『アメリカン・サイコ』(American Psycho)は、1991年に出版されたブレット・イーストン・エリスの長編小説。
1980年代後半のマンハッタン・ウォール街を舞台に、投資銀行でVice President(課長相当)を務める一方で快楽殺人を繰り返す社会病質的主人公を描くサイコ・ホラー。
2000年にメアリー・ハロン監督、クリスチャン・ベール主演により映画化された。
あらすじ
ニューヨークのウォール街の投資会社P&PにVice President(課長相当)として勤務するパトリック・ベイトマンは人生を謳歌している。ロングアイランドに居を構える裕福な一家に生まれ、アメリカ屈指の名門のボーディングスクール、フィリップス・エクセター・アカデミーを卒業しハーバード大学に入学。その2年後にハワイハーバード・ビジネス・スクールで大学院課程を修了。現在はトム・クルーズも住んでいる都心の一等地アッパーウェストサイドのアパートメントを借り、ベイトマンはいわゆるヤッピーの典型だ。昼間はジムで汗を流し、ニューヨークでも指折りの高級レストランで同僚達とテーブルを囲む。実際、その会社を所有しているのは他でもないベイトマンの実父であり、ベイトマン自身が仕事内容について作中で語る事は皆無である。むしろ、ウォール街で働くエリートビジネスマンというのは建前で、ベイトマンの本当の生活は夜に始まる。同僚たちは皆、彼と同じく高学歴かつ高収入のエリートばかり。しかし、それと同時に彼らは哀しいほど浅はかで、同僚間の信頼や友情は殆どうわべだけのものである。共通のヘアスタイルやスーツのブランド、趣味を愛好する彼らのライフスタイルは、時としてお互い誰が誰だか分からなくなってしまうほど似通っている。確立された個々のアイデンティティーなどそこには無く、そのコミュニティーに溶け込み順応すること(Fitting In)とその過程においての自己の同一性混乱(Identity Confusion)が本作のテーマの一つにもなっている。表面上は仲の良く、気さくな同僚達。しかし腹の内ではお互いが何を考えているか知っている者などいない。会社では皆、行きつけのレストランや名刺のデザインなどを比べ合い一喜一憂するばかり。そんな中、ある日ベイトマンの前にルックス・学歴・身だしなみなど非の打ち所のない同僚、ポール・オーウェン(映画ではポール・アレン)が現れる。
日本語訳
評価
村上春樹は、「作品としての評価は完全にわかれているけれど、社会的状況資料としてこれくらい自己犠牲的にシニカルで本質的な小説はちょっとない。少なくとも『虚栄のかがり火』はシニカルではあっても自己犠牲的な小説ではないからね」と述べている[1]。
映画
2000年に映画化され、2000年1月に行われたサンダンス映画祭で初公開された。
製作
原作の映画化にあたっては、実に多くの俳優やスタッフが検討された。いくつもの候補が挙がったのち、クリスチャン・ベール主演でメアリー・ハロンによる監督の企画が進められていたが、スタジオ側がレオナルド・ディカプリオの主演を発表し、これに不満を示したハロンが監督を降板。そこで監督にはオリヴァー・ストーンが検討されたが、ストーン、ディカプリオともに頓挫した。最終的にハロンとベールが復帰している。
インタビューでハロンが語ったことによると、原作では残虐な表現をこと細かく描写していたのに対し、映画版ではあくまで主人公の心理描写と80年代後半のバブルの不条理性に対する皮肉に徹しているため、残虐描写は控えたという。エンディングでは、デヴィッド・ボウイの「Something in the air」が流れる。この曲は、世の中や自分自身、そしてパートナーへの愛情が冷めたある男についての曲である。
なお、本作の続編として『アメリカン・サイコ2(英語版)』が製作されているが、原作とは全く無関係で、本作との関連性もほとんどない。
キャスト
スタッフ
- 監督: メアリー・ハロン
- 脚本: メアリー・ハロン、グィネヴィア・ターナー
- 原作: ブレット・イーストン・エリス
- 製作: エドワード・R・プレスマン、クリス・ハンリー、クリスチャン・ハルシー・ソロモン
- 製作総指揮: マイケル・パサーネク、ジェフ・サックマン、ジョセフ・ドレイク
- 共同製作: アーニー・バーバラッシュ、クリフォード・ストライト、ロブ・ワイス
- 撮影監督: アンジェイ・セクラ
- 編集: アンドリュー・マーカス
- 音楽: ジョン・ケイル
- 音楽監修: バリー・コール、クリストファー・カヴァート
- 美術: ギデオン・ポンテ
- 衣装: アイシス・マッセンデン
- キャスティング: ビリー・ホプキンス、スーザン・スミス、ケリー・バーデン
出典
関連項目
外部リンク