)、一般的には土壌の中和は重曹ではなく、消石灰(水酸化カルシウム )や炭酸カルシウム が用いられる。一方、農薬としてはハーモメイト水溶剤が登録され、ウドンコ病 などを防除するために一般に販売されている。ただし、炭酸水素ナトリウムは葉を褐変させる薬害が起こりやすいため、より薄い濃度で高い殺菌効果を持つうえに水溶性加里肥料の供給にもなる炭酸水素カリウム (市販の農薬としてはカリグリーン水溶剤がある)の方が多く用いられる[14] 。
学習目的の実験
炭酸水素ナトリウムの熱分解
中学理科の「化合物 の分解 」でよく用いられ、生成する二酸化炭素を石灰水 の白濁から、水を塩化コバルト 紙の赤変から確認する。この実験を行う際には、発生した水が加熱部に流れて試験管 が破損することを防ぐため、加熱する試験管の口を加熱部よりやや下向きにしておく必要がある。また、加熱している試験管から気体採取用にガラス管 をつないであり、その先端が水中にある場合は、実験終了の際には加熱を止める前にガラス管を水中から出しておく必要がある。これは、加熱を止めて試験管内の空気が冷え、気圧が下がった際にガラス管を通じて水が逆流し、試験管が破損することを防ぐためである。
脚注
注釈
出典
関連項目
外部リンク