コント(conte)とは、フランス語で「短い物語・童話・寸劇」を意味する言葉(conte)。日本ではいわゆる「演芸」や「お笑い」と呼ばれるジャンルに含まれるような、笑いを目的とした寸劇を指すことが多い。本項ではそのお笑いとしてのコントについて記述する。
元々は劇場での軽演劇であり、現在も演芸用の劇場やライブハウス、ストリップ劇場、寄席などの演芸場で演じられている。テレビで目にする機会も多く、また祭りやイベントなどに演者を呼ぶことも比較的よく行われている。
現在は主に「芸人(またはお笑いタレント)」などと呼ばれる、演芸専業または演芸を主とする演者によって演じられることが大半で、特にコンビやトリオなど、メンバーを固定してコントを専門的に演じるグループを指して「コント芸人」「コント師」などと呼ぶことがある。ただ、そうしたコント専業の芸人がいなかった黎明期には、榎本健一といった喜劇俳優やクレージーキャッツ、ザ・ドリフターズなどのミュージシャン・バンドマンがコントを行うことも盛んに行われた。
概要
コントは大抵は10分〜20分程度で、通常は1話完結である。テレビなどでは1〜5分程度のものもよく披露されるなど、おおむね短時間で終わるものと認識されており、長時間にわたるものは軽演劇や喜劇として区別される。主に軽演劇の役者が戦後ストリップ劇場のショーの幕間に演じた物や、キャバレーなどの営業のために持ちネタを短縮して演じた芝居が広まったものをコントと呼んでいたとされる。
萩本欽一によれば多くのコントはエノケン劇団(エノケン一座)で生まれた「仁丹」「天丼」、「丸三角」[1](場合により「レストラン殺人事件」を含む)の基本形をもとにしているという。「仁丹」は警察に尋問された犯人が、盗んだバッグの中身を説明するが仁丹だけ説明できないという「反転による笑い」。「天丼」は同じことを2度、3度繰り返す「反復による笑い」(落ち#その他のオチも参照)。「丸三角」は天丼の応用パターンで、床に丸と三角を示し、覚えきれない後輩がその地点で失敗を繰り返す「反復できないことよる笑い」。「レストラン殺人事件」は殺人を犯した店主と殺人現場に出くわしてしまった客の言い訳を可笑しむ「交錯による笑い」である[2]。
現在テレビで見られるコントは、いわゆる「ネタ」としてのコントと、「ユニットコント(テレビにおいてはスタジオコントなどとも呼ばれる)」のいずれかに分けられる。
「ネタ」としてのコント
主に(漫才など他ジャンルを含めた)「お笑い」を専業で行うお笑いタレント(一般に「お笑い芸人」または「芸人」と呼ばれることが多い)が、コンビやトリオなど「ネタ」を演じるために組んだグループ単位で、舞台上で演じることを想定して作られるものを「ネタ」「コントネタ」などと呼ぶことが多い。演者が1人である場合もあり、その場合は特に「1人コント」「ピンネタ(”ピン”は”1人”の意味)」などと呼ぶこともある。
現在では芸人自身がネタを作成することが普通で、それぞれの個人やグループがそれぞれに自分たちのネタを持っていることになる。そのため、同様の形式を取る漫才と混同されることが多く(漫才の演目も「ネタ」と呼ばれる)、実際コントと漫才の両方を行う芸人も珍しくない。おぎやはぎやサンドウィッチマン、スーパーマラドーナのように、本来はコントとして作ったネタを漫才ネタに作り替え、コント漫才として演じる例や、逆に漫才ネタをコントとして演じる例もあるなど、ネタとしてのコントと漫才は近い関係にある。
ただし漫才が「役」に入らない状態で掛け合いを行うのに対し、コントは原則的に演者が何かの役を演じることで展開されていくという違いがある。役に入らない漫才は、役としての衣装や小道具、大道具やセットなどを用いず、舞台中央に演者が並んで会話形式で演じることを原則とするが、コントは必要に応じて化粧や衣装、着ぐるみなどで役を作り、舞台全体を利用し、大道具やセットなどが使われることもある。内容は漫才のように軽妙な言葉のやりとりを主とするものから、演劇のように芝居がかった展開のものまであり、明確な定義はない。
漫才における役割の基本がボケとツッコミなのに対し、コントにおける役割の基本はフリとコナシ[3][4]などと呼ばれる。初めてコンビ名に「コント」を冠したコント55号を例にとれば、萩本欽一がネタを振り、坂上二郎が振られたネタを受けてこなしていた。
ショートコント
ネタとして行われるコントの中でも、数秒から数十秒程度で終わる特に短いものを「ショートコント」と呼ぶ(和製外来語)。おおむね大道具やセットは用いず、複雑な設定や伏線などもないことが多い。日本では、最初にウッチャンナンチャンがショートコントを確立させていった[5][6]。
テレビバラエティ番組でのコント
テレビバラエティ番組のコントでは、主人公に個性的なキャラクターを設定する場合が多い。また、そのキャラクターの登場するコントをシリーズ化させることによってストーリーに深みを持たせたり、知名度を上げてキャラクターグッズ製作に乗り出すことも多い。
番組中にコミックソングのコーナーを設けるなどして楽曲販売も重視することもあり、2000年代には『ワンナイR&R』における「ゴリエ」の「Pecori♥Night」や、『笑う犬』における「はっぱ隊」の「YATTA!」がヒットした。
1980年代以降は国内外の映画作品やテレビドラマ、CM、ミュージック・ビデオなどを題材としたパロディ作品も多数製作された。
『ドリフ大爆笑』や『志村けんのだいじょうぶだぁ』などの番組では、何年経っても飽きさせないようにマンネリズムの美学を追求しており、同じ内容や結末のコントを新規撮影の際に細かな演出や出演者を変化させている。
1980年代中盤までは、ある一組の芸人にスポットを当てた番組が多かったが、1988年にスタートした『夢で逢えたら』(当時若手だったダウンタウン、ウッチャンナンチャン、清水ミチコ、野沢直子がメインキャスト)を皮切りに、同世代の芸人コンビ・トリオ数組がユニットを組む形式のコント番組が増加していった。
『めちゃ×2イケてるッ!』や『はねるのトびら』など、コント主体だった番組がゲームコーナーやトーク・ロケなどの別企画増加によりコントコーナーが皆無になるなど、次第にコント番組で無くなっていく例も多い。これは視聴者の変化、番組制作の効率化などによる[7]。
歴史
草創期から1980年代頃のバラエティ番組ではお笑いタレントの絶対数が少なかったこともあり、『シャボン玉ホリデー』(1961年~1972年)のクレージーキャッツやザ・ピーナッツのように歌手やアイドルがコントに挑戦することがほとんどで、1969年~1985年に放送されていたザ・ドリフターズの『8時だョ!全員集合』では多数のアイドルや歌手がコントに出演していた。
そのため、1980年代頃までのコント番組の(準)レギュラー出演者は『カックラキン大放送!!』の新御三家や堺正章、『とんねるずのみなさんのおかげです』のチェッカーズ等のように歌手が多いのが特徴である。また1980年代頃までのコント番組は音楽番組との親和性が高く、歌手やアイドルの歌唱コーナーが設けられている番組がほとんどで、コントコーナーが存在していた音楽番組も多数あった。これらの例には『8時だョ!全員集合』『ドリフ大爆笑』『加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ』『志村けんのだいじょうぶだぁ』『夜のヒットスタジオ』『とんねるずのみなさんのおかげです』『カックラキン大放送!!』『ヤンヤン歌うスタジオ』『今夜は最高!』などがある。
1980年代から1990年代初頭には『オレたちひょうきん族』内の『タケちゃんマン』や『とんねるずのみなさんのおかげです』内の『仮面ノリダー』など、ヒーロー物のパロディコントが流行し、社会現象的人気を博した。
1991年~1997年には『ダウンタウンのごっつええ感じ』において様々なコントが放送され、以後のお笑いやバラエティ番組に多大な影響を与えた。
1996年にはSMAPが、冠番組『SMAP×SMAP』をヒットさせ、「平成のクレージーキャッツ」の異名を取る。
1998年~2003年には『笑う犬』シリーズにおいて、『てるとたいぞう』や『小須田部長』などといったストーリー重視の連続物のコントが展開されていた。このようなストーリー重視型のコントは後の『ワンナイ』(2000年~2006年)の「ゴリエ」などにも受け継がれた。
2001年に創設された『M-1グランプリ』以降はコントではなく、漫才を中心に活躍する芸人が増えており、お笑いタレントの数は増加傾向にあるが、コント番組の人気は下降傾向にある。これは、コントは大がかりなセットなどで予算や収録時間がかかることが多いのに対して[注 1]、漫才はセットや道具の持ち込みを基本的にしなくてもよいというテレビ局側の理由もある。2005年にはお笑いブームの影響もあり、各局で『ワンナイ』『リチャードホール』『ミンナのテレビ』『ウタワラ』『落下女』といったコント番組やコントコーナーが存在する番組が一時的に復活傾向にあったが、2006年に『雨上がり決死隊のトーク番組アメトーーク!』のくくりトークがヒットして以降は、『人志松本のすべらない話』『しゃべくり007』といったトークがメインのバラエティ番組が人気となり、コント番組は再び急速に減少していった。
2006年以降、地上波のゴールデン・プライムタイムでのコント番組は、『志村けんのバカ殿様』等といった一部の定期特番を除くと、NHK以外ではほとんど放送されなくなっていた。
2008年からはコントNo.1決定戦『キングオブコント』が放送されている。この流れを受け、コント師と呼ばれる若手芸人が台頭[8]。2019年頃からは再び民放でもコント番組が増加するようになった。2020年には特別番組という形で『Do8』、『激ヤバ!チョコプラ修羅場劇場』などユニットコントを行う番組が増加。特別番組からレギュラー昇格を果たした『新しいカギ』の例もあったが、2022年時点では番組におけるコントの比率は減少している。
主なコント番組
終了したものも含めると、コント番組には以下のようなものがある。
NHK
TBS
日本テレビ
フジテレビ
BSフジ
- 東北魂TV(2011年 - 2021年)
- 中川家&コント(2017年 - 現在放送中)
- 東京03 in UNDERDOGS -今日は負けたけど、明日は絶対勝つ-(2020年 - 現在放送中)[9]
テレビ朝日
テレビ東京
地方放送局
毎日放送
朝日放送
読売テレビ
関西テレビ
テレビ大阪
CBCテレビ
- デイブレイク(1988年 - 1990年)
- 流行笑会(1990年)
東海テレビ
福島放送
TOKYO-MX
テレビ神奈川
テレビ神奈川・チバテレビ・テレビ埼玉・サンテレビ(共同制作)
東名阪ネット6
琉球放送
CS放送局
刺激ストロングチャンネル
制作委員会方式
ネット配信
ラジオ
NHK第一
コントコーナーが一部存在している番組
ここではコント番組以外の番組や、番組リニューアルなどでコントコーナーが追加あるいは番組の途中までにコントコーナーがあった番組を紹介する。
脚注
注釈
- ^ 制作費を削減するため、実在する施設をロケで借り受け、そこで即興のコントを行う番組も存在する(『有吉の壁』など)。
- ^ 1998年以降は総集編など不定期放送。
- ^ 単発スペシャルとして2020年まで放送。
- ^ 月一回放送。
出典
- ^ 戸部田誠「1989年のテレビっ子」双葉社(2016年)140頁
- ^ “深見千三郎がビートたけしに「漫才なんて芸じゃない」と言い放った理由 - 芸能 : 日刊スポーツ”. nikkansports.com (2022年1月23日). 2023年8月19日閲覧。
- ^ 『「笑」ほど素敵な商売はない』萩本欽一著、福武文庫(p112~113、183)
- ^ 2010/3/17放送 フジテレビ特番「悪いのはみんな萩本欽一である」でのコメント
- ^ 『Quick Japan』 88巻、太田出版、2010年、67頁。ISBN 978-4-7783-1207-7。
- ^ “【極秘】ウッチャンナンチャンの知られざる秘密情報9選を発表!”. めるも. GMOアドマーケティング (2017年12月30日). 2020年12月2日閲覧。
- ^ “トークバラエティに辟易!? 「コント番組」への渇望”. ORICON NEWS (2015年4月25日). 2023年3月6日閲覧。
- ^ 浜松貴憲: “地上波で“ユニットコント番組”が乱立も不安だらけ…『新しいカギ』のゴールデンレギュラー化は暴挙か”. 日刊サイゾー (2021年4月3日). 2023年3月6日閲覧。
- ^ “「完全にしっくりきた」東京03、“負け犬”にスポット当てる冠番組6月にスタート”. 2020年5月22日閲覧。
- ^ Inc, Natasha (2022年5月2日). “EXIT新番組、兼近はたまに頼れるおバカな部長、りんたろー。はピュアなガリ勉(コメントあり)”. お笑いナタリー. 2022年5月7日閲覧。
- ^ “月ともぐら 2023/03/03(金)03:05 の放送内容 ページ1”. TVでた蔵 (2023年3月3日). 2023年3月3日閲覧。
- ^ “月ともぐら 2023/06/16(金)03:00 の放送内容 ページ1”. TVでた蔵 (2023年6月16日). 2023年6月17日閲覧。
関連項目