『世界を騙しつづける科学者たち』(せかいをだましつづけるかがくしゃたち、原題: Merchants of Doubt[† 1])は、アメリカの科学史家ナオミ・オレスケスとエリック・M・コンウェイによる2010年のノンフィクション本である。日本語版は2011年に楽工社から出された。本書では地球温暖化に関する論争と、それ以前の喫煙、酸性雨、DDT、オゾンホールなどに関する科学的論争に共通点があるという指摘がなされている。著者らによると、これらすべての論争において、規制に反対する側は、科学的なコンセンサスが成立した後になっても疑念を喚起して混乱を作り出すことで「論争を終わらせずにおく」という基本戦術を取った[1]。特に、フレッド・サイツとフレッド・シンガー(英語版)をはじめとする反主流論者(英語版)の科学者が保守系シンクタンクや民間企業と結託して多くの現代的問題に関する科学的コンセンサスを攻撃してきたとされた[2]。
本書は題材となった人物から批判を受けているが、ほとんどのレビュアーには好意的に受け止められた。あるレビュアーは、本書は徹底的な調査によって裏付けられており、2010年の最も重要な書籍に数えられると評した。別のレビュアーは本書を科学関連書籍の年間ベストに選んだ[3]。2014年にはロバート・ケナー監督により『世界を欺く商人たち(原題: Merchants of Doubt )』のタイトルで映画化された[4]。
本書の最も重要な結論は、反主流論者の「専門家」たちがイデオロギー的な動機によって規制論を支える科学の信用を失墜させようとしなかったなら、政策決定はもっと早く進んだはずだということである[9]。同様の結論はオーストラリアの学者クライブ・ハミルトンによる先行書 Requiem for a Species(英語版)(2010年)ですでに、特にサイツとニーレンバーグについて引き出されていた。
バド・ワードは The Yale Forum on Climate and the Media で本書のレビューを公刊した。ワードによると、オレスケスとコンウェイは学者としての徹底的な調査と最上の調査報道を思わせる筆致の組み合わせによって「環境問題と公衆衛生に関する過去の論争が深いところでつながっていたことを解き明かした」という[12]。気候科学に関しては、「著者らによると気候科学の専門性に乏しい科学者の小集団による、著者らがいうところの科学の乱用・悪用に対する蔑み」が包み隠さず表明されていると書いた[12]。
フィル・イングランドは『エコロジスト(英語版)』で、綿密な調査と、重要な事件に関する詳細な記述が本書の強みだと書いた。しかし同時に、気候変動についての章が50ページしかないことを指摘し、より広い観点から情勢を見渡したい読者のために関連書としてジム・ホガン(英語版)の Climate Cover-Up、ジョージ・モンビオ(英語版)の Heat: How to Stop the Planet Burning[† 2]、ロス・ゲルブスパン(英語版)の The Heat is On および Boiling Point を推薦している。イングランドはまた、地球温暖化に対する否認と疑念喚起を活発に行っているいくつかの団体がエクソンモービルから数百万ドルの資金供与を受けていることがほとんど書かれていないと述べた[13]。
著者の一人ナオミ・オレスケスはハーバード大学に在籍する歴史学と科学論の教授であり、地質学の学位と、地質学研究および科学史の博士号を持っている。オレスケスは2004年に『サイエンス』誌に掲載された論文 "The Science Consensus on Climate Change"(気候変動に関する科学的コンセンサス)で人間活動に由来する地球温暖化が事実だということに科学界から大きな異論はないと書き、注目を集めるようになった[18]。もう一人の著者エリック・M・コンウェイは、パサデナ市カリフォルニア工科大学にあるNASAのジェット推進研究所に所属する歴史家である[18]。
類書
Doubt Is Their Product: How Industry's Assault on Science Threatens Your Health (2008) by David Michaels
Climate Cover-Up: The Crusade to Deny Global Warming (2009) by James Hoggan and Richard Littlemore
Climate Change Denial: Heads in the Sand (2011) by Haydn Washington and John Cook
脚注
注釈
^原題: Merchants of Doubt: How a Handful of Scientists Obscured the Truth on Issues from Tobacco Smoke to Global Warming(疑念の商人: タバコの煙から地球温暖化まで、一握りの科学者がどのように真実を攪乱したか)
^Christian Rohr, Die Machiavellis der Wissenschaft. Das Netzwerk des Leugnens. In: Physik in unserer Zeit 46, Issue 2, 2015, p. 100, doi:10.1002/piuz.201590021.
^O'Keefe (June 2010). “Clouding the Truth: A Critique of Merchants of Doubt”. Policy Outlook. George C. Marshall Institute. 2015年3月12日閲覧。 “Although cloaked in the appearance of scholarly work, the book constitutes an effort to discredit and undermine the reputations of three deceased scientists who contributed greatly to our nation... This book questions their integrity, impugns their character, and questions their judgment on the basis of little more than faulty logic and preconceived opinion”[リンク切れ]