フィブラート とは、両親媒性 のカルボン酸 誘導体の内、脂質降下薬 として脂質異常症 の治療に用いられる化合物の総称である。
効能・効果
フィブラート系薬剤は、通常、スタチン と組み合わせて、高脂血症の多くの病態の治療に使用される[ 1] 。臨床試験では、単剤での成績が検討されている。フィブラートは非致死的な狭心症を減少させるが、全死亡は改善せず、したがって、(原則として)スタチンに不忍容の場合にのみ使用が承認されている[ 2] [ 3] 。
HDL 増加効果およびトリグリセリド 減少効果によるLDL およびトリグリセリド低下作用は弱いが、脂質異常症が他のメタボリックシンドローム の症状(高血圧 および2型糖尿病 )を伴っている場合、インスリン抵抗性 を改善する[ 4] 。そのため多くの高脂血症に用いられている。フィブラートは血中HDL濃度の低い患者には適さない。米国FDA がフェノフィブラートの添付文書に記載を命じたように、フィブラート投与開始後数か月は、血中HDLコレステロール(HDL-C)濃度を測定すべきである。HDL-Cが著しく低下した場合には、フィブラートを中止してHDL-Cが元に戻るまで観察を継続すべきである。フィブラート投与は再開すべきでない[ 5] 。
作用機序
PPAR
1930年代に臨床応用[ 6] されたフィブラートであったが、1990年代にPPAR (peroxisome proliferator-activated receptors)(特にPPARα)を活性化することが発見されるまでは、その作用機序は永らく不明のままであった。PPARは炭水化物代謝 および脂質代謝 ならびに脂肪細胞 分化を制御する細胞内受容体 である。PPARが活性化されると多くの遺伝子 が転写されて脂質代謝が活発化する。
齧歯類およびヒトでの研究の結果、フィブラートには主に5つの作用があると考えられている[ 7] 。
リポ蛋白質の脂肪分解の誘導:トリグリセリドに富むリポ蛋白質 (TRL)が増加すると、内因性リポ蛋白質リパーゼ(LPL)活性が変化し、またTRLのアポC-III (英語版 ) 含量減少により低下していたLPLの脂肪分解がTRLとの接触機会増加により活性化される。
肝臓での脂肪酸(FA)取り込み誘導およびトリグリセリド産生減少:齧歯類においては、フィブラートは、脂肪酸輸送体 蛋白質およびアシル-CoAシンテターゼ (英語版 ) 活性の誘導により、肝臓での脂肪酸取り込みならびにアシル-CoAへの変換を増加させる。β酸化 経路の亢進と脂肪酸合成の減少が同時に起こることで、トリグリセリド合成に用いることができる脂肪酸が減少し、フィブラートが脂肪組織におけるホルモン感受性リパーゼを阻害することで増幅される。
血中からのLDL除去:フィブラートによりLDL受容体に高親和性のLDLが生成し、速やかに代謝分解される。
VLDL-HDL間の中性脂肪(コレステリルエステルおよびトリグリセリド)交換の低下:血中TRLを減少させる。
HDL生成の増加ならびにコレステロール逆転送の促進:フィブラートは肝臓でのアポA-IおよびアポA-IIの生成を増加させて血中HDL増加に寄与し、コレステロールの逆転送を促進する。
フィブラートは構造的・薬理学的には経口血糖降下薬 のチアゾリジンジオン 系薬剤(PPAR の内、特にPPARγ を活性化させる)に類似している。
フィブラートの多くはCYP3A4 の基質である[ 8] 。
フィブラートは線虫C. elegans の寿命を延ばすことが知られている[ 9] 。
副作用
多くのフィブラートは軽度の胃部不快感およびミオパチー (CPK 上昇を伴う筋痛)を発現する。フィブラートが胆管中のコレステロールを増加させるため、胆石 のリスクが増加する。
スタチン 系薬剤との併用で、横紋筋融解症 (特異的な筋 組織の破壊と続発性腎不全 )のリスクが上昇する。ストロングスタチンの一つ、セリバスタチン (英語版 ) はこの副作用のために2001年に市場から撤退した[ 10] [ 11] 。より低親油性 のスタチン は横紋筋融解症の発現が少ない傾向にある。
用量規制因子の確認時、半数致死量 の死因には急性腎不全 が含まれていた[ 12] 。
げっ歯類ではフィブラートのペルオキシソーム増殖作用による肝細胞肥大と肝がんが生じるが、種差が大きく、ヒトにおける感受性は低いと考えられている。
相互作用
2018年(平成30年)10月16日付け厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長名で[原則禁忌 ]の項の「腎機能に関する臨床検査値に異常が認められる患者に、本剤とHMG-CoA還元酵素阻害薬 を併用する場合には、治療上やむを得ないと判断される場合にのみ併用すること。」を削除した。
[重要な基本的注意]の項に「腎機能に関する臨床検査値に異常が認められる患者に、本剤とHMG-CoA還元酵素阻害薬 を併用する場合には、治療上やむを得ないと判断される場合にのみ併用すること。急激な腎機能悪化を伴う横紋筋融解症があらわれやすい。やむを得ず併用する場合には、本剤を少量から投与開始するとともに、定期的に腎機能検査等を実施し、自覚症状(筋肉痛、脱力感)の発現、CK(CPK )上昇、血中及び尿中ミオグロビン 上昇並びに血清クレアチニン 上昇等の腎機能の悪化を認めた場合は直ちに投与を中止すること。」を追記し、[相互作用 ]の「原則併用禁忌」の項の「HMG-CoA還元酵素阻害薬 (プラバスタチンナトリウム 、シンバスタチン 、フルバスタチンナトリウム 等)」が削除された[ 13] 。
フィブラート系薬剤
関連項目
出典
^ Steiner G (December 2007). “Atherosclerosis in type 2 diabetes: a role for fibrate therapy?”. Diab Vasc Dis Res 4 (4): 368–74. doi :10.3132/dvdr.2007.067 . PMID 18158710 .
^ Abourbih S, Filion KB, Joseph L, Schiffrin EL, Rinfret S, Poirier P, Pilote L, Genest J, Eisenberg MJ (2009). “Effect of fibrates on lipid profiles and cardiovascular outcomes: a systematic review”. Am J Med 122 (10): 962.e1–962.e8. doi :10.1016/j.amjmed.2009.03.030 . PMID 19698935 .
^ Jun M, Foote C, Lv J, et al. (2010). “Effects of fibrates on cardiovascular outcomes: a systematic review and meta-analysis”. Lancet 375 (9729): 1875–1884. doi :10.1016/S0140-6736(10)60656-3 .
^ Wysocki J1, Belowski D, Kalina M, Kochanski L, Okopien B, Kalina Z (2004). “Effects of micronized fenofibrate on insulin resistance in patients with metabolic syndrome”. INTERNATIONAL JOURNAL OF CLINICAL PHARMACOLOGY AND THERAPEUTICS 42 (4): 212-217. PMID 15124979 .
^ “Tricor (fenofibrate) tablets ”. www.fda.gov . FDA (2013年3月11日). 2017年1月18日時点のオリジナル よりアーカイブ。2022年4月16日 閲覧。
^ “Pharmaceutical composition and method for treatment of digestive disorders - Patent 4976970 ”. 2008年12月20日 閲覧。
^ http://circ.ahajournals.org/content/98/19/2088.full
^ http://www.stacommunications.com/journals/cardiology/2004/June/Pdf/034.pdf
^ http://www.impactaging.com/papers/v5/n4/full/100548.html
^ “BAYER VOLUNTARILY WITHDRAWS BAYCOL ”. FDA (2001年8月8日). 2015年4月12日 閲覧。
^ “セリバスタチンナトリウム製剤バイコール錠、セルタ錠の自主的な販売中止および回収に関するお知らせ ”. バイエル薬品・武田薬品工業 (2001年8月). 2015年4月12日 閲覧。
^ Zhao YY, Weir MA, Manno M, Cordy P, Gomes T, Hackam DG et al. (2012). “New fibrate use and acute renal outcomes in elderly adults: a population-based study.” . Ann Intern Med 156 (8): 560–9. doi :10.1059/0003-4819-156-8-201204170-00003 . PMID 22508733 . http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/eutils/elink.fcgi?dbfrom=pubmed&tool=sumsearch.org/cite&retmode=ref&cmd=prlinks&id=22508733 .
^ “「使用上の注意」の改訂について ”. 2018年10月18日 閲覧。