スロバキア国鉄(スロバキア共和国鉄道。スロバキア語:ŽSR, Železnice Slovenskej republiky)は、スロバキアの国鉄事業を所管する特殊法人。チェコスロバキア連邦共和国の連邦制解消(ビロード離婚)にともなうチェコスロバキア国鉄(チェコスロバキア国家鉄道公団。ČSD)のスロバキア国内路線および車両の承継法人であった旧・スロバキア共和国鉄道国有会社(Železnice Slovenskej republiky, š.p.)を1994年に承継した。
チェコスロバキアの連邦制解消にともない、スロバキア国内のチェコスロバキア国鉄事業は、チェコスロバキア国家鉄道公団の解散に関する法律(チェコスロバキア連邦議会1992年法律625号、スロバキア語:Zákon o zániku štátnej organizácie Česko-slovenské štátne dráhy)および改正国有会社法(チェコスロバキア連邦議会1990年法律第111号、スロバキア語:Zákon o štátnom podniku)に基づき、1992年12月30日に設立された国有会社(štátny podnik)のスロバキア共和国鉄道国有会社が承継した[1]。
しかし国鉄事業への国の経営関与強化を図るウラジミール・メチアル政権は、同年9月に成立したスロバキア共和国鉄道法(スロバキア共和国国民議会1993年法律258号、Zákon o Železniciach Slovenskej republiky)に基づく特殊法人の現・スロバキア共和国鉄道を設立し、1993年12月30日付で国鉄事業を承継した[2]。
国鉄は2002年1月1日に分社化され、列車運行事業については新たに設立した国有の鉄道企業体株式会社(ZSSK, Železničná spoločnosť, a.s.)が承継した。さらに事業価値の高い貨物列車運行事業について民間売却を目指すため、鉄道企業体は2005年1月1日に再分社が行われ、貨物輸送事業体の鉄道企業体カーゴスロバキア株式会社(ZSSK Cargo, Železničná spoločnosť Cargo Slovakia, a.s.)および旅客輸送事業体の鉄道企業体スロバキア株式会社(ZSSK, Železničná spoločnosť Slovensko, a.s.)に承継された。
国鉄事業は現在の欧州における鉄道の標準的な仕組みであるオープンアクセスオペレーター制をとっており、スロバキア共和国運輸建設省運輸局(Dopravný úrad Ministerstvo dopravy a výstavby SR)の輸送事業者認可を受け、国鉄の鉄道施設(Železničná infraštruktúre, ŽI)の利用契約等をŽSRと締結した事業者が、国鉄線での輸送サービス(貨物および旅客列車の運行)を行っている。各事業者が列車運行事業を行うには以下の条件を満たすことが必要である[4]。
国鉄は契約事業者に対し旅客・貨物別に年間ダイヤの運行経路割り当て(Prideľovanie trás do ročného GVD)を行うほか、運行経路や施設利用に関する各事業者からの発注、各事業者に対する線路・施設利用料の請求、輸送品質の検査、軍用や放射性物質等に関する臨時輸送交渉などについて、所管する中央総局運輸部(Odbor dopravy Generálne riaditeľstvo ŽSR)に総合窓口(Kancelária OSS)を設けて一括して対応している。
輸送事業者番号9007 LTE物流交通スロバキア有限責任会社(ブラチスラヴァ市) LTE Logistik a Transport, Slovakia s.r.o. ※LTE物流交通(ドイツ)子会社
輸送事業者番号9009 第一スロバキア鉄道株式会社(レヴィツェ市) Prvá slovenská železničná, a.s.
輸送事業者番号9015 PKPカーゴインターナショナルSK株式会社(ブラチスラヴァ市) PKP CARGO INTERNATIONAL SK a.s. 輸送事業者番号9024 PKPカーゴインターナショナル株式会社(チェコ) PKP CARGO INTERNATIONAL a.s. ※PKPカーゴ(ポーランド)子会社、旧・OKD輸送株式会社(チェコ)
輸送事業者番号9021 鉄道企業体カーゴスロバキア株式会社(ブラチスラヴァ市) Železničná spoločnosť Cargo Slovakia, a.s. ※スロバキア政府国有企業
狭軌線(ÚRT, Úzkorozchodná trať)については以下の4鉄道路線を保有する。輸送事業者はいずれも旅客輸送のみを行っており、貨物輸送は行っていない。なおコシツェ子供歴史鉄道については保線・営業(乗車券販売)についても国鉄に代わりコシツェ市交通企業株式会社(DPMK, Dopravný podnik mesta Košice, a.s.)が行っている。
鉄道企業体スロバキア株式会社(Železničná spoločnosť Slovensko, a.s.)運行
タトラ電気鉄道(直流1500V、軌間1000mm、営業キロ35.0km。スロバキア語:TEŽ, Tatranské elektrické železnice)
1998年に発足したズリンダ政権は、地方の不採算線区廃止と民営化を条件に、1999年から欧州投資銀行による国鉄への融資を取り付けた。2000年には「スロバキア共和国鉄道の転換と再編に関するプロジェクト」(Projekt transformácie a reštrukturalizácie Železníc SR, 2000年政府決議830号)で、列車運行を廃止または他の輸送事業者に行わせる線区として「地方線」(Regionálna dráha)32線区を指定した。2002年1月1日の国鉄分社化では、オープンアクセスオペレーター制度を導入し、鉄道輸送事業と営業用車両の保有管理事業について鉄道企業体株式会社に分割した。
鉄道企業体は、経営立て直しと将来の完全民営化に向け、地方線の運行廃止のほか、ローカル列車の大幅削減や運賃の引き上げを行うとともに、大規模な人員整理を進めたため、当局と労働組合との対立が深刻化。このため2003年にはスロバキア共和国労働組合同盟総連盟(KOZ SR, Konfederácia odborových zväzov Slovenskej republiky)の主導で、スロバキア史上最大といわれるストライキに発展した。
さらに政府は2005年1月1日、旧ZSSKの貨物部門売却を行うために、旅客輸送事業体の鉄道企業体スロバキア株式会社(ZSSK, Železničná spoločnosť Slovensko, a.s.)と、貨物輸送事業体の鉄道企業体カーゴスロバキア株式会社(ZSSK Cargo, Železničná spoločnosť Cargo Slovakia, a.s.)の2つの国有企業を新たに設立し、旧ZSSKの事業を再分割した。
チェコスロバキアにおける鉄道産業の労働組合は、すでにオーストリア=ハンガリー帝国時代の1896年に機関士組合として職種別労働組合が結成され活動を行っていたが、社会主義時代にはチェコスロバキア共和国機関士連盟(Federácia strojvodcov v Československej republike)などすべての労働組合が、合同労働組合法(チェコスロバキア暫定国民議会1946年法律144号、Zákon o jednotné odborové organisaci)に基づき革命的労働組合運動(ROH, Revoluční odborové hnutí)に統合されたため消滅し、プラハの春を受けて1968年に結成された機関車乗務員連盟(Federácia rušňových čiat)もまもなく活動停止した[8]。
スロバキアにおける現在の国鉄系労働組合は、民主化後のチェコスロバキア時代に復活した職種別組合を元とする機関士連盟(FS)や駅務員操車員労働組合連合会(OAVD)などがあり、スロバキア国鉄および鉄道企業体スロバキア、鉄道企業体カーゴスロバキアの3社にまたがって組織されている。2009年2月には、運輸郵政通信省(当時)の再編合理化政策に伴う国鉄系3社の従業員への影響緩和などをかかげ、FSとOAVD、2008年結成の鉄道職員労組同盟(OZZŽ)の3組合が鉄道運輸労働組合総同盟(ZOOvŽD, Zväz odborových organizácií v železničnej doprave)を結成し、運輸郵政通信関係の各単産で組織する運輸郵政通信労働組合総連合会(AOZDPT, Asociácia odborových zväzov dopravy, pôst a telekomunikácií)に加盟した。
スロバキア共和国鉄道消防部(ZPOŽ, Závod protipožiarnej ochrany Železníc Slovenskej republiky)は、スロバキア国鉄が所管運営した消防機関である。チェコスロバキア国鉄公団から承継したもので、鉄道施設や車両の事故、火災時の消防救難活動を業務とした。2008年現在の隊員数は178人で、ブラチスラヴァ、ジリナ、ズヴォレン、ノヴェーザームキ、コシツェに本署を、ストゥーロヴォ、ポプラト、チエルナッチソウに支署を置いた。2014年に業務を内務省消防救助隊(HaZZ, Hasičský a záchranný zbor)に移管して廃止された。
鉄道警察(ŽP)
鉄道警察(ŽP, Železničná polícia)は、鉄道輸送に関する警察業務を担当する機関で、チェコスロバキア時代の鉄道保安武装隊(スロバキア語 : ZOOŽ, Zbor ozbrojenej ochrany železníc、チェコ語 : SOOŽ, Sbor ozbrojené ochrany železnic)を承継して1993年に発足した。