シークヮーサー (和名 :ヒラミレモン(平実檸檬)、学名 :Citrus × depressa 、台湾語 :酸桔仔 sng-kiat-á ) は、ミカン科 の常緑 低木 、柑橘類 。日本語 の沖縄方言 で「シー」は「酢 」[ 1] 、「クヮースン」は「食わせる」の意味で[ 2] 、「シークヮーサー」という名称は「酸食わし」「酢食わし」という意味になる[ 3] 。果実は小粒で、酸味が強い未熟果の果汁は調味料やジュースとして利用される。
特徴
シークヮーサーの葉と未熟果(沖縄県 竹富町 西表島 )
シークヮーサー園(沖縄県名護市 安和岳 登山道)
日本 の琉球諸島 および台湾 に自生している。高さは5メートルほどで、4月 に、直径 3センチメートルほどの白い花 を咲かせる。収穫は7月 頃から。通常は、果皮が緑色 の時期に青切りで収穫する。果実 は皮が薄く25 - 60グラムほどで、温州ミカン を小型にしたような姿をしている。未熟果は酸味 が強いが、完熟するとオレンジ色に色づき、甘くなる。シークヮーサーには複数の品種 があり、イシクニブ、フスブタ、タネブト、ミカングヮ、イングヮクニブ、ヒジャークニブ、カーアチー、カービシー等、13 - 14種が確認されている。それらを改良 した品種としてクガニー があり、熟すと果皮が黄金色になることから、沖縄地方の方言名でクガニー(黄金)と呼んだと言われている[ 4] 。
ノビレチン を豊富に含む[ 5] 。台湾や東南アジア で栽培されている四季橘(しききつ、カラマンシー )と味や果実の形状が似ているため混同されやすい。四季橘にはほとんどノビレチンが含まれておらず、成分検査を行なうとフロレチン が検出される事が判明している。
遺伝学
シークヮーサーをはじめとするアジアの島マンダリン品種の遺伝子解析を行った結果、このグループは、琉球列島の在来種であるタニブター (C. ryukyuensis )と、現在も沖縄に生息するアジア大陸のマンダリンオレンジ (C. reticulata )との間の複数の交配から生まれた、独立したクローン性の一代雑種 のファミリーであることが判明した。この大陸の親種は、中国の酸朱砂マンダリンに近縁であるが、わずかにザボン (ブンタン)の遺伝子移入 (英語版 ) があり、それがシークヮーサーに受け継がれた。大陸の親はクローン繁殖する。シークヮーサーの子孫も、有性生殖した個別の琉球ミカンの親と多数の独立した交配を行っており、時には種子親として、時には花粉親としての役割を果たしている。このような多様な起源に加えて、沖縄にはシークヮーサーが自生し、琉球王国 最古の歌謡集『おもろさうし 』にも言及されている[ 6] ことから、交配は自然に行われたと考えられる[ 7] [ 8] [ 9] 。
利用
日本では沖縄県 が特産でよく栽培されている[ 10] 。沖縄県ではレモン の代わりに果汁を、ジュース などの飲み物や料理の調味料 、醤油 に加えるなどして使用している[ 10] 。しぼり汁を泡盛 に加えて楽しむこともある。缶入りや瓶入りの果汁、シークヮーサーソーダやシークヮーサー果汁入りの缶チューハイ 、乾燥果汁の粉末[ 5] なども販売されている。
シークヮーサーに多く含まれるフラボノイド の一種ノビレチンには、がん 抑制効果[ 11] [ 12] [ 13] や、血糖値の上昇抑制、慢性リウマチの予防・治療、抗認知症 効果[ 14] 、抗肥満効果[ 15] があるとする研究報告があり、近年は健康食品 として加工され流通している。
食用以外では、芭蕉布 を織り上げた際に、そのままでは固い布を未熟なシークヮーサーの果汁で洗浄し、余剰の有機物 を酸 で溶かして柔らかくする用途に利用されていた。また、くたびれた芭蕉布の再生のために数年に一度、シークヮーサーの果汁で洗濯することもあった[ 16] 。
表記
シークヮーサーという名称は沖縄方言に基づくため、発音の解釈によって表記揺れが激しく、一定しない。食品メーカーや店舗で商品名等にバラつきが生じている。日本果汁協会では"シークヮーサー"表記を標準の表記として協会誌等で取り扱っている。日本食品標準成分表 における表記もこれにならう[ 17] 。食品表示法 に基づく食品表示基準[ 18] や日本農林規格 [ 19] においては"シイクワシャー"と表記され、特産果樹生産動態等調査 (農林水産省 )でもこの表記を主としている。沖縄県中央卸売市場 の発行物では"シークァーサー"と表記されている[ 20] 。
脚注
^ “首里・那覇方言データベース シー ”. 沖縄言語研究センター. 2016年4月22日時点のオリジナル よりアーカイブ。2020年3月17日 閲覧。
^ “首里・那覇方言データベース クヮースン ”. 沖縄言語研究センター. 2020年3月17日 閲覧。
^ “首里・那覇方言データベース シークヮーサー ”. 沖縄言語研究センター. 2016年9月17日時点のオリジナル よりアーカイブ。2020年3月17日 閲覧。
^ “シークヮーサーの里 ”. 大宜味村 . 2019年12月21日時点のオリジナル よりアーカイブ。2019年11月14日 閲覧。
^ a b “「シークワーサー 新たな商機/認知症予防効果で脚光” . 日本農業新聞 . (2019年11月7日). オリジナル の2020年7月25日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200725190300/https://news.livedoor.com/article/detail/17344311/ 2020年7月25日 閲覧。
^ “こがねげ ”. おきなわ郷土村 おもろ植物園 . 2020年2月23日時点のオリジナル よりアーカイブ。2021年10月9日 閲覧。
^ Wu, Guohong Albert; Sugimoto, Chikatoshi; Kinjo, Hideyasu; Asama, Chika; Mitsube, Fumimasa; Talon, Manuel; Gmitter, Frederick G, Jr; Rokhsar, Daniel S (2021). “Diversification of mandarin citrus by hybrid speciation and apomixis”. Nature Communications 12 : 4377. doi :10.1038/s41467-021-24653-0 . and Supplement
^ 『沖縄の「シークヮーサー」、出自の謎が明らかに 』(プレスリリース)沖縄科学技術大学院大学、2021年7月26日。オリジナル の2021年7月26日時点におけるアーカイブ。https://web.archive.org/web/20210726120919/https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/36473 。
^ “「シークヮーサー」の起源を解明 沖縄に自生するかんきつ類が“親”だった” . 沖縄タイムス . (2021年8月10日). オリジナル の2021年8月10日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210810024253/https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/801555
^ a b 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版 、2012年7月10日、192頁。ISBN 978-4-415-30997-2 。
^ Minagawa A, Otani Y, Kubota T, Wada N, Furukawa T, Kumai K, Kameyama K, Okada Y, Fujii M, Yano M, Sato T, Ito A, Kitajima M (2001). “The citrus flavonoid, nobiletin, inhibits peritoneal dissemination of human gastric carcinoma in SCID mice”. Jpn J Cancer Res 92 (12): 1322-1328. PMID 11749698 .
^ Sato T, Koike L, Miyata Y, Hirata M, Mimaki Y, Sashida Y, Yano M, Ito A. (2002). “Inhibition of activator protein-1 binding activity and phosphatidylinositol 3-kinase pathway by nobiletin, a polymethoxy flavonoid, results in augmentation of tissue inhibitor of metalloproteinases-1 production and suppression of production of matrix metalloproteinases-1 and -9 in human fibrosarcoma HT-1080 cells”. Cancer Res 62 (4): 1025-1029. PMID 11861377 .
^ Yoshimizu N, Otani Y, Saikawa Y, Kubota T, Yoshida M, Furukawa T, Kumai K, Kameyama K, Fujii M, Yano M, Sato T, Ito A, Kitajima M (2004). “Anti-tumour effects of nobiletin, a citrus flavonoid, on gastric cancer include: antiproliferative effects, induction of apoptosis and cell cycle deregulation”. Aliment Pharmacol Ther 1 : 95-101. doi :10.1111/j.1365-2036.2004.02082.x . PMID 15298613 .
^ “アルツハイマー病(認知症)の予防・治療トップ > ノビレチンとは ”. 東北大学 超臨界溶媒工学研究センター. 2021年1月2日時点のオリジナル よりアーカイブ。2019年11月14日 閲覧。
^ “シークヮーサー成分、肥満下でもがん抑制 琉大チーム発見” . 琉球新報 . (2015年5月22日). オリジナル の2016年4月7日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160407181746/http://ryukyushimpo.jp/news/prentry-243237.html
^ “シークヮーサー使った洗濯再現 芭蕉布「ぱりっと」 体験談を基に手作業” . 琉球新報 . (2020年11月18日). オリジナル の2020年11月18日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20201118080854/https://ryukyushimpo.jp/news/entry-1227357.html
^ “日本食品標準成分表2015年版(七訂) 第2章 日本食品標準成分表 7 果実類 ” (PDF). 文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会 (2015年12月25日). 2021年6月30日時点のオリジナル よりアーカイブ。2021年10月9日 閲覧。
^ 食品表示基準(平成二十七年内閣府令第十号) - e-Gov法令検索
^ “果実飲料の日本農林規格 ” (PDF). 農林水産省 (2019年6月27日). 2021年9月7日時点のオリジナル よりアーカイブ。2021年10月9日 閲覧。
^ “令和2年 市場年報 ” (PDF). 沖縄県中央卸売市場 (2021年3月). 2021年9月9日時点のオリジナル よりアーカイブ。2021年10月9日 閲覧。 など。
参考文献
ウィキメディア・コモンズには、シークヮーサー に関するカテゴリがあります。