チャールズ・ハワード・ヒントン(Charles Howard Hinton、1853年 - 1907年4月30日)は、イギリス出身の数学者であり、科学ロマンスと呼ばれるSF作品を書いた作家である。ヒントンは高次元、特に4次元に関心を持っていた。「テッセラクト」(正八胞体)という言葉を作り、高次元の幾何学を視覚化する方法を研究したことで知られる。
1880年に発表された「第4の次元とは何か」("What is the Fourth Dimension?")という論文の中で、ヒントンは、3次元で移動する点は、3次元の平面を通過する直線の静的な4次元配列の連続した断面として想像できるのではないかと提案している。これは世界線という概念を先取りした考えである。ヒントンは、高次元空間を探求するには心構えが必要だとしていた。
ヒントンは、高次の空間を直観的に認識するためには、3次元の世界を観察する立場にある私たちが、右や左、上や下といった考えを捨て去ることが必要だと主張している。ヒントンは、このプロセスを「自己を追い出す」(casting out the self)と呼び、これは他者への共感のプロセスと同等のものであり、この2つのプロセスが相互に強化されていることを示唆している[15]。
ヒントンは4次元の要素を表現するためにいくつかの新しい言葉を作った。『オックスフォード英語辞典』(OED)によると、ヒントンが初めて「テッセラクト」という言葉を使ったのは、1888年の著書"A New Era of Thought"(思考の新しい時代)においてである。ヒントンのオックスフォードでの知り合いで、義姉に当たるアリシア・ブール・ストット(英語版)が、ヒントンが国外にいる間にこの本の出版の世話をした[16]。ヒントンは、3次元の左・右(x軸)、上・下(y軸)、前・後(z軸)の方向に相当する4次元の方向を表現するために、kataとanaという言葉を考案した。それぞれギリシャ語で「~から下の方へ」「~から上の方へ」の意味である[17]。
ヒントンは、"What is the Fourth Dimension?"(四次元とは何か)や"A Plane World"(平面の世界)など9作品の科学ロマンスを1884年から1886年にかけてスワン・ソンネンシャイン社から刊行した。ヒントンは"A Plane World"の序文で、エドウィン・アボット・アボットが1884年に出版した『フラットランド』(Flatland)について触れ、この本は内容は似ているが意図は違うと言及している。ヒントンは、アボットは物語を「風刺や教訓を語るための舞台」として使っているのに対し、ヒントンは物理的な事実を知りたいのだと述べた。ヒントンが描いた二次元世界は、アボットの『フラットランド』のような無限に広がる平面上ではなく、円の外周に沿って存在するものだった[18]。ヒントンはアボットの作品を発展させて"An Episode of Flatland: Or How a Plane Folk Discovered the Third Dimension"を執筆した。
『フラットランドでのエピソード』
ヒントンは1907年に小説"An Episode of Flatland or How a Plane Folk Discovered the Third Dimension, to which is bound up An Outline of the History of Unæa"(フラットランドでのエピソード、或いは、如何にして平面の民は3次元を発見したか(ウノアの歴史の概要つき))を発表した[19]。同年のイギリスの科学雑誌『ネイチャー』に批評が掲載されている[20]。この作品は、2次元の平面世界である「アストリア」(Astria)を舞台に、平面の登場人物たちが科学や恋愛などさまざまな冒険を繰り広げる物語である。最終的に、登場人物たちは、自分たちの理解を超えた3次元の世界とその完全性を受け入れ、理解するようになる。この本は、序文、導入、「アストリアの歴史」について解説した章と、20の短い章からなるエピソードで構成されている。アボットの『フラットランド』よりも長く、全体で約5万4千語からなる。
彼は"A Vindication of Eternity"(永遠の正当化)をあまり満足の行くものではないと判断しただろう。第1巻では、パルメニデスの静的な存在からヒントンの変更可能な過去まで、人類が発明した様々な永遠を記録し、第2巻では、フランシス・ブラッドリーとともに、宇宙の全ての出来事が時間的な一連の流れを構成していることを否定している[22]。
ジョン・デューイは『経験としての芸術』(Art as Experience)の第3章で、ヒントンの科学ロマンスの1つである"Unlearner"(未学習者)を引用している。デューイが引用しているのは、実際には"An Unfinished Communication"(未完成のコミュニケーション)の一部で、その登場人物の名前が"Unlearner"であるため、デューイが混同したものと見られる。
カルロス・アタネス(英語版)は、ヒントンを主人公とする戯曲"Un genio olvidado (Un rato en la vida de Charles Howard Hinton)"(忘れられた天才(チャールズ・ハワード・ヒントンの人生と時間))を書いている。この戯曲は2015年5月にマドリードで初演された。
A New Era of Thought, orig. 1888, reprinted 1900, by Swan Sonnenschein & Co. Ltd., London
The Fourth Dimension, orig. 1904, 1912 by Ayer Co., Kessinger Press reprint, ISBN0-405-07953-2, scanned version available online at the Internet Archive
Speculations on the Fourth Dimension: Selected Writings of Charles H. Hinton, edited by Rudolf Rucker, 1980, Dover Publications, ISBN0-486-23916-0 (includes selections from Scientific Romances, The Fourth Dimension, "The Recognition of the Fourth Dimension" from the 1902 Bulletin of the Philosophical Society of Washington, and excerpts from An Episode of Flatland)
An Episode of Flatland or How a Plane Folk Discovered the Third Dimension orig 1907, Swan Sonnenschein & Co. Limd., uncut illustrated HTML version online at Forgotten Futures
^Several of these references are cited in the introduction to the book Speculations on the Fourth Dimension, edited by Rudolf Rucker.
^`My Right To Die´, Woman Kills Self in The Washington Times v. 28 May 1908 (PDF); Mrs. Mary Hinton A Suicide in The New York Times v. 29 May 1908 (PDF).