ライトは1765年からロンドンで絵の展示を行なっている。1765年-1776年は毎年芸術家協会で、1778年-1794年は毎年ではないが王立芸術院でのものである。また1778年-1783年には自由芸術家協会 (Free Society of Artists) で、1784年-1787年にはリバプールの芸術促進協会 (the Society for Promoting the Arts) で展示を行なっている。ライト・オブ・ダービーという彼の呼び名が初めて使われたのは1768年で、新聞 (Gazetteer) に掲載された展覧会の評論においてである。当時は画家の名前に洗礼名を付けないのが通例だったため、1765年から作品を発表しているジョセフ・ライトと、1762年から作品を発表しているリバプールのリチャード・ライト、2人の「ライト氏」を区別する必要があった。ライト・オブ・ダービーという呼び名は、その親しみやすさから今日まで使われることになった。
ジョセフ・ライトはまた、満月の夜の田園風景を写した『月光のダブデール(英語版)』(Dovedale by Moonlight)も描いた。これはオベリン大学のアレン記念美術館で展示されている[11]。これと対になる『陽光のダブデール』(Dovedale by Sunlight、およそ1784年-1785年)は日中の色合いを写している。フロリダ州サラソータのジョン&マベル・リングリング美術館(英語版)にあるもう一枚の『月光の風景』(Moonlight Landscape)も同様にドラマチックで、水面上に架かる橋の傍らにぼんやり描かれた月が、ほの暗い風景と対照的に水面をきらめかせながら、情景を照らしている。湖水地方の旅から描かれた代表作には『ライダルの滝』(Rydal Waterfall、1795年)がある。
『夕暮の洞窟』(Cave at evening あるいは illustration, right)は同くドラマチックなキアロスクーロを使って描かれ、ジョセフ・ライトの名を高めた作品である。この絵はイタリア滞在中の1774年に完成した。これはボストン美術館の『無法者がいる日没のナポリ王国の海辺の洞窟』(Grotto by the Seaside in the Kingdom of Naples with Banditti, Sunset、1778年)との類似が見られる[12]。
史実に基づいたこれらの絵には、メタファーも託されていると考えられる。例えば、祈る人物の前で激しく燐光が発する様子は、信仰から科学的理解と啓蒙へという、容易ならざる変転を表している。また人々が空気ポンプ中の鳥を囲んで様々な表情を浮かべる様子は、来たる科学の時代が起こしうる残酷さを表している[14]。これらの絵画は、西洋における宗教の力を理解し始めた、科学的研究のハイライトを表している。十年ほど後に啓蒙思想の頂点であるフランス革命の反動の中、科学者たちは自分たちが迫害されていることに気が付いた。ルナー・ソサエティの会員だったジョゼフ・プリーストリーは、フランス革命の支持を公言したことに反発した群衆によって、1791年のバーミンガム暴動で実験室を粉砕され家も燃やされ、1794年にはイギリスを離れた。フランスでは化学者のアントワーヌ・ラヴォアジエが恐怖政治の只中でギロチンにかけられた。政治家にして哲学者のエドマンド・バークはその著書『フランス革命の省察』(1790年)で知られるが、プリーストリーをはじめとする自然哲学者たちをフランス革命と結び付けた。のちに彼は『Letter to a Noble Lord』(1796年)で、イギリスの科学を支えた革命家たちは「実験で人間を扱うところ、空気ポンプのネズミと何ら変わらないと考えていた」と記した[15]。この論評に照らせば、空気ポンプの鳥を描いたライトの絵は、20年以上前に完成していたにもかかわらず、実に予見的だったと言える。
Joseph Wright of Derby: painter of light, 2 vols, B. Nicolson, (1968)
The life and works of Joseph Wright, commonly called ‘Wright of Derby’, W. Bemrose, (1885)
Wright in Italy, D. Fraser, (1987)
Joseph Wright of Derby, J. Wallis, (1997)
‘Wright of Derby: Gothick realist’ in Art News [USA], R. Rosenblum, , 59/1 (March 1960), 24–7, 54
‘Addenda to Wright of Derby’, B. Nicolson, Apollo, 88 (1968), suppl. Notes on British art, 12, pp. 1–4
‘Wright of Derby: addenda and corrigenda’, B. Nicolson, Burlington Magazine, 130 (1988), 745–58
Joseph Wright of Derby: Das Experiment mit der Luftpumpe: eine heilige Allianz zwischen Wissenschaft und Religion, W. Busch, (Frankfurt am Main, 1986)
Painting for money: the visual arts and the public sphere in eighteenth-century England, D. H. Solkin, 214–46 (1993)
Andrew Graciano, “‘The Book of Nature is Open to All Men’: Geology, Mining and History in Joseph Wright’s Derbyshire Landscapes” The Huntington Library Quarterly (68: 4, 2005), 583-600.
Andrew Graciano, “Shedding New Botanical Light on Joseph Wright’s Portrait of Brooke Boothby: Rousseauian Pleasure versus Medicinal Utility” Zeitschrift für Kunstgeschichte (3:2004), 365-380.
David Fraser (1996). Jane Turner. ed. The Dictionary of Art. 33. Grove. ASINB001SLDZ2K
New Encyclopædia Britannica. 12 (15 ed.). Encyclopædia Britannica