ヨコヅナダンゴウオ

ヨコヅナダンゴウオ
雌成魚
保全状況評価[1]
NEAR THREATENED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
: カサゴ目 Scorpaeniformes
: ダンゴウオ科 Cyclopteridae
: Cyclopterus
Linnaeus, 1758
: ヨコヅナダンゴウオ C. lumpus
学名
Cyclopterus lumpus
Linnaeus, 1758
シノニム[3][4]
    • Cyclopterus minutus Pallas, 1769
    • Cyclopterus pavoninus Shaw, 1797
    • Cyclopterus pyramidatus Shaw, 1804
    • Cyclopterus caeruleus Mitchill, 1815
    • Lumpus vulgaris McMurtrie, 1831
    • Cyclopterus coronatus Couch, 1838
    • Lumpus anglorum DeKay, 1842
    • Cyclopterus lumpus hudsonius Cox, 1920
英名
Lumpfish
Lumpsucker

ヨコヅナダンゴウオ[5] (学名:Cyclopterus lumpus) は、ダンゴウオ科に分類される魚類の一種。Cyclopterus 属は単型[3]北大西洋と隣接する北極海の地域で見られ、その分布域は北アメリカではチェサピーク湾ニュージャージー州以南では珍しい)まで、ヨーロッパではスペインイギリス海峡以南では珍しい)まで広がる[3][6][3]。地中海では2004年にクロアチア沖で、2017年にキプロス沖で記録されている[7]

分類

1758年にカール・フォン・リンネによって、「自然の体系 (第10版)」の中で北海バルト海をタイプ産地として初めて正式に記載された[8]。リンネは本種と同時に Cyclopterus 属を記載した際、本種のみを認めたため、本種はCyclopterus 属のタイプ種である[4]。『Fishes of the world (fifth edition)』ではダンゴウオ科に亜科を認めていないが[9]、研究者によっては本種を独自の亜科とする場合もある[4]

名称

属名は「cyclos (輪)」と「pteros (鰭)」の合成語で、腹鰭が吸盤状であることに由来する。種小名の lumpusアングロサクソン語lump に由来し、本種は1558年にコンラート・ゲスナーによって Lumpus anglorum と呼ばれた。これは背鰭が背中の分厚い皮膚に埋もれており、「hump (こぶ)」に見えることに由来する[10]。日本ではランプフィッシュ、ランプサッカー[11]、セッパリダンゴウオ[5]、セダカダンゴウオ[12]などと呼ばれる。

形態

性的二形があり、雌の方が大型化する。雄は体長30 - 40 cmだが、雌は体長50 cm、体重5 kgまで成長する[13]。最大の個体は体長61 cm、体重9.6 kgであった[3][14]バルト海汽水域では、通常20 cmを超えない[13]。体はボールのように丸く、背中にはこぶ状の隆起があり、体側面には3つの大きな骨質突起がある。腹鰭は吸盤になっており、岩などの表面に強く付着する。雄の頭と胸鰭は雌よりも大きい。皮膚の下にゼリー状の脂肪層がある。体色は変異が大きく、青っぽい色、灰色、オリーブ色、黄色、茶色など様々。成熟した雄は繁殖期にはオレンジ色になる[15]

生態

孵化した仔魚は数ヶ月間をタイドプールで過ごすか[16]流れ藻の中で過ごす[17]。成長するにつれて外洋に出て[18]、そこで動物プランクトン、魚卵、小型甲殻類を食べて成長する[19]。成熟すると、春に繁殖のために沿岸地域に移動する。繁殖期になると、雄は体色が赤みがかったオレンジ色になる。アイスランドでは3月から8月にかけて繁殖期の個体が捕獲されており、個体群は何ヶ月もかけて産卵することが知られている[20]。前年に産卵した雌は、再び産卵するときに同じ場所に戻る傾向がある。さらに全く同じ時期に戻ってくることが知られている[21]。産卵数は50,000 - 220,000個で、1 - 2週間の間隔で2度同じくらいの数を産卵する[20][22][23]。卵の直径は2.2 - 2.5 mmで、卵巣は産卵前の雌の体重の最大3分の1を占めることがある[20]

産卵が近い雌。大きなオレンジ色の卵巣が見える。

雄が巣の場所を選び、そこに雌が卵を産む。巣は通常海底の岩である[24]。巣は潮間帯から水深10 mまでの場所にある[24]。雄は一ヶ月間鰭で卵に海水を送り、世話をする[24]

産卵期の雄

腹鰭が吸盤状になっており、鰾を持たないことから、底魚と考えられていた[25]。遠洋漁業でも[18][26]、底引き網でも漁獲されるため[27][28]、その生態は詳しく分かっていなかった。タグを使用した調査により、繁殖期には海底で過ごし、遠洋でもしばらく過ごすことが確認された[29]。繁殖期に近づくにつれて、遠洋でより多くの時間を過ごすようになった。鰾がないため素早く鉛直移動を行うことができ、1日で表層から水深300 m以深まで移動することが確認された。さらに、成魚は昼夜で行動が変化し、昼間は海底で、夜間は遠洋で多くの時間を過ごすことが明らかになった[27][29]。幼魚が沿岸地域を離れた後、遠洋の表層の50 - 60 mに生息する。産卵のために沿岸地域への回遊を開始して初めて、海底近くで時間を過ごし始める。

幼魚

幼魚は生物発光を示す[30]。人間には緑色に見え、波長は545 nm と613 nmでピークに達する。光は骨質突起で強い。発光の目的や、成魚の発光の有無は不明である。

漁業

世界における卵の漁獲量

卵を目的として漁獲されており、1977年から2018年までの卵の水揚げ量は約2,000 - 8,000トンであった。近年はアイスランドグリーンランドが世界の漁獲量の95%以上を占めている[31][32]。歴史的にはノルウェーカナダも多くの漁獲を行ったが、卵の価格下落とカナダの人口減少により[33]、漁獲量は減少した[31]デンマークスウェーデンも貢献しているが、その量は他国と比較して低い[32]。卵を採取するために、主に雌成魚が漁獲される[32]。大きな刺し網を備えた小型漁船を使用して、産卵に来る海岸近くで漁獲する。雄は体が小さいため、大きな網に引っかかる個体はほとんどいない[32]。伝統的に、卵は海で取り除かれ、死骸は処分される。アイスランドでは現在、死骸の陸揚げが義務付けられている[34]。それらは冷凍され、主に中国に輸出されている。

アイスランドでは、主に地元の市場のために雄の魚を捕まえる伝統もある。雄は雌より小さいため、より目の細かい刺し網を用いる。雄は1月から2月に狙われ、3月から8月に狙われる雌よりも早い。

個体数

1985年から2018年までのアイスランドとノルウェーにおけるヨコヅナダンゴウオの個体数

アイスランドとノルウェー両国の個体数は、科学的調査のデータを使用して監視されており、現在長期平均を上回っており、個体数は健全であると考えられている。グリーンランドでは調査データは入手できず、漁獲量に関するデータは監視されている。調査期間はそれほど長くないが、個体数は安定している。カナダの個体数は激減しているようで、絶滅の危機に瀕するカナダの野生生物の現状に関する委員会(COSEWIC)により絶滅危惧種に指定された。北海やバルト海では個体数を確実に評価するためのデータが不足しているため、生息状況は不明である。グリーンランドとノルウェーの漁業は、それぞれ2015年と2017年に海洋管理協議会によって認証され、これらの認証は5年間有効である。アイスランドの漁業は2014年に認証されたが、混獲をめぐる問題により2018年に停止され、2020年に認証を回復した。

利用

ランプフィッシュキャビア

卵はω-3脂肪酸が豊富であり、比較的安価なキャビアの代用品として利用される。魚から卵を取り出し、結合組織を除去する。卵は大きな樽に保管され、そこで塩漬けにされる。卵は赤または黒に染められ、安息香酸ナトリウムなどの防カビ剤が詰められる[35]スカンディナビア半島では魚肉が食用とされる[3]。アイスランドでは、雄は塩漬けにして燻製にするか、単に茹でて食べることが多い。産卵期の雌は内臓と頭を取り除き、ナイフで深く切れ込みを入れ、身が黄色くなるまで涼しい場所に吊るす。食べる前に茹でられ、sigin grásleppa という料理になる。スコットランド、アイスランド、ノルウェーのサケ養殖場の寄生虫を駆除するため、掃除魚として導入されている[36]

脚注

  1. ^ Lorance, P.; Cook, R.; Herrera, J.; de Sola, L.; Florin, A.; Papaconstantinou, C. (2015). “Cyclopterus lumpus (Europe assessment)”. IUCN Red List of Threatened Species 2015: e.T18237406A45078284. https://www.iucnredlist.org/species/18237406/45078284 2 May 2024閲覧。. 
  2. ^ Cyclopterus lumpus Lumpfish”. NatureServe Explorer. NatureServe. 2 May 2024閲覧。
  3. ^ a b c d e f Froese, Rainer and Pauly, Daniel, eds. (2024). "Cyclopterus lumpus" in FishBase. May 2024 version.
  4. ^ a b c CAS - Eschmeyer's Catalog of Fishes Cyclopteridae”. researcharchive.calacademy.org. 2024年5月2日閲覧。
  5. ^ a b 輸入される外国産魚類の標準和名について(第 20 版)”. おさかな普及センター資料館 (15 February 2024). 2 May 2024閲覧。
  6. ^ Heessen, Henk J.L., ed (2015) (英語). Fish atlas of the Celtic Sea, North Sea, and Baltic Sea: Based on international research-vessel surveys. The Netherlands: Wageningen Academic Publishers. doi:10.3920/978-90-8686-266-5. ISBN 9789086862665 
  7. ^ Atlas of Exotic Fishes in the Mediterranean Sea (Cyclopterus lumpus) (2 ed.). Paris, Monaco: CIESM Publishers. (2021). pp. 366p. https://ciesm.org/atlas/fishes_2nd_edition/Cyclopterus_lumpus.pdf 
  8. ^ CAS - Eschmeyer's Catalog of Fishes Cyclopterus”. researcharchive.calacademy.org. 2024年5月2日閲覧。
  9. ^ J. S. Nelson; T. C. Grande; M. V. H. Wilson (2016). Fishes of the World (5th ed.). Wiley. pp. 467–495. ISBN 978-1-118-34233-6. オリジナルの2019-04-08時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190408194051/https://sites.google.com/site/fotw5th/ 2024年5月2日閲覧。 
  10. ^ Order Perciformes (part 21): Suborder Cottoidei: Infraorder Cottales: Families Psychrolutidae and Cyclopteridae”. The ETYFish Project Fish Name Etymology Database. Christopher Scharpf and Kenneth J. Lazara (25 August 2022). 2 May 2024閲覧。
  11. ^ 東京ズーネット ランプサッカー”. 2 May 2024閲覧。
  12. ^ 『小学館の図鑑NEO 魚』
  13. ^ a b Muus, B., J. G. Nielsen, P. Dahlstrom and B. Nystrom (1999). Sea Fish. pp. 180–181. ISBN 8790787005
  14. ^ Gordon, Bernard L. (1954). “My bout with a lumpfish”. Natural History 63 (2): 68–71. 
  15. ^ Kells, V., and K. Carpenter (2011). A Field Guide to the Coastal Fishes from Maine to Texas. pp. 192–193. ISBN 978-0-8018-9838-9
  16. ^ Mocheck, A. D. (1973). “Spawning behaviour of the lumpsucker Cyclopterus lumpus L.”. Journal of Ichthyology (13): 615–619. 
  17. ^ Ingólfsson, Agnar (2000-12-01). “Colonization of floating seaweed by pelagic and subtidal benthic animals in southwestern Iceland” (英語). Hydrobiologia 440 (1–3): 181–189. doi:10.1023/A:1004119126869. ISSN 0018-8158. 
  18. ^ a b Holst, Jens Christian (1993-08-01). “Observations on the distribution of lumpsucker (Cyclopterus lumpus, L.) in the Norwegian Sea”. Fisheries Research 17 (3–4): 369–372. doi:10.1016/0165-7836(93)90136-U. 
  19. ^ Davenport, J. (1985). “Synopsis of biological data on the lumpsucker Cyclopterus lumpus (Linnaeus, 1758)”. FAO Fisheries Synopsis (147). 
  20. ^ a b c Kennedy, J. (2018-01-31). “Oocyte size distribution reveals ovary development strategy, number and relative size of egg batches in lumpfish ( Cyclopterus lumpus)” (英語). Polar Biology 41 (6): 1091–1103. doi:10.1007/s00300-018-2266-9. ISSN 0722-4060. 
  21. ^ Kennedy, James; Ólafsson, Halldór G. (2019-07-09). “Conservation of spawning time between years in lumpfish Cyclopterus lumpus and potential impacts from the temporal distribution of fishing effort” (英語). Fisheries Management and Ecology 26 (4): 389–396. doi:10.1111/fme.12352. ISSN 0969-997X. 
  22. ^ Myrseth, Bjørn (1971). Fekunditet, vekst, levevis og ernæring hos Cyclopterus lumpus L. (MSc thesis) (ノルウェー語). University of Bergen.
  23. ^ Hedeholm, Rasmus Berg; Post, Søren; Grønkjær, Peter (2017-12-01). “Life history trait variation of Greenland lumpfish ( Cyclopterus lumpus) along a 1600 km latitudinal gradient” (英語). Polar Biology 40 (12): 2489–2498. doi:10.1007/s00300-017-2160-x. ISSN 0722-4060. 
  24. ^ a b c Goulet, Denis; Green, John M. (1988-11-01). “Reproductive success of the male lumpfish (Cyclopterus lumpus L.) (Pisces: Cyclopteridae): evidence against female mate choice”. Canadian Journal of Zoology 66 (11): 2513–2519. doi:10.1139/z88-373. ISSN 0008-4301. 
  25. ^ Wheeler, A. (1969). The fishes of the British Isles and north-west Europe. London: Macmillan. ISBN 978-0333059555 
  26. ^ Eriksen, Elena; Durif, Caroline M. F.; Prozorkevich, Dmitry (2014-11-01). “Lumpfish (Cyclopterus lumpus) in the Barents Sea: development of biomass and abundance indices, and spatial distribution” (英語). ICES Journal of Marine Science 71 (9): 2398–2402. doi:10.1093/icesjms/fsu059. ISSN 1054-3139. 
  27. ^ a b Casey, Jill M; Myers, Ransom A (1998-10-01). “Diel variation in trawl catchability: is it as clear as day and night?”. Canadian Journal of Fisheries and Aquatic Sciences 55 (10): 2329–2340. doi:10.1139/f98-120. ISSN 0706-652X. 
  28. ^ Wienerroither, R. (2011). “Atlas of the Barents Sea fishes”. IMR/PINRO Joint Report. 
  29. ^ a b Kennedy, James; Jónsson, Sigurður Þ.; Ólafsson, Halldór G.; Kasper, Jacob M. (2015-12-23). “Observations of vertical movements and depth distribution of migrating female lumpfish (Cyclopterus lumpus) in Iceland from data storage tags and trawl surveys” (英語). ICES Journal of Marine Science 73 (4): 1160–1169. doi:10.1093/icesjms/fsv244. ISSN 1054-3139. 
  30. ^ Juhasz‐Dora, Thomas; Teague, Jonathan; Doyle, Thomas K.; Maguire, Julie (2022-07-23). “First record of biofluorescence in lumpfish ( Cyclopterus lumpus ), a commercially farmed cleaner fish” (英語). Journal of Fish Biology 101 (4): 1058–1062. doi:10.1111/jfb.15154. hdl:1983/bfb71adc-a02e-450a-9603-69a74283e1a0. ISSN 0022-1112. PMC 9796030. PMID 35781815. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9796030/. 
  31. ^ a b Kennedy, James; Durif, Caroline M. F.; Florin, Ann-Britt; Fréchet, Alain; Gauthier, Johanne; Hüssy, Karin; Jónsson, Sigurður Þór; Ólafsson, Halldór Gunnar et al. (2019). “A brief history of lumpfishing, assessment, and management across the North Atlantic” (英語). ICES Journal of Marine Science 76: 181–191. doi:10.1093/icesjms/fsy146. https://backend.orbit.dtu.dk/ws/files/159151200/Postprint.pdf. 
  32. ^ a b c d Johannesson, J. (2006). “Lumpfish cavier - from vessel to consumer”. FAO Fisheries Technical Paper 485. http://www.fao.org/docrep/009/a0685e/a0685e00.htm. 
  33. ^ DFO (2011). “Assessment of Lumpfish in the Gulf of St. Lawrence (3Pn, 4RST) in 2010”. DFO Can. Sci. Advis. Sec., Sci., Advis. Rep. 2011/005. 
  34. ^ Marine Stewardship Council (2014). “Icelandic Gillnet Lumpfish Fishery”. Public Certification Report. オリジナルの29 May 2016時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160529082711/https://www.msc.org/track-a-fishery/fisheries-in-the-program/certified/north-east-atlantic/icelandic-gillnet-lumpfish/assessment-downloads/ 2 March 2016閲覧。. 
  35. ^ Hui, Yiu H. (2006). Handbook of Food Science, Technology, and Engineering. CRC Press. pp. 161–9. ISBN 978-0-8493-9849-0. https://books.google.com/books?id=rTjysvUxB8wC 
  36. ^ “Cleaner fish – what do they do? - Loch Duart Salmon” (英語). Loch Duart Salmon. (2017年6月8日). http://lochduart.com/cleaner-fish-what-do-they-do/ 2017年7月5日閲覧。 

関連項目

外部リンク

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