タンゴ型潜水艦 (-がたせんすいかん Tango class submarine)は、ソヴィエト/ロシア海軍 の通常動力型潜水艦 である。タンゴ型 はNATOコードネーム であり、ソ連海軍の計画名は641B型潜水艦<ソム> (Подводные лодки проекта 641B "Сом" )である。“ソム(Сом )”とはロシア語 で“ナマズ ”を意味する。
開発
本型はフォックストロット型潜水艦 の改良型であり、ソ連第3世代潜水艦に分類される通常動力型潜水艦 である。
設計はルビーン海洋工学中央設計局 で行われ、ゾシマ・アレクサンドロヴィッチ・デリビン (ロシア語版 ) が主任設計を担当し、海軍からは二等艦長 (ロシア語版 ) のV・A・マルシェフとI・A・コツビンがオブサーバーとして参加した[ 2] 。1971年より、ゴーリキー(現・ニジニ・ノヴゴロド )のクラスノエ・ソルモヴォ工場 (英語版 、ロシア語版 ) で建造が始まった。
設計
641B型潜水艦の艦型図
フォックストロット型潜水艦からの改良点として、航法装置や火器管制装置などの自動化と電子化による操作員の負担減少、寝台数・個室数増加による居住性向上、船体殻絶縁皮膜加工による静粛性向上、蓄電池・通信装置・電子機器の高性能化、魚雷搭載量の増加による攻撃力の強化[ 2] などが挙げられる。
艦体
船殻は6つの隔壁で区切られ、艦首から魚雷発射管室、前部蓄電池室、発令所、後部蓄電池室、機関室、電動機室、乗組員室となっていた[ 3] 。蓄電池室が2ヶ所になったことで、潜航時間はフォックストロット型潜水艦より長くなった[ 1] 。脱出ハッチは第1・3・7区画にあった。艦体の大型化により居住性は大きく向上し、艦長と士官の個別のベッド が乗組員室に設置されたほか、水兵のベッドも全員分が用意された[ 2] 。
静粛化の向上のために駆動系を簡素化したほか、艦体には浮台(ラフト)構造や無反響タイル が本格的に導入され、水中雑音を大幅に軽減した。これらの設計により、タンゴ型潜水艦はソ連で最も静粛性の優れた潜水艦と評価されていた[ 2] 。
機関
推進軸は3軸で、水上航行およびシュノーケル航行は2D42Mディーゼルエンジン (1,900馬力)3基で、水中航行にはPG101電動機 (1,350馬力)2基と高速航行用のPG102電動機(2,7000馬力)2基、低速航行用のPG104電動機(140馬力)1基で推進した[ 2] 。蓄電池 は、60SU蓄電池を112セル4基搭載した。
兵装
兵装として、533mm魚雷発射管 6門を艦首に集中配置した。冷戦 当時の西側諸国 では、艦尾にも魚雷発射管4門を有するとされていたが[ 1] 、本型はソ連の通常動力潜水艦として初めて艦尾の魚雷発射管を有しない潜水艦となった。魚雷発射管から発射する兵装は、魚雷 を24本または機雷 を44個したが、居住性を犠牲にすればさらに魚雷12本または機雷24個を搭載でき、従来の潜水艦より搭載量が20%増加した[ 2] 。
C4Iシステム
タンゴ型潜水艦は、ソ連海軍の通常動力型潜水艦として初めて、ソナー と戦闘処理装置 を結合したC4Iシステム が搭載された。魚雷への目標情報の入力や雷撃手順が自動化されたほか、戦闘時の操艦を補助した[ 2] 。
運用
タンゴ型潜水艦は1973年から1982年までに18隻が建造され、6隻が黒海艦隊に、12隻が北方艦隊に配備された。。1974年以降の建造艦は、ユーリ・ニコラエビッチ・コーミリシン (ロシア語版 ) による改良設計が反映された。個別の艦名は無かったが、一部の艦は各地のコムソモール を顕彰して、それに因んだ艦名が与えられた。
ソビエト連邦の崩壊 後、タンゴ型潜水艦は1990年代末までに全艦が退役した。大半がスクラップ として解体されたが、一部は博物館に展示されている。B-396のように、車椅子 に対応できるよう改装された。
艦番号
艦名
就役
配備
除籍
除籍後
B-443
1973年5月
黒海艦隊
1995年8月4日
2003年にスクラップとして解体
B-474
1974年12月31日
北方艦隊
1995年10月12日
スクラップとして解体
B-437
マグニトゴルスキー・コムソモーリッツ
1975年9月30日
北方艦隊
2001年11月1日
除籍時点でネルパ で処分待ち
B-498
1975年12月31日
黒海艦隊
1995年8月4日
2003年にスクラップとして解体
B-515
1976年4月29日
北方艦隊
2002年4月10日
除籍後、ハンブルク 博物館で「U-434」の名称で水上展示。
B-519
1976年12月
黒海艦隊
1995年8月4日
改修中の予算不足で除籍。サンクトペテルブルク で石炭積み出し設備に転用。
B-290
1977年9月
北方艦隊
1995年8月4日
改修中の予算不足で除籍。クロンシュタット で処分待ち。
B-303
1977年12月30日
北方艦隊
1995年8月4日
改修中の予算不足で除籍。1999年にスクラップとして解体
B-146
コムソモーリッツ・カザフスターナ
1978年9月30日
黒海艦隊
1998年1月22日
スクラップとして解体。
B-546
1978年12月
北方艦隊
1998年4月22日
2002年5月にポリャールヌイ に回航され、解体。
B-30
1979年10月
黒海艦隊
1998年または2001年
B-215
1979年12月
北方艦隊
1997年10月4日
改修中の予算不足で除籍。ポリャールヌイで解体待ち
B-396
ノヴォロシースキー・コムソモーリッツ (1984年 – 1992年)
1980年9月
北方艦隊
1998年1月22日
2006年からモスクワ ・セヴェルノエツシノ公園 (ロシア語版 ) のロシア海軍歴史博物館 (ロシア語版 ) で水上展示。
B-307
1979年12月30日
北方艦隊
2002年
2005年からトリヤッチ のK・Gサハロフ記念技術史公園 (ロシア語版 ) で陸揚げ展示。
B-319
コムソモーリッツ・チュヴァシィ(1988年12月16日 – 1992年2月15日)
1981年9月25日
北方艦隊
1998年1月22日
解体後、司令塔のみポリャールヌイで記念碑として保存。
B-225
1981年12月
北方艦隊
1998年1月22日
スクラップとして解体。
B-312
1982年7月
北方艦隊
1998年3月16日
スクラップとして解体。
B-380
ゴールコフスキー・コムソモーリッツ(1982年12月30日 – 1992年2月15日) スヴァートイ・クニャージ・ゲオルギー(2008年 – )
1982年12月30日[ 2]
黒海艦隊
2016年
2000年から浮きドックに入渠して大規模改修に入ったが、2009年に中断。2019年12月14日に浮きドックごと沈没し、浮揚後解体[ 2] 。
出典・参照元
Robert Jackson:編『The Encyclopedia Of Warships From World War Two To The Present Day』(ISBN 978-1592236275 )Thunder Bay Press:刊 2006年
関連項目
ウィキメディア・コモンズには、
タンゴ型潜水艦 に関連するメディアがあります。
外部リンク