医薬品(肺高血圧症治療薬)としてのプロスタサイクリンについては「エポプロステノール 」をご覧ください。
プロスタサイクリン
IUPAC命名法 による物質名
(Z )-5-[(4R ,5R )-5-Hydroxy-4-((S,E )-3-hydroxyoct-1-enyl)hexahydro-2H -cyclopenta[b ]furan-2-ylidene]pentanoic acid
薬物動態 データ半減期 42 seconds データベースID CAS番号
35121-78-9 PubChem
CID: 5282411 IUPHAR/BPS (英語版 )
1915 ChemSpider
102770 UNII
DCR9Z582X0 KEGG
D00106 ChEMBL
CHEMBL1139 化学的データ 化学式 C 20 H 32 O 5 分子量 352.47 g·mol−1
OC(=O)CCC\C=C1\C[C@@H]2[C@@H](/C=C/[C@@H](O)CCCCC)[C@H](O)C[C@@H]2O1
InChI=1S/C20H32O5/c1-2-3-4-7-14(21)10-11-16-17-12-15(8-5-6-9-20(23)24)25-19(17)13-18(16)22/h8,10-11,14,16-19,21-22H,2-7,9,12-13H2,1H3,(H,23,24)/b11-10+,15-8-/t14-,16+,17+,18+,19-/m0/s1 Key:KAQKFAOMNZTLHT-OZUDYXHBSA-N
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プロスタサイクリン (Prostacyclin)またはプロスタグランジンI2 (Prostaglandin I2 、PGI2 )は、エイコサノイド 系の脂質 分子であるプロスタグランジン の一種である。血小板の活性化抑制作用と、血管拡張作用がある。商品名は. ドルナー、プロサイリン など[ 1] 。後発医薬品 もある。
機能
プロスタサイクリン(PGI2 )は、主に一次止血(血栓形成の一部)に関与する血小板の栓形成を防ぐ。これは、血小板の活性化を阻害することによって行われる。また、血管拡張剤としても有効である。プロスタサイクリンの相互作用は、同じくエイコサノイドであるトロンボキサン (TXA2 )の相互作用とは対照的である。これらのことは、血管障害に関連したこの2つの生理活性物質 による心血管恒常性維持 のメカニズムを強く示唆している。
作用機序
前述のように、プロスタサイクリン(PGI2 )は健康な内皮細胞から放出され、近傍の血小板 や内皮細胞 のGタンパク質共役受容体 が関与するパラクリン シグナルカスケードによってその機能を発揮する。血小板のGsタンパク質共役受容体(プロスタサイクリン受容体 )は、PGI2 と結合すると活性化される。cAMP は、血小板の過度の活性化を抑制し(血液循環を促進)、トロンボキサンA2 (TXA2 )の結合による細胞質カルシウム 濃度の上昇(血小板の活性化とそれに続く凝固を引き起こす)を打ち消す働きをする。PGI2 は、内皮のプロスタサイクリン受容体にも結合し、同様に細胞質内のcAMP濃度を上昇させる。このcAMPは、プロテインキナーゼA (PKA)を活性化する。そして、PKAはミオシン軽鎖キナーゼ のリン酸化を促進してカスケードを継続し、それ[訳語疑問点 ] を阻害し、平滑筋 の弛緩と血管拡張 をもたらす。なお、PGI2 とTXA2 は生理的アンタゴニストとして働く。
Ball-and-stick model of prostacyclin
薬理学
プロスタサイクリンの産生は、NSAID がシクロオキシゲナーゼ 酵素COX1 およびCOX2 に作用することで阻害される。これらの酵素はアラキドン酸 をプロスタサイクリンの直接の前駆体であるプロスタグランジンH2 (PGH2 )に変換する。トロンボキサン(血小板凝集を促進するエイコサノイド )もCOX酵素の下流にあるので、NSAIDの効果はバランスをとるように作用すると思われるかも知れない。しかし、プロスタサイクリン濃度はトロンボキサン濃度よりもはるかに早く回復するため、アスピリン投与では最初はほとんど効果がないが、最終的には血小板凝集を防ぐことができる(プロスタグランジンが再生産されるため、プロスタグランジンの効果が優勢になる)。このことは、TXA2 とPGI2 というそれぞれの分子を産生する細胞を理解することで説明できる。PGI2 は主に有核の内皮細胞で産生されるため、NSAIDによるCOX阻害は、COX遺伝子の活性化が進み、その後、PGI2 の生成を触媒 するCOX酵素が多く産生されることで、時間の経過と共に克服される。一方、TXA2は主に無核血小板から放出される。無核血小板は、NSAIDによるCOX阻害に対応してCOX遺伝子の転写 を増やすことができない。なぜなら、そのような作業を行うのに必要なDNA 材料がないからである。このため、NSAIDは血液循環を促進し、血栓症 を抑制するPGI2 を優位に作用させることができる。
生合成
Eicosanoid synthesis. (Prostacyclin near bottom center.)
プロスタサイクリンは、動脈や静脈の壁を覆う内皮細胞 において、プロスタサイクリン合成酵素 (英語版 ) の作用により、プロスタグランジンH2 (PGH2 )から産生される。プロスタサイクリンは独立したメディエーターと考えられているが、エイコサノイドの命名法ではPGI2 (プロスタグランジンI2 )と呼ばれ、プロスタグランジン 、トロンボキサン とともにプロスタノイド の仲間である。PGI2 は、ヒトでは主にCOX2に由来し、血管内皮から放出される主要なアラキドン酸 代謝物である。この点については議論があり、血管内皮細胞の主要なプロスタサイクリン産生シクロオキシゲナーゼをCOX1とする意見もある[ 2] 。
3系統のプロスタグランジンPGH3 もプロスタサイクリン合成酵素の経路をたどり、別のプロスタサイクリンであるPGI3 が生成される[ 3] 。非限定的な用語「プロスタサイクリン」は、通常、PGI2 を指す。PGI2は、ω-6アラキドン酸 に由来する。PGI3は、ω-3エイコサペンタエン酸 に由来する。
歴史
1960年代、ジョン・ベーン ら英国の研究チームは、アナフィラキシーや呼吸器疾患におけるプロスタグランジンの役割について研究を始めた。ベーンは、王立外科医師会のチームと共同で、アスピリン等の経口抗炎症薬 がプロスタグランジンの合成を阻害することを発見した。この重要な発見により、体内でのプロスタグランジンの役割をより深く理解できるようになった。
ウエルカム財団のサルバドール・モンカダ (英語版 ) 率いるチームは、血小板の凝集を抑制する「PG-X」と呼ばれる脂質メディエーターを発見していた。後にプロスタサイクリンと呼ばれるPG-Xは、当時知られていた他の抗凝集剤の30倍の効力を持っていた。
1976年、ベインはサルバドール・モンカダ、リシャード・グリグルフスキー (英語版 ) 、スチュアート・バンティングらと共同で、プロスタサイクリンに関する最初の論文を『Nature』誌に発表した[ 4] 。この共同研究により、合成された分子が生まれ、エポプロステノールと名付けられた。しかし、天然のプロスタサイクリンと同様に、エポプロステノールの分子は溶液中では不安定で、すぐに分解されてしまう[要出典 ] 。
関連項目
出典
^ “プロサイリン錠20 - 基本情報(用法用量、効能・効果、副作用、注意点など) ”. MEDLEY(メドレー) . 2023年9月28日 閲覧。
^ Kirkby, Nicholas S.; Lundberg, Martina H.; Harrington, Louise S.; Leadbeater, Philip D. M.; Milne, Ginger L.; Potter, Claire M. F.; Al-Yamani, Malak; Adeyemi, Oladipupo et al. (2012-10-23). “Cyclooxygenase-1, not cyclooxygenase-2, is responsible for physiological production of prostacyclin in the cardiovascular system” . Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 109 (43): 17597–17602. Bibcode : 2012PNAS..10917597K . doi :10.1073/pnas.1209192109 . ISSN 0027-8424 . PMC 3491520 . PMID 23045674 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3491520/ .
^ “Thromboxane (TX)A3 and prostaglandin (PG)I3 are formed in man after dietary eicosapentaenoic acid: identification and quantification by capillary gas chromatography-electron impact mass spectrometry”. Biomed. Mass Spectrom. 12 (9): 470–6. (1985). doi :10.1002/bms.1200120905 . PMID 2996649 .
^ Moncada, S.; Gryglewski, R.; Bunting, S.; Vane, J. R. (21 October 1976). “An enzyme isolated from arteries transforms prostaglandin endoperoxides to an unstable substance that inhibits platelet aggregation”. Nature 263 (5579): 663–665. Bibcode : 1976Natur.263..663M . doi :10.1038/263663a0 . PMID 802670 .
外部リンク
“Epoprostenol ”. Drug Information Portal . U.S. National Library of Medicine. 2021年8月26日 閲覧。
“Epoprostenol sodium ”. Drug Information Portal . U.S. National Library of Medicine. 2021年8月26日 閲覧。