ナマ語 (ナマご、英 : Nama 、Nàmá )はコエ語族 に属する言語 である。コエコエ語 (Khoekhoe)[ 1] [ 2] 、ダマラ語 (Damara)[ 3] [ 2] などとしても知られる。かつては蔑称としてホッテントット語 (Hottentot)と呼ばれたこともある[ 2] [ 4] 。話者はナミビア 、ボツワナ 、南アフリカ共和国 に居住するナマ人 の人々である。吸着音 を多用する非バントゥー語群 言語であり、コイサン諸語 に分類されたこともあったが、現在ではコエ語族 に分類されている。
歴史
もともとジュー語 を話していたハイチョム(Haiǁom)族が後にコエコエ語 にシフトした。コエ語族 とのことで、その話者をコイコイ人 とも呼ぶ。後のケープタウン と呼ばれることになる「ǁHui!gaeb」に1659年に上陸したゲオルク・フリードリヒ・ヴレーデ (Georg Friedrich Wreede)が最初にこの言語を学んだ欧州人とされる[要出典 ] 。
現況
ナマ語(またはコエコエ語)はナミビア の国民的言語 である。ナミビアと南アフリカ では、国営放送 がナマ語による番組を制作・放送している。アフリカ では約167,000人の話者が残っていると想定されているが、危機に瀕する言語 とされている。2019年にケープタウン大学 が一連の語学講座を実施し、2020年9月にはコイサン ・センターを開設した。ここ数年の間に学部生向け学位課程が計画されている[ 5] 。
音韻
ナマ人 の男性がナマ語を教えている
母音
母音 は口音 の/i e a o u/ に見られる5種と、鼻音 の/ĩ ã ũ/ がある。/u/ は強い円唇母音 で、/o/ は少しだけ丸みを帯びている。/a/ は唯一明白な異音 で、/i/ または/u/ の前では[ə] と発音される。
声調
ナマ語では3[ 6] か4種[ 7] [ 8] [ 9] の声調があると説明されている。/á, ā, à/ や/a̋, á, à, ȁ/ は各モーラ (母音と終鼻子音)に付与される。高母音(/í ú/ )には鼻母音(/ń ḿ/ )、中または低母音(/é á ó/ )では高音はより高くなる[ 6] 。
ナマ語の声調は、環境構成によっては旋律 のように連続変調 として組み合わされる。うち重要なものを下記に引用する[ 7] 。
事例
連続変調
意味
高低
[ǃ̃ˀȍm̀s]
[ǃ̃ˀòm̏s]
打つ、たたく
低
[ǃ̃ˀȍḿs]
(牛・山羊などの)乳房
低昇
[ǃ̃ˀòm̀s]
巣から追い出す
中
[ǃ̃ˀòm̋s]
[ǃ̃ˀòm̀s]
角無し牛
高昇
[ǃ̃ˀóm̀s]
[ǃ̃ˀóm̏s]
凝固する、トゲを抜く
低降
[ǃ̃ˀőḿs]
[ǃ̃ˀóm̀s]
拳
高降
強勢
文中では、語彙範疇 の単語は文法範疇 の単語より強い強勢 を持つ。単語の中では第一音節 が最も強い強勢を持つ。後続の音節は徐々に弱くなり、より短く発音される。
子音
ナマ語は31種の子音があり、吸着音が20種、非吸着音が11種ある[ 7] 。
非吸着音
正式な表記は括弧内に表示する。
母音と母音の間では/p/ は[β] と発音され、/t/ は[ɾ] と発音される。破擦音系は強く気化され、音韻論 的には有機終止として分析され、隣接のコラナ語 では[tʰ, kʰ] となる。D・ビーチ[ 10] によると、当時のコエコエ語では、吸着音を持つ言語での異音 の共通再現として軟口蓋側面放出破擦音 である[kʟ̝̊ʼ] があったと報告している。
吸着音
吸着音は二重調音 である。それぞれの吸着音は4種の一次調音である流入音(インフラックス)とクリック種[ 11] [ 12] [ 13] と、5種の二次調音であるクリック伴音(エフラックス)の組み合わせから成る。組み合わせは20種の音素となっている[ 14] 。
有気吸着音の有気音はしばしば軽いことが多いが、有気鼻音吸着音より耳障りで、スコットランド語の「loch」の「ch」音に近くなる。声門吸着音は気流開放前に止めるため明確に無声音で、伝統的な綴りでは単純に無声吸着音と転写される。鼻音要素は初期位置では聞き取れず、有気吸着音の無声鼻音も母音の間にある場合は聞き取りにくく、外国人の耳にも少し荒々しくない調音の長めの感じに聞こえる。
ティンドールは欧州人学習者はほとんどの場合、舌を側面の歯に当てて側面吸着音を発音するため、この調音は「ネイティブの耳には過酷で異質」であると指摘している。しかし、ナマクア族は、舌で口蓋全体を覆い「できるだけ口蓋の奥で」音を出している[ 15] 。
音素配列
語彙の語根 は2個(またはまれに3個)のモーラ から成り、CVCV(C)、CVV(C)、CVN(C)の形態をとる(語頭に子音が必要)。中間の子音はw r m n (w is b~p and r is d~t )のみが可能で、語尾の子音はp, s, ts のみ使用可能である。各モーラは声調を持ち、2個目は高・中のみで、そのため、6種の声調のみが可能となる(高高、中高、低高、高中、中中、低中)。
CVVの場合の口腔内の母音配列は/ii ee aa oo uu ai [əi] ae ao au [əu] oa oe ui/ となる。鼻母音数が減少しているため、鼻音配列は/ĩĩ ãã ũũ ãĩ [ə̃ĩ] ãũ [ə̃ũ] õã ũĩ/ である。舌の位置が高い母音(/ii uu ai au ui ĩĩ ũũ ãĩ ãũ ũĩ/ )で終わる配列は他(/ee aa oo ae ao oa oe ãã õã/ )に比べより短く(速く)発音され、少し中断する母音接続 よりも二重母音 や長母音 のように発音される。
声調は曲線 のようになめらかに発音される。CVCVの単語は例外は多いものの、同様の母音配列になりがちである。2つの声調はより明確でもある。
母音ー鼻音の配列は非前舌母音 (/am an om on um un/ )に限定される。これらの声調も曲線のようになめらかに発音される。
文法 語彙はCVまたはCNでどの母音も声調も伴い、Cも子音でも吸着音でもいいが、後者はNNとはならない。接尾辞 や語根の3つ目のモーラはCV、CN、V、Nででどの母音も声調も伴い、-p 1m.sg, -ts 2m.sg, -s 2/3f.sgなどCのみの接尾辞もある。
言語名別称
ダマラ語
ダマ語
ホッテントット語(蔑称)
コエコエ語
コイ語
コイコイ語
ナマクア語
Berdama
Bergdamara
Hottentot
Kakuya Bushman
Khoekhoe
Khoekhoegowab
Khoekhoegowap
Maqua
Namakwa
Naman
Namaqua
Nasie
Rooi Nasie
Tama
Tamakwa
Tamma
方言
ǂAkhoe
Bondelswarts
Central Damara (Central Dama)
Central Nama
Ghaub Damara
Gobabis
Namidama
Sesfontein Damara
Topnaar
脚注
^ Laurie Bauer, 2007, The Linguistics Student's Handbook , Edinburgh
^ a b c “Khoekhoe languages ” (英語). Encyclopædia Britannica . 2020年3月15日 閲覧。
^ Haacke, Wilfrid H. G. (2018), Kamusella, Tomasz; Ndhlovu, Finex, eds., “Khoekhoegowab (Nama/Damara)” (英語), The Social and Political History of Southern Africa's Languages (Palgrave Macmillan UK): pp. 133–158, doi :10.1057/978-1-137-01593-8_9 , ISBN 978-1-137-01592-1
^ “Hottentot ” (英語). Oxford Reference . 2022年12月15日 閲覧。
^ Swingler, Helen (23 September 2020). “UCT launches milestone Khoi and San Centre ”. UCT News . University of Cape Town . 4 January 2021 閲覧。
^ a b Hagman (1977)
^ a b c Haacke & Eiseb (2002)
^ Haacke 1999
^ Brugman 2009
^ D. Beach, 1938. The Phonetics of the Hottentot Language . Cambridge.
^ D. Beach, 1938. The Phonetics of the Hottentot Language . Cambridge.
^ Ladefoged, P and Maddieson, 1. (1996) The Sounds of the
World's Languages. Blackwell.
^ 中川裕「コイサン諸語のクリック子音の記述的枠組み(<特集>アフリカ諸語の音声) 」『音声研究』第2巻第3号、日本音声学会、1998年、52-62頁、doi :10.24467/onseikenkyu.2.3_52 、ISSN 13428675 、NAID 110008762692 。
^ “Nama ”. phonetics.ucla.edu . 18 October 2020 閲覧。
^ Tindal (1858) A grammar and vocabulary of the Namaqua-Hottentot language
関連項目
ウィクショナリーに
コエコエ語 に関するカテゴリがあります。
外部リンク