レミギウスは、おそらくブルゴーニュに生まれ[2]、フェリエールのルプスおよびオセールのヘイリクス(876年没、自身はヨハネス・スコトゥス・エリウゲナの弟子[3])の弟子となった[4]。また、レミギウスは注釈書を作成する上で、アイルランド人の教師達、つまりランのドゥンカルドゥス、エリウゲナ、セドゥリウス・スコトゥス、マルティヌス・スコトゥスらから多くを借用した。「学問上のグレシャムの法則に従い、レミギウスの自著への借用を寛大にも許した諸書は、そうしてできたレミギウスの著書によってこの分野から駆逐されるにいたるのがつねであった」とJ. P. Elderは指摘している[5]。ジョン・マレンボンは同じ現象をより肯定的な観点のもとにおいて[6]、レミギウスによる古典的文献に対する9世紀の注釈の選集(彼自身のものもあれば彼が集めてきたものもある)は後の研究者に初期中世の思想家の著作だけでなく古代ギリシア語・ラテン語や哲学のはっきりした要素も残したと主張している[7]。後代の報告によると、レミギウスの選集は後期中世において、特に12世紀においてヨーロッパ中で用いられたという[8]。
彼はオセールのサン・ジェルマン修道院で教え、876年にヘイリクスが死んでからは修道院学校長になった。883年には大司教フルクスにランス聖堂学校で教えるよう招聘され、893年にはその学頭に任じられた。900年にフルクスが死ぬと、レミギウスはパリで教えるためにランスを発ち、以降死ぬまでパリに留まった。そのころまでにレミギウスは「優秀博士」(羅:egregius doctor)、「神の聖典と人間の聖典の両方を学んだ」(羅:in divinis et humanis scripturis eruditissimus)などと言われ盛名をはせた[9]。教師として、レミギウスは普遍の問題に関心を持ち、エリウゲナの極端な実在論と自身の師ヘイリクスの反実在論を調停しようとしたと考えられている。概して彼は古典古代の文献とキリスト教の聖典の両方を弟子に教えられるようなやり方で解釈しようとしており、自分たちの生きているキリスト教世界に古代哲学を適用する方法を探究した[10]。彼が考察した文献は非常に多くさまざまであったが、彼の主な注釈は末期ローマの哲学者ボエティウスやマルティアヌス・カペッラに関するものであって、レミギウスは彼らの作品の中にキリスト教神学と共存できる柔軟なアレゴリーを見出した[11]。
著作
その長い学問的経歴にあって、レミギウスは古典古代やキリスト教に由来する多彩なテキストに対する、膨大な量の字引と僅かな注釈書を著した。彼の字引は過去の註釈家から自由に借用して作成されており、中世にラテン語文献学を学んだ学生たちから非常に関心を持たれた。彼の聖書注釈には、『創世記』、『詩篇』(彼の『詩篇物語』(羅:Ennarationes in Psalmos)がそれである)に対するものがあった。彼はカエサレアのプリスキアヌス、アエリウス・ドナトゥス、フォカス、エウテュケスの文法書に対する注釈書も記した。彼が好んだ古典古代の文献にはプビリウス・テレンティウス・アフェル、ユウェナリス、コエリウス・セドゥリウス[10]、『カトニス・ディスティカ』、『名詞学』(羅:Ars de nomine)[12]がある一方で、後代のベーダの注釈書も好んだ。しかし、ボエティウスの『哲学の慰め』や神学論文集、マルティアヌス・カペッラの『文献学とメルクリウスの結婚』に関する注釈を収集し、自分でも注釈を書いたことで彼は最もよく知られている。
古代の哲学的文献に対するレミギウスの註釈に関する第一の研究によって、彼の著作の多くは剽窃らしいということが分かった[24]。フランスの宮廷・学校にネオプラトニズムを紹介した前世代のアイルランド人修道士ヨハネス・スコトゥス・エリウゲナの著作から広範にわたって彼が思想を引き出している点でそのことは特に明白となっている。[25]。エリウゲナは哲学者なのに対してレミギウスは文法家にすぎないことを根拠として、E. K. Randはレミギウスがエリウゲナの著作から「シザーアンドペースト[26]」を行ったとして非難している[27] 。しかし、より近年の研究によって、こういった非難は不公平であるばかりか、それが必ずしも真でないことが示されている。
^"Un commento del commento", according to C. Marchese, "Gli scoliasti di Persico" Rivita di Filologia39-40 (1911-12), noted by J. P. Elder, "A Mediaeval Cornutus on Persius" Speculum22.2 (April 1947, pp. 240-248), p 240, note; 243f.
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