ラパマイシン
ラパマイシン
IUPAC命名法 による物質名
(3S ,6R ,7E ,9R ,10R ,12R ,14S ,15E ,17E ,19E ,21S ,23S , 26R ,27R ,34aS )-9,10,12,13,14,21,22,23,24,25,26, 27,32,33,34,34a-hexadecahydro-9,27-dihydroxy-3- [(1R )-2-[(1S ,3R ,4R )-4-hydroxy-3-methoxycyclohexyl]- 1-methylethyl]-10,21-dimethoxy-6,8,12,14,20,26- hexamethyl-23,27-epoxy-3H -pyrido[2,1-c][1,4]- oxaazacyclohentriacontine-1,5,11,28,29 (4H ,6H ,31H )-pentone
臨床データ 販売名
ラパリムス錠, Rapamune ライセンス
EMA :リンク 、US FDA :リンク 胎児危険度分類
法的規制
薬物動態 データ生物学的利用能 14% (oral solution), lower with high-fat meals; 18% (tablet), higher with high-fat meals[ 1] 血漿タンパク結合 92% 代謝 肝臓 半減期 57–63時間[ 2] 排泄 大部分が糞便 データベースID CAS番号
53123-88-9 ATCコード
L04AA10 (WHO ) S01XA23 (WHO ) PubChem
CID: 5284616 DrugBank
DB00877 ChemSpider
10482078 UNII
W36ZG6FT64 KEGG
D00753 ChEBI
CHEBI:9168 ChEMBL
CHEMBL413 PDB ligand ID
RAP (PDBe , RCSB PDB ) 別名
Rapamycin 化学的データ 化学式 C 51 H 79 N O 13 分子量 914.172 g/mol
O[C@@H]1CC[C@H](C[C@H]1OC)C[C@@H](C)[C@@H]4CC(=O)[C@H](C)/C=C(\C)[C@@H](O)[C@@H](OC)C(=O)[C@H](C)C[C@H](C)\C=C\C=C\C=C(/C)[C@@H](OC)C[C@@H]2CC[C@@H](C)[C@@](O)(O2)C(=O)C(=O)N3CCCC[C@H]3C(=O)O4
InChI=1S/C51H79NO13/c1-30-16-12-11-13-17-31(2)42(61-8)28-38-21-19-36(7)51(60,65-38)48(57)49(58)52-23-15-14-18-39(52)50(59)64-43(33(4)26-37-20-22-40(53)44(27-37)62-9)29-41(54)32(3)25-35(6)46(56)47(63-10)45(55)34(5)24-30/h11-13,16-17,25,30,32-34,36-40,42-44,46-47,53,56,60H,14-15,18-24,26-29H2,1-10H3/b13-11+,16-12+,31-17+,35-25+/t30-,32-,33-,34-,36-,37+,38+,39+,40-,42+,43+,44-,46-,47+,51-/m1/s1 Key:QFJCIRLUMZQUOT-HPLJOQBZSA-N
物理的データ 水への溶解量 0.0026 [ 3] mg/mL (20 °C) テンプレートを表示
ラパマイシン (Rapamycin)またはシロリムス (Sirolimus、国際一般名 〔INN〕/JAN )は、微生物Streptomyces hygroscopicus (英語版 ) によって生産されるマクロライド 化合物の一つである[ 4] [ 5] 。移植臓器拒絶 の予防 のため、リンパ脈管筋腫症 の治療のために医学分野で使われている。ヒトにおいて免疫抑制 機能を持ち、腎臓 移植の拒絶の予防において特に有用である。インターロイキン-2 (IL-2)の産生を低下させることによってT細胞 およびB細胞 の活性化を阻害する。冠動脈ステント (英語版 ) のコーティング剤としても使われている。
ラパマイシンは1972年にSuren Sehgalらによって、イースター島 の土壌から発見された放線菌Streptomyces hygroscopicus から初めて単離され[ 6] [ 7] 、イースター島のポリネシア語 名の「ラパ・ヌイ」のラパと、「菌類から生じた抗生物質 」を意味する接尾語のマイシンとを組み合わせてラパマイシンと名付けられた[ 5] 。当初は抗真菌薬 として開発されていた。しかしながら、mTOR阻害能 (英語版 ) によって強力な免疫抑制作用と抗増殖作用を示すことが発見され、この目的では使用されなくなった。1999年9月にアメリカ食品医薬品局 によって認可された。商品名はラパリムス錠1 mg(ノーベルファーマ )。日本国外ではラパミューン(Rapamune)としてファイザー (以前はワイス )から販売されている。
適用
薬効薬理
薬力学
似た名称のタクロリムス とは異なり、シロリムスはカルシニューリン阻害剤 ではないが、免疫系に対して同様の免疫抑制作用を有する。シロリムスはmTOR に作用し、T細胞 とB細胞 の活性化を妨げることによって、IL-2およびその他のサイトカイン受容体依存的シグナル伝達機構を阻害する。タクロリムスとシクロスポリン はカルシニューリン を阻害することによってIL-2の分泌を阻害する[ 8] 。
シロリムスの作用機序はタクロリムスと同じく、細胞質タンパク質FK結合タンパク質12 (FKBP12)への結合である。カルシニューリン(PP2B)を阻害するタクロリムス-FKBP12複合体とは異なり、シロリムス-FKBP12複合体は、mTOR複合体1(mTORC1 )に直接結合することによって、mTOR (mechanistic Target Of Rapamycin) 経路を阻害する[ 8] 。
薬物動態
シロリムスはCYP3A4 酵素 によって代謝される。また、P糖タンパク質 (P-gp)排出ポンプの基質である[ 4] 。消失半減期 は57から63時間である[ 2] 。
シロリムスの腸から血流への吸収は患者によって大きく異なる。ある患者では同量を投与された他の患者の8倍も吸収量が高いこともある。したがって、患者の状態に対して適切な用量を確かめる必要がある[ 8] 。これは次の投与の前に血液サンプルを採取して決定することができ、トラフ濃度が分かる。しかしながら、シロリムスとタクロリムスについてはトラフ濃度と薬物暴露の間にはよい相関(血中濃度-時間曲線下面積)があるため(シロリムス: r2 = 0.83; タクロリムス: r2 = 0.82)、その薬物動態 (PK)プロファイルを知るためには1つの濃度だけを取ればよい。シロリムスとタクロリムスのPKプロファイルは同時投与によって変化しない。タクロリムスの用量修正薬物暴露はシロリムスと相関しているため(r2 = 0.8)、患者は双方について似た生物学的利用能を示す[ 9] [要非一次資料 ] 。
免疫抑制作用
ラパマイシンが、免疫抑制作用においてカルシニューリン 阻害剤 より優れている点は、腎臓 に対しての毒性が低いということである。カルシニューリン阻害剤により長期的に免疫を抑制された患者は、腎機能が低下し、時には慢性腎不全 を発症する場合もあるが、ラパマイシンではその心配が少ない。
また、臓器提供者が溶血性尿毒症症候群 に罹患している際には、カルシニューリン阻害剤を使用することによって移植後に再発する危険性もある。しかし、ラパマイシンは2008年10月7日に米国食品医薬局 より、腎機能低下のリスクを警告するラベルを訂正する許可が出されている。
がん治療作用
ラパマイシンの抗増殖効果として、PI3K/Akt/mTOR経路の阻害があげられる(mTOR =哺乳類ラパマイシン標的蛋白質/mammalian target of rapamycin)。また血管内皮細胞増殖因子 (VEGF)の発現を抑制して、血管内皮細胞の増殖や管腔形成を抑えるとされる。最近では、腎移植を行う予定の患者にラパマイシンを投与したところ、カポジ肉腫 の進行が抑制されたことが確認されている。また、ドキソルビシン とラパマイシンとを併用したマウス に対する治療では、AKT陽性の悪性リンパ腫 が不活性化されたことが示されている。
パノビノスタット はメイヨー・クリニック による研究で、ラパマイシンと共に使用することで、相乗効果的に膵癌細胞 を不活性化させる事が判明している。研究では、この組み合わせにより、培養された膵癌細胞の内、最大で65%が不活性化されると判明した[ 10] 。なおラパマイシン誘導体にテムシロリムス(Temsirolimus/商品名トーリセル・腎細胞がん治療薬)がある。
平滑筋増殖抑制作用
平滑筋 増殖抑制効果があり、狭心症 ・心筋梗塞 等における心臓カテーテル検査 において用いられる血管内ステント に、ラパマイシンを配合したステント(サイファー Cypher)が製品化されており広く循環器科 領域で用いられている。また、リンパ脈管筋腫症 においても使用されている。
2017年8月1日、京都大学の戸口田淳也、池谷真らの研究グループが、骨格筋中に異所性骨が形成される難病である進行性骨化性線維異形成症 の治療薬として「ラパマイシン」をiPS細胞 を使って見つけたと発表した。また同日、臨床試験を開始すると発表した[ 11] [ 12] [ 13] 。iPS細胞を使った創薬の治験は世界で初めてとなる[ 11] [ 12] [ 13] 。
2017年10月5日、京都大学病院は「ラパマイシン」を用いた臨床試験を開始したと発表した[ 14] [ 15] 。iPS細胞を使って発見した薬を用いた世界初の臨床試験となる[ 14] [ 15] 。
寿命延長作用
2009年の研究では、ラパマイシンを与えられたマウスは与えられる前に比べて寿命が28-38%伸長し、最大寿命が全体で9-14%伸長した[ 16] [ 17] 。同研究の注意書きによると、実験は生後20ヶ月の成熟したマウス(ヒト に換算すれば60歳前後)で行われた。これは、一般的な延命策と違って、すでに高齢化しているヒトの寿命を伸長させる可能性を示唆している。
脚注
^ Buck, Marcia L. (2006). “Immunosuppression With Sirolimus After Solid Organ Transplantation in Children” . Pediatric Pharmacotherapy 12 (2). http://www.medscape.com/viewarticle/524753_4 .
^ a b “Rapamycin ”. PubChem Compound . National Center for Biotechnology Information. 1 August 2016 閲覧。
^ Simamora, P; Alvarez, JM; Yalkowsky, SH (1 February 2001). “Solubilization of rapamycin”. International journal of pharmaceutics 213 (1–2): 25–9. doi :10.1016/s0378-5173(00)00617-7 . PMID 11165091 .
^ a b “Rapamune Prescribing Information ”. United States Food and Drug Administration . Wyeth Pharmaceuticals, Inc. (May 2015). 28 May 2016 閲覧。
^ a b “Rapamycin (AY-22,989), a new antifungal antibiotic” . J. Antibiot. 28 (10): 721–6. (October 1975). doi :10.7164/antibiotics.28.721 . PMID 1102508 . https://doi.org/10.7164/antibiotics.28.721 .
^ Seto, Belinda (2012). “Rapamycin and mTOR: a serendipitous discovery and implications for breast cancer”. Clinical and Translational Medicine 1 (1): 29. doi :10.1186/2001-1326-1-29 .
^ Pritchard DI (2005). “Sourcing a chemical succession for cyclosporin from parasites and human pathogens”. Drug Discovery Today 10 (10): 688–691. doi :10.1016/S1359-6446(05)03395-7 . PMID 15896681 .
^ a b c Mukherjee, Sandeep; Mukherjee, Urmila (2009-01-01). “A Comprehensive Review of Immunosuppression Used for Liver Transplantation” . Journal of Transplantation 2009 : 1–20. doi :10.1155/2009/701464 . ISSN 2090-0007 . PMC 2809333 . PMID 20130772 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2809333/ .
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^ Sun SY, Rosenberg LM, Wang X, et al. (August 2005). “Activation of Akt and eIF4E survival pathways by rapamycin-mediated mammalian target of rapamycin inhibition” . Cancer Res. 65 (16): 7052–8. doi :10.1158/0008-5472.CAN-05-0917 . PMID 16103051 . http://cancerres.aacrjournals.org/cgi/content/full/65/16/7052 2009年7月8日 閲覧。 .
^ a b “iPS創薬、京大が世界初の治験へ 骨の難病” . 日本経済新聞 . (2017年8月1日). https://www.nikkei.com/article/DGXLASGG01H0F_R00C17A8I00000/ 2017年8月1日 閲覧。
^ a b “iPS使い創薬、初の治験へ=骨の難病患者に-9月以降、4大学病院で・京大” . 時事通信社 . (2017年8月1日). https://web.archive.org/web/20170801114305/https://www.jiji.com/jc/article?k=2017080100909&g=soc 2017年8月1日 閲覧。
^ a b “iPS細胞を使った難病治療薬…京大が世界初治験へ” . 日本経済新聞 . (2017年8月1日). https://www.nikkei.com/article/DGXLASGG01H0F_R00C17A8I00000/ 2017年8月1日 閲覧。
^ a b “iPS創薬治験1例目 骨の難病、京大が世界初” . 日本経済新聞 . (2017年10月5日). https://www.nikkei.com/article/DGXMZO21946450V01C17A0CR8000/ 2017年10月5日 閲覧。
^ a b “iPS創薬の治験開始 骨の難病、明石のYさんに世界初” . 神戸新聞 . (2017年10月5日). https://www.kobe-np.co.jp/news/iryou/201710/0010617812.shtml 2017年10月5日 閲覧。
^ 「Rapamycin fed late in life extends lifespan in genetically heterogeneous mice 」ネイチャー 460号 392-395ページ (2009年7月16日)
^ 富取秀行、未来のアンチエイジング薬となるか? 加齢現象を遅らせるラパマイシン ファルマシア 2013年 49巻 1号 p.68, doi :10.14894/faruawpsj.49.1_68
関連項目