ワンガヌイ川 (英 : Whanganui River 、ファンガヌイ川)は、ニュージーランド 北島 の主要河川である。国内で3番目に長い川であり、地元マオリ の人々にとっての重要性から特別な地位を持つ。2017年3月、ワンガヌイ川は、テ・ウレウェラ に次いで、法人 の権利、義務、責任を有する法的人格 が与えられた世界で2番目の天然資源となった。ワンガヌイにおける条約和解により、ニュージーランド史上最も長く続いた訴訟が終結した[ 2] [ 3] 。
地理
ワンガヌイ川は全長290キロメートルで、ニュージーランドで3番目に長い川である。上流部の両岸の土地の大部分がワンガヌイ国立公園 の一部となっているが、川自体は国立公園に含まれていない。
ワンガヌイ川は、ロトアイラ湖 (英語版 ) の近く、トンガリロ山 北側斜面を水源とする。北西に向かって流れた後、タウマルヌイ (英語版 ) で南西に方向を変え、キング・カントリー (英語版 ) の荒涼とした藪の生い茂る丘陵地を抜け、南東に方向を変えてピピリキ (英語版 ) とジェルサレム (英語版 ) の2つの集落を通り、ワンガヌイ で海岸に到達する。ワンガヌイ川は、ニュージーランドで最も長い航行可能河川の1つである[ 4] 。
ワンガヌイ川の流域は、1843年のワンガヌイ地震 (英語版 ) で変化した。
1970年代、ルアペフ山 の小規模噴火により、ルアペフ火口湖から内容物が一部噴出した(タンギワイ災害 (英語版 ) の根本原因と同じ)。これにより、有害水がワンガヌイ川に流れ込み、下流の魚類の大半が死滅する影響が出た。また、支流のファカパパ川では、1975年4月にルアペフからのラハール により魚類が被害を受けた[ 5] 。
支流
歴史
マタヒウィのカワナ製粉所(1854年、修復済み)
マオリ の伝説では、タラナキ山伝説 (英語版 ) で川の形成が説明されている。タラナキ山が中央台地 (英語版 ) を離れて海岸へ向かった時、地面が裂けて開き、割れ目を川が満たした。
別のマオリの伝説では、マウイ が後にニュージーランドの北島 となる「テ・イカ・ア・マウイ」という巨大魚を釣り上げた後、ランギヌイ (英語版 ) に祈ると、ランギヌイの涙が2滴、マウイの魚に降り注いだ。この2滴の涙が後にワンガヌイ川とワイカト川 になった。
マオリの言い伝えによると、川を初めて探索したのは、新天地に初めて移住した際のリーダーの1人であるタマテアで、川を遡ってタウポ湖 まで移動した。川沿いの多くの場所は、タマテアに因んだ名前が付けられている。
ワンガヌイ川は、多くの急流 や200か所以上の急所があるものの、マオリ・入植者双方にとって北島中央部への重要な輸送ルートであった。ヨーロッパ人の到着以前、ワンガヌイ川周辺の地域には人々が密集して住んでおり、入植者の到着によって河口周辺の地域は主要な交易所となった。
既に内陸への重要なルートではあったものの、川を交易ルートとして大きく発展させたのは、1892年に初めて蒸気船の定期運航を行ったアレクサンダー・ハトリック (英語版 ) であった。この定期船は最終的にタウマルヌイ (英語版 ) まで運航し、鉄道や馬車に乗り換えてさらに北へ向かうことができた。ハトリックが使用していた船の1つである外輪船PSワイマリエ (英語版 ) は修復され、現在でもワンガヌイで定期的に運航されている。また、ハトリックの別の船であるMVワイルアも修復されており、ワンガヌイ川で見ることができる。
20世紀初期、ワンガヌイ川は国内有数の観光地であり、その荒々しい美しさと川岸に点在するマオリのカインガ (英語版 ) (村)を見るために毎年数千人が訪れていた。
ノース・アイランド本線 の完成により、北部への蒸気船ルートの必要性は著しく低くなり、川の周辺地域の主な経済活動は林業 に移った。1930年代、川の流域を農地として開放する試みが行われたが、失敗に終わった。この時代の遺産の1つに、入植地へのアクセスを提供するために建てられたが放棄されて久しいブリッジ・トゥ・ノーウェア (英語版 ) (行き先のない橋)がある。
1912~13年、フランスの映画制作者ガストン・メリエス がワンガヌイ川のドキュメンタリー『The River Wanganui (英語版 ) 』(現在は紛失)を撮影し、ワンガヌイ川を「ニュージーランドのライン川」と呼んだ。
特筆すべき集落としては、マザー・メアリー・ジョセフ・オーバート (英語版 ) と詩人ジェームズ・K・バクスター (英語版 ) の2人の著名なニュージーランド人を輩出したジェルサレム (英語版 ) がある。マザー・オーベールのカトリック伝道本部は現在もジェルサレムに位置しており、バクスターは1970年代に集落にコミューンを設立した。
その他の集落には、ティエケ・カインガ、ピピリキ、ラナナ、マタヒウィ、コリニティがある。
タオンガとマオリの土地請求
ワンガヌイ川はマオリにとって特別かつ精神的な重要性を持ち、マオリからは「テ・アワ・トゥプア」とも呼ばれている。ヨーロッパ人の到着以前の時代、ワンガヌイ川はマオリの村々の大部分の故郷であり、特別な宝物であるタオンガ (英語版 ) とみなされていた。1870年代、地元イウィ が初めて議会に請願を行い[ 6] 、以降、川を守り、川に相応しい敬意を払う努力が行われている。
同じ理由から、ワンガヌイ川は、ワイタンギ審判所 (英語版 ) における部族の土地返還請求において、国内で最も激しく争われてきた地域である。ワンガヌイ川に関する請求は、ニュージーランド史上最も長期にわたる訴訟事件とされており[ 7] 、1930年代に請願と訴訟提起が行われ、1990年代にワイタンギ審判所の審理が行われ、1993年に始まったティエケ・マラエ (英語版 ) の土地占拠は現在も続いており、1995年には広く報道されたモウトア・ガーデン (英語版 ) の占拠も行われた[ 8] 。
2012年8月30日、ワンガヌイ川に川としては世界で初めて法的人格 を認める合意が成立し[ 6] [ 9] 、2017年3月15日、関連する和解案がニュージーランドの議会 で法律(2017年テ・アワ・トゥプア(ワンガヌイ川請求和解)法)として成立した[ 10] 。ワイタンギ条約交渉大臣クリス・フィンレイソン (英語版 ) は、ワイタンギ川は「法律上の人と同様の全ての権利、義務、責任を有する」人格を持つと述べている。また、「(一部の人は変だと思うかもしれないが)家族信託や企業、
社団法人を考えれば少しも変ではない」と述べている[ 11] [ 12] [ 13] 。この法案により、140年続いたマオリ・政府間の交渉が終結した[ 3] 。ワンガヌイ川は、マオリと政府から各1名の2名の役員が代表を務める[ 2] 。
名称
「Whanga nui」は、「大きな入り江」という意味の語句である[ 14] 。一部の極めて初期の地図はヨーロッパ人入植者が「ノーズリー川(Knowsley River)」と呼んでいたことを示しているが[ 15] 、長年「ワンガヌイ川(Wanganui River)」として知られており、1991年に現地イウィ の意向を尊重して名称のスペルが正式に「Whanganui」に変更された[ 16] 。変更の理由の一部は、南島 のワンガヌイ川 (英語版 ) との混同を避けるためでもあった。河口にある都市も2009年12月まで「ワンガヌイ(Wanganui)」のスペルを使用していたが、政府がいずれのスペルも許容されるとした上で公的部門では「Whanganui」のスペルを使用すると決定したことに伴い、「ワンガヌイ(Whanganui)」に改称した[ 17] 。
動植物
ワンガヌイ川には多様な動植物がみられる。
鳥類
アオヤマガモ
ワンガヌイ川とマンガテポポ、オクパタの細流の合流点では、アオヤマガモ の個体群がみられる[ 18] 。ハシブトゴイ は、1990年代にワンガヌイ川沿いにねぐらを形成し、ニュージーランドではこの地域でのみ繁殖している[ 19] 。
魚類
ワンガヌイ川には、18種の在来魚とヤツメウナギ、クロガレイが生息している[ 20] 。在来魚の種としては、クランズブリー (英語版 ) 、アップランドブリー (英語版 ) 、コアロ (英語版 ) 、フクロヤツメ 、ショートジョー・ココプ (英語版 ) 、トレントフィッシュ (英語版 ) 、ニュージーランドスメルト (英語版 ) などがある[ 21] 。
数は多くはないが、川には茶マス やニジマス などもみられ、ナマズ が生息しているという報告もある[ 21] 。
その他の水生生物
その他の水生生物としては、ニュージーランドオオウナギ やオーストラリアウナギ (英語版 ) 、コウラ (英語版 ) などが川に生息している[ 20] 。ニュージーランド淡水イガイ (英語版 ) も川に生息しているが、数は減少傾向にある[ 22] 。
無脊椎動物
ワンガヌイ川とその支流には、カゲロウ 、カワゲラ 、トビケラ など多様な無脊椎動物が生息している[ 21] 。
植物
ワンガヌイ川の流域には様々な種の植物が生育しており、その多くは広葉樹 やマキ科 に分類される[ 23] 。低層植物としては、クラウンファーン(ブレクナムディスカラー (英語版 ) )などの様々なシダや低木が生育している[ 24] 。
川船
1892年、アレクサンダー・ハトリック (英語版 ) は、トーマス・クック&サン (英語版 ) と、外輪船で観光客をピピリキ (英語版 ) へ輸送する契約を締結した[ 25] 。この旅行は「マオリランド のライン川 」として、ニュージーランド内陸部へ向かう観光ルートであった。その後、川船は郵便、旅客、貨物も輸送するようになった。
当時の外輪船PSワイマリエは、現在も川の下流域で運航しており、ディナークルーズなども行っている[ 26] 。
2010年6月18日、タウマルヌイ (英語版 ) までの230kmの船旅に挑む川船アドベンチャー2が就航した[ 27] 。タウマルヌイへの航行は82年ぶりである。現在、アドベンチャー2での船旅は観光客向けに提供されており、ジェットボートやカヌーイングに加わる新たなアクティビティとなっている[ 28] 。ただし、水位が低いと、タウマルヌイまで到達することはできない。
川船の上陸場
ワンガヌイ川沿いに多くあるマオリの「マラエ」の1つ
ワンガヌイ川は、川沿いの初期コミュニティの物資供給路であった。かつては、川船が川を定期的に行き交い、洪水で航路が塞がれていない限り、オーフラ川やオンガルエ川へも航行していた。
アレクサンダー・ハトリックの川船は、1891年から1958年まで運航していた。
タウマルヌイは、ワンガヌイ川において、川船で航行可能な最も高い地点だったと言われている。川の流れは「ワンガヌイ川評議会(Wanganui River Trust Board)」が管理し、川の往来のため、水流を抑制する壁を建設して流れを整え、水路を深くしていた。しかし、より厳しい急流では、川船を巻き上げる必要があることもあった。評議会は1891年から1940年まで存続していた[ 29] 。
レクリエーションでの利用
カヤッキング は、ワンガヌイ川で非常に人気のスポーツである。
水源 からタウポ湖 への排水により、川の水流は変化した。これがおそらく一因となって、ラフトレースが廃止となり、乾期に川船がタウマルヌイへ航行できなくなった(以下参照)。
橋
ワンガヌイ川はニュージーランドで最も長い航行可能河川であるが、橋は少ない。ワンガヌイからタウマルヌイの230kmの間では、橋は2本のみである。以下は、橋の一覧である(水源から海への順)。
ワンガヌイ:
ダブリン・ストリート橋
ワンガヌイ・シティ橋
コブハム橋 – 全長275m、9スパン。1959年に旧建設省 (英語版 ) が設計し、1962年に竣工。橋台は傾斜したPC杭に乗っている[ 38] 。
マンガパルア地域(ブリッジ・トゥ・ノーウェア (英語版 ) がある場所)にラエティヒ (英語版 ) とタラナキ を結ぶ橋が建設される予定であったが、実現しなかった。
鉄道橋
ワンガヌイ川で最も古い橋は鉄道橋である。1876年に建設されたワンガヌイのアラモホ (英語版 ) 鉄道橋、1903~1904年に建設されたタウマルヌイ (英語版 ) 近辺のマタプナ橋 (英語版 ) がある[ 39] 。
脚注
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^ Whanganui Tribes teara.govt.nz
^ モウトア島 (英語版 ) も参照。
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外部リンク
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