スバル・EJ20とは、SUBARU(2017年3月31日以前は富士重工業)が1988年(昭和63年)12月から2020年(令和2年)3月まで製造していた排気量2,000 ccの水平対向4気筒エンジンである。EJ型エンジンのうちの1機種。
基本設計をスバル・1000の時代まで遡るEA型に代わる新時代のエンジンとして、1989年1月に初代レガシィと共に登場し、その後も改良を重ねながら新世代エンジンであるFA / FB型が登場するまで、スバルの乗用車の主力エンジンであった。排気量は1,994 cc、ヘッド構造は搭載されるモデルに合わせてSOHC 16バルブとDOHC 16バルブがあり、スポーツ / ラグジュアリーグレード用のインタークーラー付ターボチャージャー搭載型のDOHCエンジンも用意される。他にもリーンバーン型(EJ20N)、CNG仕様(EJ20C)の環境対応型、北海道のタクシー会社向けに搭載されたLPG対応型など、幅広いバリエーションが存在した。
ターボチャージャー搭載型は発表当時から幾度も「クラス最強」の座を他社から奪い取ってきたエンジンであり、スバルのモータースポーツ活動を草の根レベルから支えてきたエンジンである。基本的には4,000 rpm付近から一気に出力を高める中高回転型エンジンであるが、各種の改良により、時代の要求による車体重量の増加に適うだけの低回転域のトルクを得てきた。2020年までに量産されたEJ20の最高出力は量産型標準仕様で公表値308 PS(227 kW)であり、最大トルクは43 kg⋅m(422 N⋅m)に達し、限定生産車に至っては328 PS(241 kW)仕様も存在する(いずれもWRX STI)。
基本設計が30年近く生かされることは(社内事情もあって極端に長かった日産・L型エンジンのような例を除けば)乗用車用エンジンとしては稀であり、自動車雑誌などでは幾度も主力車種のモデルチェンジに合わせて、EZ30型やEL15型ベースの完全新設計の水平対向エンジンに切り替わると噂されていたが、最終的に長く蓄積された知識と技能を還元する形でスポーツモデルを中心に搭載され続けた。
スバル車は年次改良と呼ばれる1年周期の改良が施される上、多種多様なモデル / グレードにEJ20を使ってきたため変遷が多く、小変更を含めて最終的に100種類近い派生型が存在する。特にスポーツグレードであると同時に特別仕様が多いインプレッサWRX STIでは三菱・ランサーエボリューション(エンジンは直列4気筒の4G63)という好敵手を持ち、他のスバル車と比べてもモデル寿命が長いため、年次改良で搭載エンジン型式名のサフィックス(接尾辞)が変わるほどの変更を受けることもあった。そのため、初期のEJ20と最終型EJ20ではまるで別物と考えてよい。吸排気の取り回しはもちろん、クランクの前後位置を決めるスラストベアリングの位置すら変わっており、初代であるBC / BF型レガシィ搭載のEJ20と、2019年型WRX STIに搭載されたEJ20で同一なのは、ブロックの外観寸法とボアストローク比、シリンダーブロックやシリンダーヘッドの素材(いずれもアルミニウム合金製)、バルブ本数、タイミングベルトの長さとクランク – カム間の距離、ヘッドボルトのねじ穴位置、エンジンマウント位置程度である。また同じ型式かつ同じ生産時期ながら変更が多いのもこのエンジンの特徴で、長く懸案であったオイル漏れ等の不都合対策のための部品まで網羅すると、量産型ながらわずか3,000基程度しか作られなかったエンジンもあり、エンジン形式と年式だけでは分からない部分が何十種類も存在するため、車体番号検索に頼らない部品交換には注意を要する。
派生エンジンとしては、EJ20登場当時に同時に発表されたEJ18をはじめ、EJ20の行程(ストローク)はそのままに内径(ボア)を広げたEJ22 / EJ22 STI仕様(インプレッサ22B専用)、内径を更に広げ行程を延ばしたEJ25、また内径×行程とも縮小したEJ15、EJ16がある。
また直系の派生エンジンではないものの、アルシオーネSVX搭載のEG33は、内径×行程やその他主要部分の設計手法がEJ20を基にしたEJ22と同じであり、「EJから2気筒追加したエンジン」と呼ばれることがある。
BC / BF型レガシィの時代から長く2.0リットルベースグレードを中心に使われてきたエンジン。
BC / BF型レガシィから長い間改良を加えて使われたエンジンでAVCS仕様が標準化するまで、NAの主力エンジンであった。なお、AVCS仕様と異なり、レギュラーガソリン仕様であった。
吸気側カムを連続位相可変式にしたもので、GC / GF型インプレッサSRXに初搭載された。SRXは人気のあったSTI等の陰に隠れ短命に終わったものの、エンジン自体は以後改良を加え他車に採用を拡大、初期は最高出力155 PSであったが、BP / BL型レガシィ搭載にあたり190 PS(MT仕様)まで引き上げられ、他のNA仕様EJ20とはひと味違う軽快な吹け上がりが魅力的なスポーツエンジンとして発展してきた。しかし2007年に発売された3代目フォレスターではレギュラーガソリン指定とした環境対応型のDOHCエンジンが搭載された。これは上述のスポーツエンジンの流れではなく、レギュラーガソリン仕様のSOHCエンジンの後継にあたる。なお2008年に発売されたエクシーガにも同様のエンジンが搭載されている。
ターボチャージャーが装着されているエンジンはすべてDOHCである。
強化 / 軽量化された専用ボディと6速クロスレシオMTの組み合わせで、停止 → 100 km/h加速は最速4.5秒と排気量2.0リットルクラスとしては驚異的な数値を出した。これは同時期に生産されたBMW・M3、アウディ・RS4等、1クラス上の海外高出力モデルと同等か、速いくらいで、量産車同クラスでこれを超える加速性能を提供できるのは三菱・ランサーエボリューションのみである(ただし、最高速は加速とつながりを重視したギヤ比との兼ね合いもあり、6速で240 km/h程度である)。
スバル自ら「EJ20バランスドエンジン」と銘打ち、量産車より回転系パーツのバランス取りをすることで、レース用エンジンに迫る精度と滑らかな回転を得ることが出来たとするエンジンである。最高出力等の公称値こそ量産仕様と変わらないものの、ピストンとコンロッドは重量公差50 %低減、クランクシャフトは回転バランス公差85 %低減、フライホイールとクラッチカバーは回転バランス公差50 %低減(SUBARU発表)と、厳しい基準で製作されている。
2010年9月23日、21年ぶりとなる新型エンジンのFB型エンジンを発表[3]。EJ型に代わる2.0 - 2.5 Lクラスの水平対向4気筒エンジンとして、フォレスターを皮切りに搭載車種を順次拡大していくことが伝えられた。このエンジンは群馬製作所大泉工場内の専用工場にて生産され、内径84 mm×行程90 mmとロングストローク化を達成、各種改良により経費削減とともに高効率化し、出力や燃費の向上の他にも、将来対応が厳しくなることが予想される環境性能も充分に満足させる発展的設計を採り入れたとされている。その内容もEJ型のやり方を踏襲するのではなく、完全新設計となっている。
また、トヨタとの提携関係を結んだ後にいち早く計画された共同開発車種86 / BRZの開発が進む中、トヨタでもスバル設計のエンジンを載せる車両を販売する事を考えた際、既存のEJ型では「トヨタの看板の下で売れるほど十分な環境性能が得られない」と判断され、結果としてEJ型では対応を検討されたものの実現不可能とされた直噴(トヨタ名: D4S)を採用した新世代のスポーツユニットFA20型(NA仕様)が誕生し、紆余曲折の後に過給器と直噴を組み合わせたFA20 DITへと発展する。
そして、世界的な流行としてトヨタが先鞭をつけたハイブリッド化とは別に、欧州で流行しているダウンサイジング化の波に乗り、2.0 Lクラスの車体に1.6 L直噴ターボエンジン「FB16」を搭載した「レヴォーグ」を2014年に発表。このFB16は、1600 ccの排気量からレギュラーガソリンで125 kW (170 PS) と250 N⋅m (25.5 kgf⋅m) を発生、走行場面ごとにエンジン / トランスミッション制御を変えられる「SIドライブ」も採用し、燃費17.4 km/L(JC08モード、2015年以降さらに向上)、最大トルクを1,800 - 4,800 rpmという幅広い回転域で発生するという、EJ型では実現不可能だった特性を実現させ、平成32年度燃費基準に適合するなど、時代に適合した環境性能と経済性、充分以上の動力性能を手にしている。
このように実用エンジンから高出力モデルに至るまで新型エンジンに移行していく中、唯一の搭載車種であったWRX STIの受注受付を2019年12月23日限りで終了すると発表。555台の限定車「Final Edition」の完売と2020年3月まで続いた受注分生産完了をもって、新車搭載のためのエンジンとしての役目を終えた。
なお、STIが開発しSUPER GTに参戦しているBRZのGT300仕様は2024年現在も引き続きEJ20エンジンを使用している。