ミュールジカ (Odocoileus hemionus )は、北アメリカ 西部で普通にみられるシカ である。耳がラバ (ミュール)のそれに似ているのでこの名前がある。尻尾 がすべて黒いオグロジカを含む数種類の亜種があり、近縁のオジロジカ とは違って、ミズーリ川 より西の地域、特に、ロッキー山脈 付近に分布する。ハワイのカウアイ島 やアルゼンチン に移入されたこともある[ 1] 。
シートン動物記 の The Trail of The Sandhill Stag (邦題『サンドヒルの牡鹿』『サンドヒル・スタッグ どこまでも続く雄ジカの足あと』)に出てくるのは、このミュールジカである[ 2] 。カナダ・マニトバ州が舞台ということで後述 種類 の「O. h. peninsulae」種と思われる。
特徴
オジロジカ属 の中では最大種で、肩高1-1.1m、体長2mにもなる。大人のオスは体重が68kgから140kg、一方メスは平均して57kgから79kgで、大きなオスになると230kgにもなる[ 3] 。オジロジカのように、同じ地域内で際立った体格差が見られることはない。 オジロジカとの外見上の大きな違いは、耳の大きさ、尻尾の色、そしてオスの角 の形である。体の大きさの違いで見分けられることも多い。また、ミュールジカの尻尾は先端が黒いが、オジロジカは黒くない。角も、ミュールジカは複数の枝に分かれ、年を重ねるごとにフォーク状に横に張るが、オジロジカの角は、1本の角から枝分かれする。 角は毎年、交尾 期の後に抜け落ちるが、春にはすぐに新しいものが生えて来る。抜け落ちるのは2月半ばが一般的だが、地域差がある[ 4] 。
生態
食性
夏は主に草を食べるが、果実を食べることもある。例えばブラックベリー 、ブルーベリー 、レモンリーフ の実やスィンブルベリー である。また、有毒であるにもかかわらず、カリフォルニア・バックアイ (カリフォルニアトチノキ)の葉を食べることでも知られる。 冬は毬果 、とりわけダグラスモミ や、ヒノキ科 や、イチイ属 、ビャクシン属 の樹木の実を食べる。また、落葉樹や灌木(特にハコヤナギ 、ヤナギ 、ハナミズキ 、ザイフリボク 、セージ )の枝も食べる。ドングリやリンゴを食べることもある。ミュールジカが生息する地域の大部分は、冬になると、食物が雪と氷におおわれ、そうでないわずかな食物も成長が鈍る。食物が少ない環境での冬を乗り切るために、ミュールジカは動きが少なくなり、新陳代謝 が鈍くなる。冬はミュールジカの死亡率が一番高くなる時期で、特にその前の春に生まれた子の死亡率が高い。そのため、ミュールジカは、冬場は雪が多い山から谷へと移動する。人間による餌付け が行われることもあるが、こういう給餌のやり方は、よほど適切に行われない限り、いい結果を生まない。[ 5] [ 6]
ミュールジカの子
ミュールジカは木の葉よりも草を食べる傾向があり、食物となる草の多寡によって生息数が増減する。水や餌を求めて移動することはまれで、食物があるところから、歩いて移動できる場所にねぐらを構える性質がある。
子供のころは家族単位で採食するが、大人のオスは単独、もしくは他のオス数頭と採食する。夜明けまたは日暮れの頃に食物を採り、昼間は休んでいることが多いが、見通しのいい農地や、満月の時期、そして、ハンターから追われている場合には、夜にも餌をあさる。ミュールジカの寝る場所は、たらいほどの大きさで、よく使う場所は表面がこすり取られているが、間に合わせのねぐらは、せいぜい草がぺしゃんこになった程度である[ 7] 。
繁殖
メスのミュールジカ(カナダ、アルバータ州 )
繁殖のサイクルも、このシカを知る上では欠かせない。交尾期もしくは発情期は秋に始まり、メスは数日間盛りがついた状態となり、オスは、相手を求めてより攻撃的になる。メスは最低1頭のオスと交尾するが、つがいとならなかった場合は、一月以内に発情期に戻る。妊娠 期間は約190-200日で、春に生まれた子ジカは、生後60-75日経って乳離れ をする。 子ジカは通例1頭または2頭だが、たまに三つ子 が誕生することもある。子ジカは、生まれた年の冬は母親と一緒に過ごす[ 8] 。
天敵
ミュールジカの天敵は人間に留まらない。ハイイロオオカミ やクーガー は、成獣にとっての主な天敵である。ボブキャット 、コヨーテ 、アメリカクロクマ やハイイログマ は、成獣はめったに捕食しないが、子ジカは普通に捕食する[ 5] 。
1960年代より、プリオン による慢性消耗病 (CWD)が問題になっている[ 9] 。
種類
2頭のオス(コロラド州 )
ミュールジカは、狭義のミュールジカ(sensu stricto )とオグロジカの2つのグループに分けられる[ 1] 。オグロジカの仲間である O. h. columbianus と O. h. sitkensis を除くすべての亜種が、ミュールジカの仲間に含まれる。この両者は別亜種として扱われているが、交配 が可能であり、最近では、専門家はこの2種をほぼ同種として扱っている[ 10] 。
ただし、ミュールジカとオジロジカのミトコンドリアDNA は似通っている一方で、ミュールジカとオグロジカのミトコンドリアDNAには比較的大きな違いがある。これは交雑による遺伝子汚染 のせいだと考えられているが、ミュールジカとオジロジカが野生の状態で交雑 することはまれで、交雑種は生存率が低い(ただしテキサス 西部では、一般的になっているようである)。交雑の観察記録の主張は正当とは言えず、外見的な特徴による識別は難しい[ 10] 。
ミュールジカ
O. h. californicus – カリフォルニア に分布
O. h. cerrosensis – セドロス島 に分布
O. h. eremicus – メキシコ 北西部、アリゾナ に分布
O. h. fuliginatus – カリフォルニア南部、バハカリフォルニア に分布
O. h. hemionus – 基亜種。北アメリカ西部と中部に分布
O. h. inyoensis – シエラネバダ 、カリフォルニア に分布
O. h. peninsulae – バハカリフォルニアに分布
O. h. sheldoni – ティブロン島 に分布
オグロジカ
[ 1]
関連項目
脚注
^ a b c Wilson, Don E.; Reeder, DeeAnn M., eds (2005). Mammal Species of the World (3rd ed.). Baltimore: Johns Hopkins University Press, 2 vols. (2142 pp.). ISBN 978-0-8018-8221-0 . OCLC 62265494.
^ 横浜市 教育委員会 中央図書館 読んでみようこんな本 中学生から
^ "Odocoileus hemionus". Integrated Taxonomic Information System. http://www.itis.gov/servlet/SingleRpt/SingleRpt?search_topic=TSN&search_value=180698 . Retrieved 23 March 2006.
^ Mule Deer | Merced Applegate Park Zoo
^ a b C.Michael Hogan (2008) Aesculus californica, Globaltwitcher.com, ed. N. Stromberg
^ NORTH AMERICAN MULE DEER CONSERVATION PLAN
^ Large Mammals of the Santa Cruz Mountains
^ W J Yenne, Wildlife of North America , London:Bison Books Ltd, 1987, p.37
^ 社団法人エゾシカ協会 籠田勝基「シカの新しい感染病CWDについて」
^ a b Geist, V. (1998). Deer of the world: their evolution, behaviour, and ecology. ISBN 978-0811704960