アオザメ Isurus oxyrinchus (青鮫、英名:Shortfin mako shark [注釈 1] )は、ネズミザメ目 ネズミザメ科 に属するサメ 。
アオザメ属 Isurus には他にバケアオザメ が現存する。
名称
属名 Isurus は「(上下の長さが)等しい尾」というギリシア語に由来し、三日月形の尾鰭を指す[2] 。種名のoxy は「鋭い」、rynchus は「吻」という意味のギリシア語に由来する[2] 。
和名の“アオザメ”は体色が青色のサメであることから。日本国内の地方名としてイラギ(和歌山県)、アオザトル、カツサメ(東北)、マイラ(高知県)、アオブカ(宮崎県)などがある。沖縄名はウキザーラ。
英名の「mako」 とは、マオリ語で「サメ」の意[2] 。英名では更に、長い胸鰭をもつバケアオザメを“Longfin mako”と呼ぶことから、アオザメを“Shortfin mako”として区別している。
分布
世界中の暖海域に広く分布する。外洋性。
形態
体型はマグロ 類などの高速遊泳魚と同じ流線型 で、水の抵抗を受けにくい。尾鰭は長時間かつ高速の遊泳に適した三日月形である。吻は扁平で尖る。目は黒く大きい。第二背鰭、臀鰭は小さい。尾柄部には隆起線がある。
全体の体色は鮮やかな光沢のある淡青色(メタリックブルー)だが、背側は光沢のある濃青色、腹側は白色となっており、その境界は明瞭で、側面から見ると背中側から順に濃青-淡青-白の三色となっている。
両顎歯は同形で主尖頭のみの歯を持ち、縁はナイフ状で鋸歯縁を持たない。歯列数は上顎が24~26、下顎が22~32[3] 。
生態
非常に活動的な種[要出典 ] で、サメ類の中で最も速く泳ぐとされており、時速35km以上、瞬間的には時速100kmで泳ぐことも可能とされている[4] 。毛細静脈と毛細動脈が緻密に入り組んだ熱交換システムの(奇網 )を筋肉 の周囲に備え、体温を周囲の海水温よりも高く保ち、冷たい海水中でも筋肉 の運動性を維持できる(類似の組織は高速遊泳を行うマグロ 類やカジキ 類などにも見られる)。
胎生 であり、ネズミザメ目 に見られる卵食型で、胎仔は子宮内で孵化したのち未受精卵を食べて育つ。3年に一度繁殖を行い、妊娠期間は15~18ヶ月[1] 。産仔数は4~25尾約60~70cmで産出され、地域によって異なるが雄は165~215cm、雌は265~312cmで成熟する。最大で全長445cm、体重505.8kg [5] 。成熟年齢は雄7~9歳、雌18~21歳[1] 。寿命は29~32年と見積もられている[1] 。
人との関わり
水産
世界的には重要な漁業対象種であり、マグロ やカジキ を対象にした延縄や流し網などでも混獲される[1] [2] [6] 。日本での1992~2009年の水揚量は800~1,500トンで、サメ類全体に占める割合は4~8%[6] 。また、引きが強く針にかかると空中にジャンプするのでスポーツ・フィッシングの対象種として人気がある。餌は小魚 や頭足類 が用いられる。
肉は美味といわれている。ソテーや刺身、味噌漬け になる[6] 他、練り製品の原料にもなる。鰭がフカヒレ に加工される他、脊椎骨や顎骨、皮、肝油などが利用される。地中海 周辺地域では、ステーキ などにして食べるようである。日本 では、ヨシキリザメ とともに、高級はんぺん の材料とされる。アオザメのフカヒレは通常出回っているヨシキリザメの物より高級とされ、高値で取引されている。
水揚げされた多数のアオザメ
スペイン 、
ビーゴ の漁港にて
(2007年3月22日撮影)
スポーツフィッシングで捕獲された個体 体重は186
ポンド (約84.37
キログラム )あったという
(2007年7月の撮影)
危険性
気性が荒く、人に対しては危険な種とされている [要出典 ] が、今までにこのサメが起こした事故はあまり報告されていない。生息域が主に外洋ということで、人と接触することがあまりないためであるとされる。
2010年11月30日から12月1日の2日間にかけて、エジプトの紅海 において海水浴客3人がサメに襲撃される事件が発生。このうち1人が足と腕を噛みつかれ、片腕を失った。近くの海域でヨゴレ と共にアオザメが捕獲されたことから、犯人は当初アオザメとされた[7] 。サメが捕獲されたことから、地元当局は海の遊泳禁止措置を解除した。しかし、その後ドイツ人の海水浴客がサメに襲われて死亡する襲撃事件が起きており、襲撃したサメは別の種類と見られている。日本国内においても1951 年熊野灘の定置網にかかった全長5mのアオザメから少年の死体が見つかった例がある。(大きさに関しては正確に計測されたものかは不明)[8] 。
飼育記録
アオザメはサメの中で最も飼育が難しい種類の一つで、記録は少ない。沖縄美ら海水族館 元館長の内田詮三によると、国営沖縄記念公園水族館 (現:沖縄美ら海水族館)の大水槽では、活かしての搬入は可能であるが、アクリル壁を全く認識しないため激突防止が出来ず、水槽内に網を張るなど対策を施さなくては不可能と述べている[9] 。
実例としていくつかの水族館で飼育が試みられており、シーワールド・サンディエゴ では1970年 代初頭に90cmのアオザメの飼育実験が行われたが失敗[10] 、1978年 の夏にサンディエゴ 沖で捕獲された1.0mと1.4mのアオザメ2個体を約1時間かけて搬送し、40,000ガロン (約151トン)水槽に搬入したが、壁をうまく避けられず、両個体とも3日以内に死亡した[10] 。
ニュージャージー州 カムデン のニュージャージー州立水族館(Thomas H. Kean New Jersey State Aquarium, 現:Adventure Aquarium(英語版) )では、2001年 にアトランティックシティ 沖約37km地点で捕えた1.07m、6.8kgの雌のアオザメを飼育したが、餌や混泳しているニシン にも興味を示さず、過去の例と同様に水槽の壁を上手く避けられず、5日後に死亡した[10] 。
日本 では、2016年 1月15日 に和歌山県 の串本海中公園 で小型のアオザメを搬入したが同日中に死亡[11] 、2019年 1月5日 に神戸市立須磨海浜水族園 に搬入し、展示を試みるも1月6日 までに死亡している[10] [12] 。また、詳細は不明だが、2019年2月8日 にむろと廃校水族館 にも小型のアオザメとみられる個体が搬入されている[13] 。2019年11月20日には東京都 の葛西臨海水族園 の大水槽で展示が試みられたが[14] 、こちらも11月22日までに展示が終了している[15] 。
八景島シーパラダイス では2020年 6月12日 に定置網 にて混獲されたアオザメを円柱水槽に搬入し飼育を試みたが[16] 、同年6月14日 に展示が終了している[17] 。
八景島シーパラダイスにて新育展示されていたアオザメ (2020年6月13日撮影)
この他、時期は不明だが国営沖縄記念公園水族館で最長2日間の飼育記録がある[18] 。
近縁種
詳しい生態はまだほとんど分かっていない。生息が確認されたのは、北および西大西洋 、バハマ 、キューバ 、マダガスカル島 周囲、また太平洋 においてはハワイ諸島 周辺のみとなっている。
背部は青色~紺色で腹部は白い。英名が示す通り、アオザメよりも大きな胸鰭を持つ。こちらも潜在的に危険とされているが、人を襲った記録は無い。近縁種であるが、食用としての肉質はアオザメよりも水分が多く味も食感もかなり落ちる。
その他
シボレー がシボレー・コルベット C3型 の原型として1961年 に発表したコンセプトカー、“Chevrolet Mako Shark(英語版) [注釈 2] ”の名はアオザメの英名に因んでのものである[19] 。
脚注・出典
注釈
^ なお、英語において“青(い)サメ”(Blue Shark)とはヨシキリザメ (学名:
Prionace glauca )を意味する。
^ 日本におけるカタカナ表記は「マーコシャーク/マコシャーク」「メイコーシャーク/メイコシャーク」等。
出典
^ a b c d e Cailliet, G.M., Cavanagh, R.D., Kulka, D.W., Stevens, J.D., Soldo, A., Clo, S., Macias, D., Baum, J., Kohin, S., Duarte, A., Holtzhausen, J.A., Acuña, E., Amorim, A. & Domingo, A. 2004. Isurus oxyrinchus (※2023年7月14日閲覧). In: IUCN 2011. IUCN Red List of Threatened Species. Version 2011.1. <www.iucnredlist.org>. Downloaded on 23 June 2011.
^ a b c d Biological Profiles: Shortfin mako (※2023年7月14日閲覧) Florida Museum of Natural History, Ichthyology Department.
^ David A.Ebert,Mare Dando and Sarah Fowler (2021). SHARKS OF THE WORLD A Compleat Guide. WILD NATURE PRESS.pp.316
^ 中坊徹次.2018.ネズミザメ科.Pp. 20–21.中坊徹次(編), 小学館の図鑑 Z 日本魚類館.小学館,東京.
^ David A.Ebert,Mare Dando and Sarah Fowler (2021). SHARKS OF THE WORLD A Compleat Guide. WILD NATURE PRESS.pp.316
^ a b c 「平成22年国際漁業資源の現況: アオザメ」 水産庁・独立行政法人水産総合研究センター。
^ Egypt says sharks that mauled Red Sea swimmers nabbed ※2023年7月14日現在リンク切れ
^ 市場魚介類図鑑>アオザメ ※2023年7月14日閲覧
^ 板鰓類研究会報14号・沖縄の板鰓類と大水槽における飼育より
^ a b c d “Shortfin mako (Isurus oxyrinchus) in Captivity ” (January 2019). 14 jury 2023閲覧。
^ 串本海中公園公式Twitterツイート(2016年1月16日(JST) ※2023年7月14日閲覧
^ 神戸市立須磨海浜水族園公式Twitterツィート ※2023年7月14日現在リンク切れ
^ 日本ウミガメ協議会公式Twitterツイート(2019年2月9日(JST) ※2023年7月14日閲覧
^ 葛西臨海水族園公式Twitterツイート(2019年11月21日(JST) ※2023年7月14日閲覧
^ 葛西臨海水族園公式Twitterツイート(2019年11月22日(JST) ※2023年7月14日閲覧
^ 八景島シーパラダイス公式Twitterツイート(2020年6月13日(JST) ※2023年7月14日閲覧
^ 八景島シーパラダイス公式Twitterツイート(2020年6月14日(JST) ※2023年7月14日閲覧
^ 国営沖縄記念公園水族館 (1988). 水族館動物図鑑 沖縄の海の生きもの . 財団法人 海洋博覧会記念公園管理財団. pp. 129
^ GM.com>1961 Mako Shark I Corvette ※2023年7月14日閲覧
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
アオザメ に関連するメディアがあります。
外部リンク