付加反応(ふかはんのう、英語: Addition reaction)とは多重結合が解裂し、それぞれの端が別の原子団と新たな単結合を生成する反応である。
大きく分けて、アルケンのブロモ化を代表とする求電子付加反応(AdE)と、カルボニルとグリニャール試薬との反応を代表とする求核付加反応(AdN)に区分されるが、この他に非極性付加反応のラジカル付加がある。
炭素化合物では三重結合で最も起きやすく、二重結合がそれに次ぐ。これは三重結合の結合エンタルピーが小さいためである。
付加反応の生成物は 付加体 と呼ばれる。
求電子付加反応
反応機構的には二重結合(ないしは三重結合)のπ電子にカチオン種が付加し、次いで生成したカルボカチオン(C+)をアニオン種が攻撃して付加反応が終結する。生成物の立体化学的考察より、多くの場合、二重結合平面に対してカチオン種とアニオン種がトランス方向(anti-periplaner方向)から付加することが確認されており、遷移状態は非古典式カルボカチオン(non-classical catbocation)を経由していると考えられている。また反応によっては古典式カルボカチオン(classical catbocation)を経由している場合もある。
求電子的付加反応の生成する異性体に関して、マルコフニコフ則とザイツェフ-ワグナー則が知られている。両者とも実験からの経験則で、次に示す。
- マルコフニコフ則:"HX付加の場合、置換基の多い側にXが付加する"
- ザイツェフ-ワグナー則:"両炭素の置換基数が同等のオレフィンへのHX付加の場合、XはCH3-基が置換している方、あるいは末端に近いほうの炭素に付加する"
これらの法則は、遷移状態のカルボカチオンのうち、置換基のI効果によりδ+の電荷が安定化されるほうにX-が攻撃するためであると理解されている。カルボカチオンの安定化は芳香環による共鳴、水素原子による超共役によっても引き起こされる。
求電子付加の例[1]
付加試薬
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付加される化合物
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生成物
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H3O+
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R2C=CR2
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R2C(H)-(HO)CR2
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H2SO4
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R2C(H)-(OSO3H)CR2
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X2
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R2C(X)-(X)CR2
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X2, H3O+
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R2C(X)-(HO)CR2
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HX
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R2C(X)-(H)CR2
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NOCl
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R2(NO)-(Cl)CR2
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求核付加反応
有機電子論的にはカルボニルは電子の「立ち上がり」の寄与があるため、Cがδ+、Oがδ-であると考えられる。それに対して有機金属試薬が攻撃すると、アルキルカルボアニオン種がCへ、金属カチオン種がOに付加する(最終的に金属カチオン種はプロトンと置換されて-OHとなる)。
求核付加の例[1]
付加試薬
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付加される化合物
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生成物
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グリニャール試薬
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R2C=O
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R2C(-OMg)-アルキル
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OH-, H2O
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R2C(-OH)2
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OH-, H2O
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RC≡N
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RCOO-
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H2S
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R<C(=S)NH2
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CN-, ROH
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R2C=O
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R2C(-OH)-CN
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脚注
- ^ a b C. K. Ingold, "Structure and Mechanism in Organic Chemistry". 2nd. Ed., pp 249.
関連項目
外部リンク