C1化学 (シーワンかがく、シーいちかがく、C1-Chemistry)とは合成ガス (一酸化炭素 と水素 の混合ガス )やメタン 、メタノール といった炭素 数が1の化合物を原料に用いて、炭素数が1の化合物の相互変換をしたり、炭素数が2以上の化合物を合成する技術法のことであり、有機工業化学 の一分野である。
C1化学プロセス図
概論
C1化学の原料として用いられる合成ガスやメタンは天然ガス や石炭 、オイルシェール 、バイオマス などといった石油 以外の炭素資源 から作られる(重質油や石油排ガスを原料にする場合もある)。そのため、「石油資源の有効利用」という観点からC1化学は重要な有機合成化学 の一体系と考えられている。種々の化学原料に変換されたあとは現在の石油化学工業 と同様のプロセスを経て、様々な化学製品となる。また、後述するような方法を用いると、合成ガソリン といった炭化水素 の混合物が得られる。このC1化学は触媒 が非常に重要となっている。
メタンからエチレンの合成
エチレンプラント が石油コンビナート の生産力の中核をなすことからもわかるようにエチレン には大きな需要が存在し、これを作れればC1化学の枠を越えて石油化学製品の製造が可能となる。
メタンは石油の価格の半分、シェールガス革命によって1/4にさえなると見られ、もし天然ガスの大半を占めるメタンを利用できれば莫大な利益が見込める。[1]
そのためメタンの酸化的カップリングが望まれ、精力的な研究が行われてきたが実用化は叶わず20世紀終わりには研究は下火になった。
メタンの酸化カップリング反応は次の式で表される。[2] [3]
2CH4 + O2 → C2 H4 + 2H2 O
合成ガスからエチレンの合成
中国では安価な石炭を元にメタノール を作り、メタノールからエチレン やプロピレン などオレフィンを作り出すMTO法(Methanol to Olefin)の大規模工業化を進めている。この技術を使えば石炭の他樹木などのバイオマス といった幅広い天然資源から石油化学製品を作り出す「天然資源化学」が実現できる。間接的にメタンからエチレンを作り出すことも可能。[4]
C1化学の主な反応
合成炭化水素・人造石油
合成ガスを鉄 やコバルト などを触媒 として150–350℃、1–30気圧で反応させると、液体燃料 や高級パラフィン 、オレフィン が合成される。この反応はフィッシャー・トロプシュ反応 (Fischer-Tropsch process) と呼ばれる。この反応では CH2 種の生成と連鎖成長が主反応であり、生成物の選択性が一定規則に従う (Schulz-Flory分布 )。南アフリカ ではこの方法で炭化水素 を大量に合成している。
また、メタノールから活性ゼオライト を用いることで、ガソリン 留分の多い炭化水素を得ることができる。この反応はMTG法 (Methanol To Gasoline) と呼ばれ、ニュージーランド で工業化されている。
水素・アンモニア・肥料・火薬
合成ガスを水蒸気改質すると、水素と二酸化炭素の混合ガスになり、遠心分離の上、二酸化炭素をアミンなどで吸収除去すれば、水素が得られる。ハーバー・ボッシュ法 でアンモニアを生産し、それを出発物質に、窒素肥料や、硝酸、火薬が作れる。
メタノール
メタノール は種々の化合物の原料として用いられる。また、将来的には自動車 用の燃料 として期待されている。C1化学において、メタノールは合成ガスから銅 -亜鉛 酸化物 触媒を用いて合成される。この合成法はいくつかの方法があるが、200–350℃、50–250気圧 で行われる。
CO
+
2
H
2
⟶ ⟶ -->
CH
3
OH
{\displaystyle {\ce {CO\ + 2H2 -> CH3OH}}}
ホルムアルデヒド
ホルムアルデヒド は高分子 原料によく用いられる。ホルムアルデヒドはメタノールを銀 触媒を用いて600–720℃で脱水素させることで合成される。
CH
3
OH
+
1
2
O
2
⟶ ⟶ -->
HCHO
+
H
2
O
{\displaystyle {\ce {CH3OH\ + 1/2 O2 -> HCHO\ + H2O}}}
また、メタンの部分酸化 による合成法も研究されているが、メタンの反応速度やホルムアルデヒドの安定性の点から現在、工業化は難しい。
酢酸
酢酸 はそれ自体も様々な用途に用いられるが、その誘導体は工業的にきわめて重要である。酢酸はメタノールと一酸化炭素をロジウム 錯体 を用いることで合成される(モンサント法 )。この方法を用いると、酢酸の生成速度は原料の量に依存しないという特徴がある。
CH
3
OH
+
CO
⟶ ⟶ -->
CH
3
COOH
{\displaystyle {\ce {CH3OH\ + CO -> CH3COOH}}}
クロロメタン
クロロメタン類(クロロメタン 、ジクロロメタン 、クロロホルム 、四塩化炭素 )は不燃性の溶媒 として用いられる。メタンを原料とする場合、塩素 ガスを加熱または、光照射 をすることによって合成される。
CH
4
+
Cl
2
⟶ ⟶ -->
CH
3
Cl
+
CH
2
Cl
2
+
CHCl
3
+
CCl
4
{\displaystyle {\ce {CH4\ + Cl2 -> CH3Cl\ + CH2Cl2\ + CHCl3\ + CCl4}}}
また、塩化メチルを選択的に合成する方法として、メタノールと塩酸 をアルミナ 触媒を用いて、200–380℃、3–6気圧で合成する。また、この塩化メチルはさらに塩素化することができる。
CH
3
OH
+
HCl
⟶ ⟶ -->
CH
3
Cl
+
H
2
O
{\displaystyle {\ce {CH3OH\ + HCl -> CH3Cl\ + H2O}}}
メチルアミン
メチルアミン は様々な化学製品の中間体として重要である。メチルアミンはメタノール とアンモニア をアルミナやケイ酸アルミニウム を触媒として、350〜500℃、15–30気圧で合成される。
CH
3
OH
+
NH
3
⟶ ⟶ -->
CH
3
NH
2
+
H
2
O
{\displaystyle {\ce {CH3OH\ + NH3 -> CH3NH2\ + H2O}}}
実際はモノメチル化で終わらず、一部はジメチルアミン 、トリメチルアミン まで進行する。
シアン化水素
シアン化水素 は工業化学 において、重要な化合物である。シアン化水素はC1化学プロセス的には次の方法に大別される。
ホルムアミド の脱水反応
HCONH
2
⟶ ⟶ -->
HCN
+
H
2
O
{\displaystyle {\ce {HCONH2 -> HCN\ + H2O}}}
(
Δ Δ -->
H
=
+
75
k
J
/
m
o
l
)
{\displaystyle (\Delta H=+75\mathrm {kJ/mol} )}
メタン のアンモ酸化
CH
4
+
NH
3
+
3
2
O
2
⟶ ⟶ -->
HCN
+
3
H
2
O
{\displaystyle {\ce {CH4\ + NH3\ + {\frac {3}{2}}O2 -> HCN\ + 3H2O}}}
(
Δ Δ -->
H
=
− − -->
473
k
J
/
m
o
l
)
{\displaystyle (\Delta H=-473\mathrm {kJ/mol} )}
あるいはC1化学プロセス以外の方法でも大量に合成される。
上記のアンモ酸化の例である「Andrussow法」では次のように製造される。
メタンとアンモニア、酸素をロジウム を添加した白金 触媒を用いて、1000〜1200℃、常圧で反応させることで合成される。生成ガスはシアン化水素の分解を防ぐために急冷される。Andrussow法以外にも酸素を使用しないメタンのアンモ酸化であるDegussa法、メタンの代わりに炭化水素を用いるアンモ酸化であるShawinigan法も利用される。
シアン化水素は直接工業原料として用いられるほか、クロロシアン 、トリクロロイソシアヌル酸 、シアヌリル酸アミド(メラミン)などを介して種々の化成品の原料に利用される。またシアン化水素から製造されるオキサミドは肥料の原料にも使用される。
脚注