2015年 8月17日 にアルバータ州 リトルボウ・リゾートで撮影されたスティーブの画像(エルフィ・ホール撮影)
スティーブ (STEVE 、スティーヴ)は、紫色に輝く光の帯が夜空にみられる大気の発光現象で、カナダ ・アルバータ州 のオーロラ 撮影者らによって発見された[ 1] [ 2] 。欧州宇宙機関 (ESA)の地磁気 観測衛星Swarm の観測データを分析した結果によると、スティーブは幅およそ25kmで東西に伸びる高温気体 の帯で、地上300kmでの温度は3,000度も上昇し、流速はスティーブの外側の気体が10m/s程度なのに対し、スティーブ内は6km/sと桁違いに速い[ 3] 。スティーブは、実は普遍的に発生している現象だが、最近までその存在は全くと言ってよい程知られていなかった[ 3] 。
発見・命名
スペリオル湖 にかかるスティーブ。原典にプロトンアークとの説明がついているが間違いである。なお、アルバータ・オーロラ・チェイサーズもこの画像がNASAのウェブサイトにプロトンアークとして掲載されていたため[ 4] 、自分たちが追っている現象がプロトンアークだと思い込んでいた。Ken Williams撮影。
この発光現象を発見したのは、アルバータ・オーロラ・チェイサーズ(Alberta Aurora Chasers)という、Facebook 上のオーロラ撮影者グループに参加するオーロラ撮影者達で、彼らは発見から暫くは、この現象を「プロトンアーク」と呼ばれる陽子 のオーロラ現象であると思っていた[ 5] [ 3] [ 6] 。
しかし、撮影された画像をみたカルガリー大学 の地球物理学 者ドノヴァンは、この発光現象がプロトンアークではないと指摘した。なぜならば、陽子オーロラは肉眼でみえる現象ではなく、構造上の特徴も撮影された光の帯とは異なるからである[ 2] [ 1] 。
オーロラ撮影者の一人で、アルバータ・オーロラ・チェイサーズの管理者を務めるラツラフは、この現象がプロトンアークではないと知ると、映画"Over the Hedge"(邦題『森のリトル・ギャング 』)中で、突如現れた生垣の正体に悩む動物達が、生垣を"Steve"と呼ぶことにした場面に着想を得て、この発光現象を"Steve"と呼ぶことを提案した[ 2] 。
その後、正体のよくわかっていないこの異常な「オーロラ」は、オーロラ追跡の市民科学 事業「オーロラサウルス(Aurorasaurus)」上で、2年間に30件以上の発生が報告された[ 7] 。
考案者のラツラフは、Steve は科学的名称が決まるまでの仮名と考えていたが、オーロラサウルスを主催するNASA ゴダード宇宙飛行センター の地球物理学者マクドナルドが、"S udden T hermal E mission from V elocity E nhancement"をSTEVE とするバクロニム を考えると、NASAも"S trong T hermal E mission V elocity E nhancement"として採用し、STEVE がこの現象の公的な名称に決まった[ 5] [ 7] 。
発生・原因
バンクーバー 周辺に出現したオーロラ のタイムラプス 画像。0:25から0:30辺りで左端にスティーブが表れている。
スティーブの光は、一見オーロラ状にみえるが、通常のオーロラとは色や持続時間、観測できる場所といった特徴が明らかに異なっている[ 7] 。スティーブの外見的な特徴をまとめると、以下のようなものになる(観測実績については、いずれも2018年3月現在)[ 8] [ 1] 。
スティーブは、オーロラよりも赤道 寄りの地域でみることができ、イギリス 、カナダ 、アラスカ 、アメリカ 北部、ニュージーランド で観測が報告されている。
スティーブは、東西方向に何百km、何千kmにもわたって細長く伸びてみえる。
スティーブの発光は、紫色を基調とし、時には緑色のピケットフェンス状の光を伴って、概ね20分から1時間程度で消滅する(オーロラは、緑を基調に赤や青が目立ち、数時間継続する)。
スティーブが観測されたときは、必ずオーロラも出現している(オーロラには、スティーブを伴わないものがある)。
スティーブは、10月から2月の間は観測報告がなく、NASAはスティーブが特定の季節に起こる現象かもしれないとしている。
ドノヴァンは、カルガリー大学とカリフォルニア大学バークレー校 が運用するオーロラ観測用全天撮像装置網のデータと、アルバータ・オーロラ・チェイサーズが撮影した写真などから、スティーブ発生時に発生地点上空をSwarm衛星が通過した機会を突き止め、Swarm衛星の測定データを調べることで、スティーブの特徴の一端を明らかにした[ 2] [ 1] 。
2018年3月、マクドナルド、ドノヴァンらはその成果を"Science Advances"誌に発表。スティーブが発生している領域では、西向きに最大5.5km/sという高速でイオン が流れ、領域内での電子 温度は最高で6,000K に達する一方、電子の密度 は2-3割に低下していることが示された[ 1] 。これらの特徴は、スティーブが、電離層 の狭い緯度 幅にみられる西向きの高速イオン流「サブオーロラ帯イオンドリフト(Subauroral Ion Drift、SAID)」に関係した現象であることを示唆する[ 9] [ 1] 。スティーブが冬季に観測されていない点も、SAIDが発生する季節の傾向と合っている。SAIDに伴い光学的な現象が発生することはそれまで知られておらず、スティーブはSAIDに関係して発生した光学的な現象が、史上初めて記録された例とみられる[ 7] [ 1] 。
脚注
^ a b c d e f g MacDonald, Elizabeth A.; et al. (2018-03-14), “New science in plain sight: Citizen scientists lead to the discovery of optical structure in the upper atmosphere” , Science Advances 4 (3): eaaq0030, doi :10.1126/sciadv.aaq0030 , ISSN 2375-2548 , http://advances.sciencemag.org/content/4/3/eaaq0030
^ a b c d Jacey Fortin (2017-04-25), That Ghostly, Glowing Light Above Canada? It’s Just Steve , The New York Times , https://www.nytimes.com/2017/04/25/science/aurora-borealis-steve.html 2018年4月12日 閲覧。
^ a b c “When Swarm Met Steve ”. Swarm . ESA (2017年4月21日). 2018年4月12日 閲覧。
^ NASA 、2018年11月閲覧
^ a b Alexandra Pope (2017-04-25), “Meet the aurora chaser who named an atmospheric phenomenon "Steve"” , Canadian Geographic (The Royal Canadian Geographical Society), https://www.canadiangeographic.ca/article/meet-aurora-chaser-who-named-atmospheric-phenomenon-steve 2018年4月12日 閲覧。
^ “A Proton Arc Over Lake Superior ”. Astronomy Picture of the Day . NASA (2015年8月3日). 2018年4月18日 閲覧。
^ a b c d Kasha Patel (2018年3月15日). Rob Garner: “Mystery of Purple Lights in Sky Solved With Help From Citizen Scientists ”. Goddard Space Flight Center . NASA. 2018年4月12日 閲覧。
^ Kasha Patel (2018年3月15日). Rob Garner: “NASA Needs Your Help to Find Steve and Here's How ”. Goddard Space Flight Center . NASA. 2018年4月12日 閲覧。
^ 田口, 聡 (13 October 2004). 衛星観測に基づくサブオーロラ帯イオンドリフトの特性 (PDF) . 平成16年度中緯度短波レーダー研究会 . 2018年4月18日閲覧 。
関連項目
外部リンク