バンドギャップ (英語 : band gap 、禁止帯 、禁制帯 )とは、広義の意味は、結晶のバンド構造 において電子が存在できない領域全般を指す。
ただし半導体 、絶縁体 の分野においては、バンド構造 における電子 に占有された最も高いエネルギーバンド (価電子帯 )の頂上から、最も低い空のバンド(伝導帯 )の底までの間のエネルギー準位 (およびそのエネルギーの差)を指す。
E-k空間 上において電子はこの状態を取ることができない。バンドギャップの存在に起因する半導体の物性は半導体素子 において積極的に利用されている。
半導体のバンド構造 の模式図。Eは電子の持つエネルギー 、kは波数 。Egがバンドギャップ 。半導体(や絶縁体)では「絶対零度で電子が入っている一番上のエネルギーバンド」が電子で満たされており(価電子帯 )、その上に禁制帯 を隔てて空帯がある(伝導帯 )。
金属 、および半導体 ・絶縁体 のバンド構造 の簡単な模式図(k空間無視)
バンドギャップを表現する図は、E-k空間 においてバンドギャップ周辺だけに着目した図、さらにk空間を無視してエネルギー準位だけを表現した図も良く用いられる。
半導体におけるバンドギャップ
電子がバンドギャップを越えて価電子帯 と伝導帯 の間を遷移 するには、バンドギャップ幅以上の大きさのエネルギー(光 や熱 )を吸収または放出する必要がある。半導体素子 においてはこのようなバンドギャップ周辺での電子の遷移を制御することによって、様々な機能を実現している。
バンドギャップはE-k空間 上におけるバンド間の隙間であるため、バンドギャップを越えて遷移するには、エネルギー(E )だけでなく、波数(k )も合わせる必要がある。波数が変化しない遷移(直接遷移 )ならば光 だけで遷移可能である。波数が異なる遷移(間接遷移 )の場合、格子振動 との相互作用を介する遷移となる。
バンドギャップが大きい物質は光子によって電子が励起されにくくそのまま光子が通過するため、可視光波長域のエネルギー以上に大きなバンドギャップを持つ物質は透明になる。
バンドギャップの大きさ(禁制帯幅)を表す単位としては通常、電子ボルト (eV)が用いられる。例えばシリコン のバンドギャップは約1.2 eV、ヒ化ガリウム では約1.4 eV、ワイドギャップ半導体 の窒化ガリウム では約3.4 eVである。物質内部で伝導に寄与する全電子のポテンシャルエネルギーが1eV変化することは、物質全体の電位が1 V変化することに相当する。バンドギャップの大きさは、PN接合 などを動作させる時に必要な印加電圧に大きく影響する。たとえばシリコンのダイオード は通常0.6~0.7 V程度で動作するが、窒化ガリウムの青色発光ダイオード を動作させるには、3 Vを越える電圧を供給する必要がある(PN接合 の項も参照)。
類義語
似た用語としてエネルギーギャップ(energy gap)がある。固体電子論(バンド理論 )では、バンド構造におけるバンドとバンドの間の隙間を指す(広義のバンドギャップとほぼ同じ意味合いとなる)が、それ以外の意味をもつ場合がある(例:超伝導 におけるエネルギーギャップなど)。
理論計算
バンド計算 における局所密度近似 では、バンドギャップは実験値と比べると常に過小評価され、実験値と一致しない(例:シリコン のバンドギャップの実験値は、1.17 eV 、これに対しLDA におけるバンドギャップは、0.4~0.5 eV程度の値となる←常に過小評価となるが、系によりその程度は異なる)。
この過小評価の問題を解決する方法(LDAを越える試み )としては、自己相互作用補正 、GW近似 などがある。
温度による影響
半導体のバンドギャップエネルギーは温度が上昇することで減少する傾向がある。温度が上昇する際、原子振動の振幅が増加し、原子同士の間隔がより大きくなる。格子のフォノン および自由電子、正孔における相互作用もまた、より小さな範囲でバンドギャップに影響を及ぼす[ 1] 。バンドギャップと温度の関係はVarshniの経験式 によって記述される。
E
g
(
T
)
=
E
g
(
0
)
− − -->
α α -->
T
2
T
+
β β -->
{\displaystyle E_{\mathrm {g} }(T)=E_{\mathrm {g} }(0)-{\frac {\alpha T^{2}}{T+\beta }}}
E g (0)、α 、β は材料に由来する定数、T は温度である[ 2] 。
数学的解釈
古典的に、エネルギー差ΔE を持つ2つのバンドが電子によって占有される可能性の比率はボルツマン因子 (en:Boltzmann factor )によって与えられる。
exp
-->
(
− − -->
Δ Δ -->
E
k
T
)
{\displaystyle \exp {\left(-{\frac {\Delta E}{kT}}\right)}}
ΔE =エネルギー差、k =ボルツマン定数 、T =温度
フェルミ準位 または化学ポテンシャル において占有される可能性は50%である。フェルミ準位が1 eVのバンドギャップ中にあるならば、25.9 meVの室温の熱エネルギーを受ける状態において、その比率はe−20 もしくはおよそ2.0−9 である。
バンドギャップの一覧
出典
関連項目