数学において,ある集合S の元が(同値関係として定式化される)同値の概念を持つとき,集合 S を同値類(どうちるい,英: equivalence class)たちに自然に分割できる.これらの同値類は,元 a と b が同じ同値類に属するのは a と b が同値であるとき,かつそのときに限るものとして構成される.
フォーマルには,集合 S と S 上の同値関係 ∼ が与えられたとき,元 a の S における同値類は,a に同値な元全体の集合
である.「同値関係」の定義から同値類は S の分割をなす.この分割,同値類たちの集合,を S の ∼ による商集合 (quotient set) あるいは商空間 (quotient space) と呼び,S/∼ と表記する.
X がすべての車の集合であり,∼ が「同じ色である」という同値関係のとき,ある1つの同値類はすべての緑色の車からなる.X/∼ はすべての車の色の集合と自然に同一視できる.
X を平面内のすべての長方形の集合とし,∼ を「同じ面積を持つ」という同値関係とする.各正の実数 A に対し,面積が A の長方形全体のなす同値類がある[1].
整数の集合 Z 上の2を法とした同値関係を考える,つまり x ∼ y とはそれらの差 x − y が偶数であることである.この関係はちょうど2つの同値類を生じる:1つはすべての偶数からなり,もう1つはすべての奇数からなる.この関係の下で,[7], [9], [1] はすべて Z/∼ の同じ元を表す[2].
X を b が 0 でない整数の順序対 (a, b) 全体の集合とし,X 上の同値関係 ∼ を (a, b) ∼ (c, d) ⇔ ad = bc によって定義する.すると対 (a, b) の同値類は有理数a/b と同一視することができ,この同値関係とその同値類は有理数の形式的な定義に用いることができる[3].同じ構成は任意の整域の分数体に一般化することができる.
X をユークリッド平面内のすべての直線の集合とし,L ∼ M を L と M が平行と定義すると,互いに平行な直線の集合が1つの同値類をなす(直線は自分自身と平行と考える).この状況では,各同値類は無限遠点を決定する.
X の任意の3つの元 a, b, c に対して,a ∼ b かつ b ∼ c ならば a ∼ c である(推移性).
元 a の同値類は [a] と書き,a と ∼ によって関係づけられる元全体の集合
として定義される.同値関係 R を明示して [a]R とも書かれる.これは a の R-同値類といわれる.
同値関係 R に関する X のすべての同値類からなる集合を X/R と書き,X の R による商集合 (quotient set of X by R, X modulo R) と呼ぶ[5].X から X/R への各元をその同値類に写す全射 は標準射影と呼ばれる.
各同値類の元を(しばしば暗黙に)選ぶと,切断(英語版)と呼ばれる単射が定義される.この切断を s で表せば,各同値類 c に対して [s(c)] = c である.元 s(c) は c の代表元 (representative) と呼ばれる.切断を適切に取って類の任意の元をその類の代表元として選ぶことができる.
ある切断が他の切断よりも「自然」であることがある.この場合,代表元を標準(英語版)代表元と呼ぶ.例えば,合同算術において,整数上の同値関係で,a ∼ b を a − b が法と呼ばれる与えられた整数 n の倍数であると定義したものを考える.各類は n 未満の非負整数を唯一つ含み,これらの整数が標準的な代表元である.類とその代表元は多かれ少なかれ同一視され,例えば a mod n という表記は類を表すことも標準的な代表元(a を n で割った余り)を表すこともある.
性質
X の任意の元 x は同値類 [x] の元である.任意の2つの同値類 [x] と [y] は,等しいか互いに素かのいずれかである.したがって,X のすべての同値類からなる集合は X の分割をなす,つまり,X の任意の元はちょうど1つの同値類に属する[6].逆に X の任意の分割は同値関係からこのようにして生じる.x ∼ y を x と y が分割の同じ集合に属するとした同値関係である[7].
同値関係の性質から次が従う:
x ∼ y ⇔ [x] = [y].
言い換えると,∼ が集合 X 上の同値関係であり,x と y が X の2つの元であれば,以下の主張は同値である:
グラフによる表現
任意の二項関係は有向グラフによって,同値関係のような対称的なものは無向グラフによって表すことができる.∼ が集合 X 上の同値関係であるとき,グラフの頂点全体を X の元全体とし,s ∼ t のとき,かつそのときに限り頂点 s と t を結ぶ.同値類はこのグラフにおいてグラフの連結成分(英語版)をなす極大クリークによって表される[2].
不変量
∼ が X 上の同値関係で P(x) が,x ∼ y であるときにはいつでも,P(y) が真ならば P(x) が真であるような,X の元の性質であるとき,性質 P は ∼ の不変量,あるいは関係 ∼ のもとで well-defined であるといわれる.
よくある場合は f が X から別の集合 Y への関数であるときに生じる;x1 ∼ x2 であるときにはいつでも f(x1) = f(x2) であるとき,f は ∼ に対する射,∼の下での類不変量,あるいは単に ∼の下の不変量といわれる.これは例えば有限群の指標理論において現れる.著者によっては「∼ の下で不変」の代わりに「∼ と両立する」あるいはただ「∼ に従う」を用いる.
任意の関数 f: X → Y はそれ自身,x1 ∼ x2 ⇔ f(x1) = f(x2) なる X 上の同値関係を定義する.x の同値類は f(x) に写される X の元全体の集合である,つまり,類 [x] は f(x) の逆像である.この同値関係は f の核(英語版)として知られている.
商空間という言葉を、更なる構造も含めたうえで、任意の同値関係による同値類集合に対して用いることはできるけれども、商空間と呼ぶ目的は一般に、集合 X 上の同値関係の種類をもとの X に入っているのと同じ種類の構造を同値類集合上に誘導する同値関係と、あるいは群作用の軌道空間と比較することである。同値関係で保たれる構造の意味でも、群作用に対する不変量の研究の意味でも、いずれも上で与えた同値類の不変量の定義が導かれる。
関連項目
Equivalence partitioning, a method for devising test sets in software testing based on dividing the possible program inputs into equivalence classes according to the behavior of the program on those inputs