『悲劇的序曲 』(ひげきてきじょきょく、独:Tragische Ouvertüre )作品81は、演奏会用序曲 として1880年 にヨハネス・ブラームス によって作曲された管弦楽 のための楽曲である。
作曲の背景
1879年 にブラームスはブレスラウ大学 の哲学科から名誉博士号を与えられ、翌1880年の夏、推薦人のひとりであった指揮者のベルンハルト・ショルツの薦めから感謝の印にと『大学祝典序曲 』を保養地バート・イシュルで書き進めていた。この際、彼はこの陽気な「笑う序曲」と対になる「泣く序曲」(どちらも友人ライネッケ宛書簡の中でのブラームス自身の記述)を書こうと考え、同時にこの『悲劇的序曲』も作曲した。タイトルについてはショルツ宛の書簡(同年9月4日の書簡)で逡巡した様子も見せているが、最終的にブラームス自身が命名している。
同年の9月13日にその日が誕生日だったクララ・シューマン との連弾で両曲を披露しているため、8月中にはどちらも作曲を終えていたものと推測されている。
その題名および劇的な構成から、交響詩 のように何らかの題材となったものがあるのかとも感じさせるが、ブラームス自身は「何らかの具体的な悲劇を題材として想定したものではない」とそれを否定している。なおブラームスが遺したスケッチや草稿の研究では、作曲の10年以上前になる1860年代の末には、既にこの曲のスケッチが出現していることがわかっている。
初演
1880年 12月26日 、ウィーン楽友協会 大ホールにてハンス・リヒター 指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 による。
構成
Allegro non troppo - Molto più moderato - Tempo primo ma tranquillo
演奏時間は約12分から14分。自由なソナタ形式。展開部と再現部第1主題部が融合した独特のソナタ形式 (第1主題の再現→展開部→推移主題の変形→第2主題再現となっている)をとる。これはブラームスが交響曲第1番 や交響曲第3番 の第4楽章などで使用した形式である。
Allegro non troppoニ短調 2/2拍子で、全合奏の和音が2つ奏されてから第1主題が提示される(譜例1)。変イ長調に転じると推移主題(1回目の提示はブラームスがこの手の主題を好んで割り当てたトロンボーン が奏する)が柔和に現れる(譜例2)。その後第2主題がヘ長調で提示される(譜例3)。さらに第1主題と同様に激しいコデッタ主題が情熱的な高揚を見せて続く。やがて第1主題が再現され、Molto più moderato 4/4拍子で、行進曲風に進行する。その後、経過主題、第2主題、コデッタと提示部どおりに再現される。コーダは第1主題で高揚し、最後はニ短調で力強く結ばれる。
なお、3年後に発表される交響曲第3番は、その楽想や動機・構成に共通性がある点が指摘されることもある。
譜例1
譜例2
譜例3
楽器編成
ピッコロ 1、フルート 2、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2、ホルン 4、トランペット 2、トロンボーン 3、チューバ 1、ティンパニ 1対、弦五部 (第1ヴァイオリン 、第2ヴァイオリン、ヴィオラ 、チェロ 、コントラバス )
外部リンク