二硫化水素 (にりゅうかすいそ、英 : Hydrogen disulfide )は、分子式 H2 S2 の無機化合物 で、カルコゲン化水素 の1つである。淡黄色の揮発性液体で、樟脳 様の香りを持つ。硫化水素 と単体硫黄 に不均化 しやすい[ 1] 。
構造
過酸化水素 に似てC2 対称性 を持つ非平面形分子である。二面角 は、過酸化水素が 111.5° であるのに対し、 90.6° である。H-S-S結合角 は 92° で、非混成2価硫黄の 90° に近い[ 1] 。
合成と反応
アルカリ金属 またはアルカリ土類金属 の多硫化物 を水に溶解させることで得られる。 −15 °C で溶液を濃塩酸 と混ぜると、ポリスルファン の混合物からなる黄色油状の液体が水層の下に溜まる。この油を蒸留 することにより、他の多硫化物(主に三硫化物)から二硫化水素を分離できる[ 2] [ 3] [ 4] [ 1] 。
二硫化水素は周囲の環境により、硫化水素 と硫黄に分解しやすい[ 3] 。有機硫黄化学 では、二硫化水素はアルケン に付加して、二硫化物 とチオール を生成する[ 5] 。
量子トンネル効果の研究
二硫化水素の重水素 型DSSDは通常の二硫化水素と似た配置を持つが、トンネル効果 を起こすまでの時間が長くなるため、量子系の頻繁な観測がその発展を抑制するという量子ゼノン効果 の良いテストケースとなる。TrostとHornberger[ 6] は、孤立したDSSD分子は 5.6 ms の周期で左右のキラル型の間を自発的に往復するが、不活性ヘリウム ガスが少量存在するとそのキラル状態が安定化すると計算した。これはヘリウム原子の衝突が事実上、分子の瞬間的なキラリティ を「観察」することになり、他のキラル状態への自発的な発展を抑制するためであるとされる[ 7] 。
健康への影響
樟脳や二塩化硫黄 に似た「ひどい刺激臭」を持ち、「涙や鼻がうずく感覚」をもたらすとされている[ 3] 。高濃度で存在する場合、めまい、方向感覚喪失、そして最終的には意識喪失につながり得る[ 8] 。
出典
^ a b c R. Steudel "Inorganic Polysulfanes H2 Sn with n > 1" in Elemental Sulfur and Sulfur-Rich Compounds II (Topics in Current Chemistry) 2003, Volume 231, pp 99–125. doi :10.1007/b13182
^ De, A. K. (2001-01-15). A Text Book of Inorganic Chemistry . ISBN 978-81-224-1384-7 . https://books.google.com/books?id=AzoCJfTmRDsC
^ a b c Walton, James H.; Parsons, Llewellyn B. (1921-12-01). “Preparation and Properties of the Persulfides of Hydrogen” . J. Am. Chem. Soc. 43 (12): 2539–48. doi :10.1021/ja01445a008 . https://zenodo.org/record/1428820 .
^ Georg Brauer: Handbook of Preparative Inorganic Chemistry Volume I, page 391, Wiley, 1963.
^ Hazardous Reagents , Robinson Brothers
^ Trost, J.; Hornberger, K. (2009). “Hund's Paradox and the Collisional Stabilization of Chiral Molecules”. Phys. Rev. Lett. 103 (2): 023202. arXiv :0811.2140 . Bibcode : 2009PhRvL.103b3202T . doi :10.1103/PhysRevLett.103.023202 . PMID 19659202 .
^ Month-long calculation solves 82-year-old quantum paradox , Physics Today, September 2009, p. 16
^ Stein, Wilkinson, G (2007). Seminars in general adult psychiatry . Royal College of Psychiatrists. ISBN 978-1-904671-44-2