『ナイルに死す』(ナイルにしす、Death on the Nile)は、イギリスの女流作家アガサ・クリスティが1937年に発表した推理小説。名探偵エルキュール・ポアロが船上での怪事件に挑む。
概要
クローズド・サークルものの傑作の一つ。中近東を舞台にした長編第2作で[注釈 1]、中近東シリーズ最高峰の作品でもある[1]。クリスティ作品の中でも上位にランクされている(#作品の評価参照)。
作者のクリスティは、1933年に2番目の夫で考古学者であるマックス・マローワンとともにナイル川のクルーズ船、「スーダン号」[注釈 2]に乗船。その旅に触発されて4年後に『ナイルに死す』を書き上げた。
あらすじ
大富豪の娘リネット・リッジウェイはウィンドルシャム卿と婚約していたが、何事も自分の思い通りにしたがる性格のため、結婚に躊躇していた。ある日、親友のジャクリーン・ド・ベルフォールがやってきて、自分の婚約者が失業中のため、リネットの屋敷で雇って欲しいと頼んでいった。そして後日、その婚約者であるサイモン・ドイルを連れてきたところ、リネットは彼に一目惚れしてしまい、ジャクリーンから奪うようにして結婚してしまった。
エジプトに新婚旅行に出たリネットらは、しつこくつきまとってくるジャクリーンにいらだたされる。偶然エジプトに来ていた名探偵エルキュール・ポアロは、リネットから頼まれてジャクリーンをたしなめようとするが、彼女は全く聞き入れないどころか、小さなピストルを取り出して、これでリネットを撃ってしまいたくなる、と言った。
リネットらはジャクリーンから逃げるようにしてナイル川を遡る観光船に乗り込んだが、そこにもジャクリーンの姿があった。そしてある晩、展望室で事件が起こった。泥酔したジャクリーンがサイモンと口論になり、ジャクリーンがサイモンの脚を撃ってしまったのだった。ドクター・ベスナーがサイモンを介抱し、ヒステリーを起こしたジャクリーンを看護婦のバウァーズが部屋に連れて行った。
そして次の朝、リネットが部屋で死んでいるのが発見された。寝ている間に頭を撃たれたのだ。凶器はジャクリーンが持っていたピストルらしいが、そのピストルは展望室での事件の後、どこかへ行方不明になっていた。しかも、ジャクリーンが夜中に部屋を出なかったことはバウァーズが証言している。では、いったい誰がリネットを殺害したのか。船上の殺人事件に、名探偵ポアロと友人のレイス大佐が挑む。
登場人物
- エルキュール・ポアロ - 私立探偵。
- リネット・リッジウェイ - 富と美貌を兼ね備えた女性。
- サイモン・ドイル - リネットの夫。
- ジャクリーン・ド・ベルフォール - リネットの友人で、サイモンの元婚約者。
- ルイーズ・ブールジェ - リネットのメイド。
- レイス大佐 - 英国特務機関員で、ポアロの友人[注釈 3]。途中から船に乗り込む。
- ヴァン・スカイラー - 大富豪の貴婦人。
- コーネリア・ロブスン - スカイラーの従妹。
- バウァーズ - スカイラーの看護婦。
- ジョアナ・サウスウッド - 社交界の貴婦人。リネットの友人でもある。
- ミセス・アラートン - ジョアナの従妹。
- ティム・アラートン - アラートンの息子。リネットの友人でもある。
- アンドリュー・ペニントン - リネットの財産管理人。
- スターンデイル・ロックフォード - ペニントンの共同営業者。
- ジム・ファンソープ - 弁護士。
- ウィリアム・カーマイケル - ジムの伯父。弁護士。
- ファーガスン - 社会主義者。
- ギド・リケティ - 考古学者。
- カール・ベスナー - 医者。
- サロメ・オッタボーン - 作家。
- ロザリー・オッタボーン - オッタボーンの娘。
- フリートウッド - 船の機関士。
作品の評価
備考
- オッタボーン夫人が執筆している本の題名は『沙漠に降る雪』(つまり、アガサ・クリスティの処女長編作である『沙漠の雪』とほぼ同じような題名)となっており、ユーモアが感じられる。
- 『パーカー・パイン登場』に同一タイトルの短編作品「ナイル河の殺人」 (Death on the Nile) が収載されているが、本作品とは無関係である。
- 三谷幸喜が脚本を手がけたドラマシリーズ『古畑任三郎』内で、数学界の難問である「ファルコンの定理」を証明した人物として本作の登場人物である"アンドリュー・ペニントン"と"スタンディール・ロックフォード"の名前が流用され複数回にわたって登場している。
日本語訳版
本作品は、現在、早川書房の日本語版翻訳権独占作品となっている。
出版年月日
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タイトル
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出版社
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文庫名等
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訳者
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巻末
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ページ数
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ISBNコード
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カバーデザイン
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備考
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1957年10月31日
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ナイルに死す
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早川書房
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世界探偵小説全集374
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脇矢徹
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315
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装幀 上泉秀俊
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著者の前書き
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1965年2月15日
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ナイルに死す
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新潮社
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新潮文庫 赤135D
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西川清子
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あとがき 訳者
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402
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鈴木邦治、野中昇 ほか
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1977年10月
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ナイルに死す
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早川書房
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Hayakawa novels
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加島祥造
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解説「アガサ・クリスティーの映画化」飯島正
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429
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真鍋博 ほか
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1984年9月30日
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ナイルに死す
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早川書房
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ハヤカワ・ミステリ文庫 HM1-76
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加島祥造
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「クリスティーと映画」双葉十三郎
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464
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ISBN 978-4-15-070076-8
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真鍋博
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著者の前書き 訳者からのおねがい
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2003年10月
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ナイルに死す
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早川書房
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ハヤカワ文庫、クリスティー文庫 15
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加島祥造
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解説 西上心太
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581
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ISBN 978-4-15-130015-8
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Hayakawa Design
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著者の前書き 訳者からのおねがい
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2020年 9月11日
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ナイルに死す〔新訳版〕
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早川書房
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ハヤカワ文庫、クリスティー文庫 15
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黒原敏行
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解説 西上心太
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560
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ISBN 978-4-15-131015-7
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早川書房デザイン室
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クリスティー デビュー100周年& 生誕130周年記念刊行
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児童書
出版年月日
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タイトル
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出版社
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文庫名等
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訳者
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巻末
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ページ数
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ISBNコード
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カバーデザイン
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備考
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2008年 6月25日
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ナイルに死す 上
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早川書房
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クリスティー・ジュニア・ミステリ 8
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佐藤耕士
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254
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ISBN 978-4-15-208929-8
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イラスト:横田美晴
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2008年 6月25日
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ナイルに死す 下
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早川書房
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クリスティー・ジュニア・ミステリ 8
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佐藤耕士
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254
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ISBN 978-4-15-208930-4
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イラスト:横田美晴
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2020年 9月11日
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名探偵ポアロ ナイルに死す
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早川書房
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ハヤカワ・ジュニア・ミステリ 9
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佐藤耕士
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480
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ISBN 978-4-15-209929-7
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イラスト:二階堂 彩 イラスト編集:サイドランチ 装幀:早川書房デザイン室
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戯曲
『ナイル河上の殺人』 (Murder on the Nile: A Play in Three Acts) の題名で、1948年にクリスティ自身が本作を戯曲化している。ポアロは登場しない。日本でも同戯曲は長沼弘毅の訳で1955年の『宝石』増刊号に掲載されたが、2015年現在、書籍化はされていない。
映像化
- 2004年、『名探偵ポワロ』シリーズでテレビドラマ化された。ロザリー・オッタボーンの恋の結末が原作と異なっている。
舞台化
2004年、『ナイル殺人事件』の題名で、東宝で舞台化された。演出は山田和也、上演台本は橋本二十四、キャストは北大路欣也、岩崎良美、小林高鹿、森ほさち、淡路恵子、友井雄亮、松田かほり、愛佳、戸井田稔、安原義人、青山達三、劇場はル・テアトル銀座。
脚注
注釈
出典
外部リンク
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長編推理小説 |
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短編集 | |
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その他書籍 | |
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戯曲 | |
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登場人物 | |
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映像化作品 |
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関連項目 | |
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