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ニュー・ホライズンズ (英語、New Horizons)は、アメリカ航空宇宙局 (NASA) が2006年 に打上げた、人類初の冥王星 を含む太陽系外縁天体 [注 1] 探査を行うための無人探査機 である。
概要
ニュー・ホライズンズが、2015年7月13日に768,000 kmの距離から撮影した冥王星。
ニュー・ホライズンズ打上げ費用は、ロケット製造費、施設利用費、装置開発経費およびミッション全体の人件費を含み、約7億ドル (日本円 で約800億円)である。ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所 のミッションチームが管制を行っている。
地球での打上げ時の探査機本体の質量は、推進剤77 kg 含め、465 kgであった。本体を軽量にして、生じたロケットの推力余裕は、探査機航行速度向上に充てられた。打上げ直後の対地球速度は約16(km/s)を超え、これは歴代の探査機の中で最高速度である[1] 。発射後9時間で月 の軌道 (地球 より約38万 km )を通過し、13ヵ月後に木星 をスイングバイ した。月軌道および木星までの所要期間は、史上最短である。
太陽系外縁天体近傍は太陽 から遠いために、光が弱くて太陽電池 を使用出来ないため、原子力電池 を搭載している[2] 。また、冥王星軌道からの通信速度は、僅か800 bps 弱に過ぎないため、64 Gbit (8 GB )相当のフラッシュメモリ を搭載し[注 2] 、冥王星探査で取得したデータはメモリに蓄積してから、長期間掛けて地球へ送信する[注 3] 。
ミッション用機器の他、星条旗 、公募した43万人の名前が記録されたCD-ROM 、史上初の民間宇宙船スペースシップワン の機体の一部だったカーボンファイバー の破片、冥王星を発見したクライド・トンボー の遺灰が搭載された。遺灰の搭載については、打上げ後に公表された。また、2014年には「New Horizons Message Initiative」が結成された。人類からエイリアンへ向けたデジタル・メッセージを公募して、全ての任務完了後のニュー・ホライズンズへ送信する計画である[3] 。
当初、打ちげは2006年 1月11日 (EST )の予定だったが、ロケット本体の点検や天候不順などで再三延期された[注 4] 。
この探査機の打上げ機 のアトラスV は、初段に固体ロケットブースター AJ-60Aを5基付けた、同機によって実施された打上げとしては最大の構成である「551」による打上げの最初の事例である[注 5] 。
前述のような多数のブースターと軽いペイロードのために、第2段のセントール すら地球の重力圏から脱出して、小惑星帯 に遠日点 を持つ人工惑星 となった。更に、最終段である第3段のスター48 ロケットモーターは、冥王星軌道の外側へと飛んでゆく軌道に入った。
冥王星軌道を通過後のニュー・ホライズンズにより、さらにエッジワース・カイパーベルト 内の別の太陽系外縁天体 を探査することが計画されている。目標に出来得る天体は、日本のすばる望遠鏡 も参加して打上げ後も捜索が行われ[4] 、複数の候補が挙げられた。2015年8月28日に、観測候補として2014 MU69 が選ばれたと発表された[5] 。
2014 MU69 はウルティマ・トゥーレという愛称が付けられ、ニュー・ホライズンズは2019年1月1日に最接近し、近接探査した[6] 。これにより同天体は赤い雪ダルマのような形状が確認され、接触二重小惑星 であることを明らかとした。 その後、2019年11月8日になって国際天文学連合 (IAU)の小惑星センター が「2014 MU69 」の固有名を「アロコス 」(Arrokoth)と決定した旨を公表した。
日程
ロケット最上段部分のフェアリング 内へ格納される直前のニュー・ホライズンズ。
ミッションロゴ
アトラスV 551型で打上げられたニュー・ホライズンズ。
ニュー・ホライズンズが初めて撮影した冥王星。2006年9月21・24日の画像。
2006年
2007年
1月:装置試験を兼ねて木星観測開始。
2月28日 5時43分40秒:木星に最接近(ニュー・ホライズンズと木星との距離は2,304,541 km)。スイングバイ によって4 km/s近く加速し、23.1 km/s以上に達した[7] 。前後の数日間には木星の小赤斑、エウロパ 、ガニメデ 、イオ を撮影し、イオの撮影では同時に3火山が噴火している状態を写真に収めることに成功した。
6月:木星観測とデータ送信終了。
7月以降:Venetia(微粒子カウンター)以外のほとんどの機器を休眠状態に変更。以後2014年 11月 まで休眠状態を継続し、その間は約半年に1回のペースで、定期的に再起動と点検を実施した。
2008年 6月8日:土星 軌道を通過。
2009年 12月29日 :地球と探査機の距離が24億6300万 kmに達し、冥王星までの中間点を通過した。以降は探査機から見ると地球より冥王星の方が近い[8] 。
2010年 3月8日 :ケンタウルス族 の小惑星 (83982) クラントル に接近。接近前後で、一部の観測装置を再試験。
2011年 3月18日:天王星 軌道通過。
2014年
8月25日:海王星 軌道通過。
12月6日:最後の(18回目の)休眠モードから目覚めた[9] 。
冥王星探査の詳細
2015年
1月15日 :冥王星観測を開始したと発表[10] 。
2月5日:1月25日に撮影した冥王星とカロンの画像を公開[11] 。
2月14日 :冥王星探査開始。
4月後半:この頃には、冥王星へ接近したため、画像の画質がハッブル宇宙望遠鏡 による最良の物と同等にまで向上。
6月初旬:全ての観測機器を常時観測体制に変更。
7月4日:通信途絶が発生し、回復後も一部の機器しか動作しない状態(セーフモード )に陥った[12] 。
7月7日:セーフモード状態より復旧、通常の観測を再開。
7月14日 :11時47分に冥王星をフライバイ(接近通過)し、冥王星と衛星カロン を撮影[13] 。最接近時の距離は13,695 kmで、カロンの公転軌道の内側を通過した。その際の速度は、14 km/s。
2016年 1月まで:冥王星とその衛星群 を観測。
2016年
1月:接近後の探査終了[14] 。
10月25日9時48分(UTC):全データ受信完了[15] 。
太陽系外縁天体の探査
2018年3月13日:観測対象の2014 MU69 に対してNASAは「ウルティマ・トゥーレ」(Ultima Thule)の愛称を提案(正式名称は後に「アロコス」に決定)。
2019年 1月1日:アロコスに最接近、観測を行った[6] [16] 。最接近時のアロコスとの距離は3500 kmだった[17] 。
2020年11月頃にかけて:20か月程でアロコスの観測データを送信[16] 。
その後、新たな観測対象を検討中[16] 。
最終的には太陽系 から離脱する[18] 。
搭載機器
2005年にケネディ宇宙センター でメディア向けイベントのために準備されているニュー・ホライズンズ。 Mongoose-V
ニュー・ホライズンズを制御する、放射線対策が施されたMIPS R3000 系の組み込み用チップ。12MHz動作のものが搭載されている[19]
Alice
冥王星の大気 の組成と構造を調べる紫外線 イメージングスペクトロメーター(多波長撮像装置)。
Ralph
マルチスペクトルカメラ(モノクロとカラーの可視光カメラ)。
REX (Radio Science Experiment)
探査機の通信システムと一体の実験装置で、冥王星とカロンの大気の温度・圧力・密度・温度を測定する。
探査機のわずかな軌道変化を測定して、冥王星、カロン(うまくいけば別の太陽系外縁天体 も)の質量を求める。また、冥王星とカロンによる地球の蝕 (地球からの電波が遮られる現象)の時刻を測定する(これから、冥王星とカロンの正確な大きさがわかる)。
LORRI (Long Range Reconnaissance Imager)
モノクロ望遠カメラ。
SWAP (Solar Wind at Pluto)
太陽風 と冥王星の大気との相互作用を調べる。
PEPSSI(ペプシ, Pluto Energetic Particle Spectrometer Science Investigation)
粒子線観測器。冥王星から宇宙空間に逃げ出した大気物質を測定する。
ヴェネチア・バーニー学生微粒子計数器( ヴェネチア (Venetia), Venetia Burney Student Dust Counter, VBSDC)
彗星 、小惑星 、外縁天体同士が衝突して出る、微細な塵粒子の個数・速度・質量を計測する。コロラド大学 の学生達によって設計・製作された。名称は、1930年、"Pluto"(冥王星の原語)という名を提案したイギリス人女性、ヴェネチア・バーニー (Venetia Burney, 1919年 - 2009年 )にちなんで、打ち上げ後に命名された[注 7] 。
ニュー・ホライズンズ・キッズ
ミッションチームは2007年1月、「ニュー・ホライズンズ・キッズ (NHKs)」と称するEducation and Public Outreach [訳語疑問点 ] プログラムを開始した。これはニュー・ホライズンズが打ち上げられた2006年1月19日に産まれた子供と、その日に10歳の誕生日を迎えた子供をそれぞれ4 - 6人、合わせて10 - 12人選び、「キッズ」達の成長を2016年まで見守り続けようという計画である[20] 。
ニュー・ホライズンズ2号
ニュー・ホライズンズが打上げられる前に、原子力電池の出力不足で冥王星フライバイ後に予定されている太陽系外縁天体の探査に支障が生じる可能性があったため、計画主任のアラン・スターンらがバックアップ機としてニュー・ホライズンズ2号 (New Horizons 2) の製作と打上げを提案した。これは木星 と天王星 をフライバイして外縁天体 (47171) 1999 TC36 の探査を目指す計画だったが、そのためには2009年中頃までに打上げなければならなかった[21] [22] 。
画像
ニュー・ホライズンズが写した冥王星。
ニュー・ホライズンズのデータより作成された冥王星の全球。
冥王星の北極付近の地表。
太陽を背後に写した冥王星。大気がリング状に輝いている。
ニュー・ホライズンズが写した冥王星最大の衛星である
カロン 。
ニュー・ホライズンズが写した冥王星の衛星の1つ
ニクス 。
ニュー・ホライズンズが写した木星と、その衛星イオ。
脚注
注釈
^ 但し、打上げ時点では冥王星は惑星 とされていた(惑星#太陽系の惑星の定義 参照)。
^ 64 Gbitsなので、記録容量は8 GB であり、これは一般的なUSBメモリにも用いられている容量であるため、記録容量が少ないように思うかもしれない。しかし、単にフラッシュメモリといっても、地球上で使用する一般の市販品と異なり、宇宙線 に耐えられなければならないなど、使用環境が全く異なる。一般に記録密度 が高くなればなる程、宇宙線などの影響には弱くなる傾向にあるため、宇宙用のフラッシュメモリの記録容量を増やすのは、21世紀初頭の技術においてもなお容易ではない。
^ 仮に800(bit/秒)の速度でデータを受取り続けたとしても、もしも64 Gbitsのデータを受信しようとすると、925日間を超える時間を必要とする。
^ アトラスロケットの燃料タンクに亀裂が生じる可能性が有ると判明し、点検のため現地時間11日から17日へ延期した。さらに天候状態悪化により18日に、管制施設の停電により19日に延期した。打上げが2月3日以降まで遅れた場合は、木星スイングバイによる増速が不可能となり、冥王星到達が3 - 5年遅れる可能性があった。打上げウィンドウ の記事も参照のこと。
^ 2018年末時点で、この構成による打上げは、その後8回の合9回実施され、いずれも成功した。これより大きな構成である、CCBを3本とした構成(デルタIVヘヴィーやファルコン9ヘヴィーに類似)は開発が中止された。
^ 近接遭遇すると判明したのは打ち上げ後。当時は仮符号 のみで2002 JF56 と呼ばれていたが、通過後にAPLと命名された。
^ 2006年12月、ミッションチームのメンバーがロンドンを訪問し、88歳のヴェネチア・バーニーと対面した。
出典
関連項目
外部リンク
特徴 発見 探査 2006年までの分類 2006年以降の分類 冥王星における日面通過 関連項目
カテゴリ
オービター 降下探査 フライバイ 計画ミッション 提案中の計画
中止された計画
関連項目
太字の下線 は現役の宇宙機を示す
2015年の天文学や宇宙探査に関する成果や発見、出来事
打ち上げられた主な探査機 主な火球・天体落下 主な彗星 注目された主な小惑星 発見された主な太陽系外惑星 太陽系探査での成果 その他の発見