ドーパミン
4-(2-アミノエチル)ベンゼン-1,2-ジオール
別称
ドパミン, DA 2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルアミン 3,4-ジヒドロキシフェネチルアミン 3-ヒドロキシチラミン Intropin Revivan オキシチラミン
識別情報
CAS登録番号
51-61-6
KEGG
D07870
特性
化学式
C8 H11 NO2
モル質量
153.178 g/mol
融点
128 ℃ (401 K)
特記なき場合、データは常温 (25 °C )・常圧 (100 kPa) におけるものである。
ドーパミン (英 : dopamine )は、中枢神経系 に存在する神経伝達物質 で、アドレナリン 、ノルアドレナリン の前駆体 でもある。運動調節、ホルモン調節、快 の感情、意欲、学習などに関わる。セロトニン 、ノルアドレナリン、アドレナリン、ヒスタミン 、ドーパミンを総称してモノアミン神経伝達物質 と呼ぶ。またドーパミンは、ノルアドレナリン、アドレナリンと共にカテコール 基をもつためカテコールアミン とも総称される。医学・医療分野では日本語表記をドパミン としている[ 1] 。合成された注射製剤が循環器科 [ 2] 、救急 [ 3] 、集中治療医学 [ 2] 、麻酔科学 [ 4] 等の領域で頻用されている。
概要
統合失調症 の陽性症状(幻覚・妄想など)は基底核 や中脳辺縁系 ニューロンのドーパミン過剰によって生じるという仮説がある。この仮説に基づき薬物療法で一定の成果を収めてきているが、一方で陰性症状には効果が無く、根本的病因としては仮説の域を出ていない。覚醒剤 はドーパミン作動性に作用するため、中毒症状は統合失調症に類似する。強迫性障害 、トゥレット障害 、注意欠陥多動性障害 (ADHD ) においてもドーパミン機能の異常が示唆されている。
一方、パーキンソン病 では黒質 線条体 のドーパミン神経が減少し筋固縮、振戦、無動などの運動症状が起こる。また抗精神病薬 などドーパミン遮断薬の副作用としてパーキンソン症候群 が起こることがある。
中脳皮質系 ドーパミン神経は、とくに前頭葉に分布するものが神経回路のグループである報酬系 などに関与し、意欲、動機、学習など、課題に取り組む欲と解決による欲の解消を循環する重要な役割を担っていると言われている。新しい知識 が長期記憶 として貯蔵される際、ドーパミンなどの脳内化学物質 が必要になる[ 5] 。陰性症状の強い統合失調症 患者や、一部のうつ病 では前頭葉 を中心としてドーパミンD1 の機能が低下しているという仮説がある。
下垂体 漏斗系 においてドーパミンはプロラクチン などの分泌抑制因子として働く。そのためドーパミン作動薬は高プロラクチン血症の治療薬として使用され、逆にドーパミン遮断薬(抗精神病薬など)は副作用として高プロラクチン血症を誘発する。
ドーパミン部分作動薬のアリピプラゾール (エビリファイ)は低プロラクチン血症を誘発することが分かっており[ 6] 、高プロラクチン血症の治療効果もある。その副作用として異常性欲 や性的倒錯 があり[ 7] 、アメリカ食品医薬品局 (FDA)は添付文書で黒枠の警告をしている[ 8] 。
生合成過程
ドーパミンの生合成経路
ドーパミンの前駆体はL-ドーパ である。L-ドーパはフェニルアラニン やチロシン の水酸化 によって作られる。
チロシン→L-ドーパ (L-ジヒドロキシフェニルアラニン)
L-ドーパ→ドーパミン
さらに一部のニューロンにおいては、ドーパミンから、ドーパミン-β-モノオキシゲナーゼ (dopamine beta hydroxylase, DBH; あるいは dopamine beta-monooxygenase) EC 1.14.17.1 によってノルアドレナリン が合成される。
放出・再取り込み・分解
ニューロンでは、ドーパミンは合成された後、小胞 の中へ充填され(中枢神経系では小胞性モノアミン輸送体2 vesicular monoamine transporter 2 (VMAT2, SLC18A2) の働きによる)、活動電位 の発生に伴って、放出される。
放出後のドーパミンは、ドーパミン輸送体 (dopamine transporter, DAT, SLC6A3) によって、ドーパミン作動性の軸索に再取り込み される。その後、カテコール-O-メチル基転移酵素 (catechol-O-methyl transferase, COMT) EC 2.1.1.6 およびモノアミン酸化酵素 (monoamine oxidase, MAO) EC 1.4.3.4 によって、分解される。酵素による分解を免れたドーパミンは、再び小胞へと充填されて再利用されると考えられている。
薬剤
ドーパミンが関係する薬剤には以下のようなものがある。抗精神病薬 は、主にドーパミンD2 受容体を遮断することで効果を発現する。抗パーキンソン病薬 のほとんどは、ドーパミンの前駆体であったりドーパミン受容体を刺激したりすることでドーパミン作動性に働くことで効果を発現する。
末梢において作用するもの
ドーパミン(イノバン、カタボン):急性循環不全治療薬
ドーパミン作動薬 (アゴニスト)
L-ドーパ(ドパストン)、L-ドパ・カルビドパ配合剤(ネオドパストン)、カベルゴリン(カバサール)、ブロモクリプチン(パーロデル)、ケタミン (ケタラール)、メマンチン (メマリー)、アマンタジン (シンメトレル)、メチルフェニデート (リタリン、コンサータ)、アンフェタミン (Adderall)、メタンフェタミン 、コカイン 、ジゾシルピン (MK-801)など。
ドーパミン部分作動薬 (パーシャルアゴニスト)
アリピプラゾール (エビリファイ)、フェンサイクリジン (PCP)など。
ドーパミン拮抗剤(アンタゴニスト)
抗精神病薬 (クロルプロマジン 、ハロペリドール 、オランザピン など)
ドーパミン放出阻害剤
ミノサイクリン (ミノマイシン)[ 12]
その他
スルピリド
脚注
^ 日本神経学会用語委員会編『神経学用語集 改訂第3版』文光堂、2008年、p.42
^ a b Suzuki, Reina; Uchino, Shigehiko; Sasabuchi, Yusuke; Kawarai Lefor, Alan; Sanui, Masamitsu (2022-04-02). “Dopamine use and its consequences in the intensive care unit: a cohort study utilizing the Japanese Intensive care PAtient Database” . Critical Care 26 (1): 90. doi :10.1186/s13054-022-03960-y . ISSN 1364-8535 . PMC 8977005 . PMID 35366934 . https://doi.org/10.1186/s13054-022-03960-y .
^ RaaeNielsen, Jen; Fales, William (2017-01-01). “Use of Dopamine in a Statewide Emergency Medical Services System” . Research Day . https://scholarworks.wmich.edu/medicine_research_day/47 .
^ “麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン 第3版 Ⅶ 循環作動薬 ” (PDF). 公益社団法人日本麻酔科学会 . p. 231. 2023年9月23日 閲覧。
^ HARVARD MEDICAL SCHOOL (2016年10月). “Need to remember something? Exercise four hours later ”. 2017年9月2日 閲覧。
^ Sogawa R, Shimomura Y, Minami C, Maruo J, Kunitake Y, Mizoguchi Y, Kawashima T, Monji A, Hara H. (2016-8). “Aripiprazole-Associated Hypoprolactinemia in the Clinical Setting.” . en:Journal of Clinical Psychopharmacology . 36 (4): 385-7. doi :10.1097/JCP.0000000000000527 . PMID 27281387 . http://journals.lww.com/psychopharmacology/Abstract/2016/08000/Aripiprazole_Associated_Hypoprolactinemia_in_the.15.aspx .
^ Vrignaud L, Aouille J, Mallaret M, Durrieu G, Jonville-Béra AP. (2014-11-1). “Hypersexuality associated with aripiprazole: a new case and review of the literature.” . Therapie. 69 (6): 525-527. doi :10.2515/therapie/2014064 . PMID 25293487 . http://www.journal-therapie.org/articles/therapie/abs/2014/06/th142267/th142267.html .
^ FDA Drug Safety Communication: FDA warns about new impulse-control problems associated with mental health drug aripiprazole (Abilify, Abilify Maintena, Aristada) (05-03-2016 FDA)
^ Broadley KJ (March 2010). “The vascular effects of trace amines and amphetamines”. Pharmacol. Ther. 125 (3): 363–375. doi :10.1016/j.pharmthera.2009.11.005 . PMID 19948186 .
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^ Lin Zhang, Yukihiko Shirayama, Masaomi Iyo, Kenji Hashimoto. (2007-9). “Minocycline attenuates hyperlocomotion and prepulse inhibition deficits in mice after administration of the NMDA receptor antagonist dizocilpine.” . en:Neuropsychopharmacology (journal) . 32 (9). doi :10.1038/sj.npp.1301313 . PMID 17228338 . http://www.nature.com/npp/journal/v32/n9/full/1301313a.html .
関連項目
関連人物
外部リンク