1521年にパティニールの二回目の結婚式に友人アルブレヒト・デューラーが出席し、パティニールの肖像画を描いている。デューラーはパティニールのことを「素晴らしい風景画家 er gute Landschaftmaler」と呼んでいた。パティニールの作品には広大な風景に小さな人物を描いたものが多く、なかには風景のみパティニールが描き、人物は他の画家が描き加えることもあった。このような「分業」は当時のネーデルラント絵画では普通になりつつあった。
パティニールの作品は、前世代で同じく広大な風景画を描いたヒエロニムス・ボスなど当時のネーデルラントの絵画に比べて大きなものが多い。パティニールの描く広大な風景は自然の詳細な観察と、叙情的な幻想とを融合させたさせたもので、もっとも好適な例としてアントワープ王立美術館所蔵の『エジプトへの逃避 (The Flight into Egypt)』があげられる。風景に描かれている岩はパティニールの故郷ディナンの実際の風景と比べて、より壮大で鮮烈なものとなっている。緑色と青色の色調変化を使うことによって遠近感を出し、広々とした空間を表現していることも特徴としてあげることができる。
ほかの作品例として『聖ヒエロニムスのいる風景』、『エジプト逃避途上の休息 (The Rest on the Flight into Egypt)』(ともにプラド美術館。プラド美術館は合わせて4枚のパティニールの絵画を所蔵しており、うち2枚にはパティニールのサインがある)、『キリストの洗礼 (The Baptism of Christ)』(ウィーン美術史美術館)、『パトモス島の聖ヨハネ (St. John at Patmo)』(ロンドン・ナショナル・ギャラリー。パティニールの工房作)、『羊飼いのいる風景 (Landscape with the Shepherds)』(アントワープ王立美術館)、『エジプト逃避途上の休息 (The Rest on the Flight into Egypt)』(ミネアポリス美術館)などがある。他にパティニールの作品ではないかとされている『悔悛する聖ヒエロニムス (The Penitence of St. Jerome)』と呼ばれる三連祭壇画などもある[2]。
パティニールのサインが残っている作品はわずかに5枚しかないが、まず間違いなくパティニールあるいはパティニールの工房の作品であるとされている作品は多い。残っているサインの一つは「(Opus) Joachim D. Patinier」と読むことができる。サイン中の大文字の「D」は「ディナンの Dionantensis」を意味し、パティニールの故郷がディナンであることの証明と考えられている。プラド美術館ではパティニールあるいはパティニールの工房作の絵画21点を展示したことがある。しかし所蔵目録に記載されている、残り8枚の絵は展示されなかった[4]。
パティニールは独立した分野としての風景絵画の先駆者であり、フランドルでは最初の風景画家で第一人者であると自負していた。パティニールはデューラーだけではなく、クエンティン・マサイスとも友人で、共同で絵画を制作することがあった。プラド美術館所蔵の『聖アントニウスの誘惑 (The Temptation of St Anthony) 』はマサイスとともに制作したもので、パティニールが風景を、マサイスが人物を描いている。同年代の画家で、同じく風景絵画の先駆者といえるアルブレヒト・アルトドルファーがいるが、パティニールの風景画とは作風がまったく異なっていた。
Koch, Robert A. Joachim Patinir (Princeton: Princeton University Press, 1968).
Battistini, Matilde. Symbols & Allegories in Art: The Hereafter. Los Angeles: The J. Paul Getty Museum, 2005. 210, 212-13.
Devisscher, Hans. "Patinir, Joachim" Grove Art Online. Oxford University Press, [accessed 6 September, 2007].
Falkenburg, Reindert. Joachim Patinir: Landscape as an Image of the Pilgrimage of Life. Amsterdam/Philadelphia: John Benjamins Publishing Company, 1988.
Ball-Krückmann, Babette, Landschaft zur Andacht: die Weltlandschaften Joachim Pateniers. Munich 1977 (microfiche)