様式的に見るとビクトリア作品は、多くの同時代の作曲家と同様の凝った対位法は遠ざけて、単純な旋律線とホモフォニックなテクスチュアを好んでいるが、それでもなお多種多彩なリズムの変化や、時に驚くほどの明暗の対比を内に秘めている。旋律の書法や不協和音の扱いはパレストリーナよりもずっと自由である。ビクトリアは随所で、16世紀の厳格対位法では禁則とされていた音程、たとえば上行する長6度音程を用いた。あるいはモテット《聖なるマリアよ、顧みたまえ Sancta Maria, succurre》において、旋律中の嘆きを表す楽句に臨時記号のついた減4度音程をさえ使っている。ビクトリアは時どき、通常はマドリガーレに使われるような音画技法も利用した。ビクトリアの宗教曲のいくつかは器楽も用いており(16世紀スペインの宗教曲には異例の慣習)、さらには、ヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂につとめるヴェネツィア楽派の作曲家がしたように、分割合唱のための作品も残した。