コリスチン

コリスチン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
胎児危険度分類
  • C
法的規制
薬物動態データ
生物学的利用能0%
半減期5 時間
データベースID
CAS番号
1264-72-8
ATCコード J01XB01 (WHO) A07AA10 (WHO)
PubChem CID: 5311054
DrugBank APRD00886
KEGG D02138
化学的データ
化学式C52H98N16O13
分子量2797.3193 g/mol
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コリスチン(別名 ポリミキシンE、: colistin)は、7つのアミノ酸からなる環状ペプチド抗生物質。商品名オルドレブ点滴静注用、コリマイシン散(ポーラファルマ製造販売)。

塩基性の陽イオン性界面活性剤であり、細胞質膜を傷害することにより殺菌的に作用する。グラム陰性菌に対して優れた抗菌作用を示し、緑膿菌感染症細菌性赤痢に対して有効。腎毒性、神経毒性が強いが、多剤耐性グラム陰性桿菌に対する最終手段として用いられる。点滴静注用製剤が2015年3月に日本で承認された[1]

歴史

コリスチンは、1950年にライオン製薬(現ポーラファルマ)の小林細菌研究所の小山康夫、黒沢秋雄らによって、福島県掛田町の土壌中の芽胞桿菌Bacillus polymyxa var. colistinus が産生する物質から発見された。日本では1951年に硫酸塩(硫酸コリスチン)が医薬品として発売され、1960年にはコリスチン誘導体ナトリウム塩のコリスチンメタンスルホン酸ナトリウムが発売された。また、米・ワーナー・ランバート(現ファイザー)に輸出されるなど、米国を始め海外でも医薬品として発売され使用された。コリスチンは1960年代から1970年代にかけて用いられたが、副作用の頻度が高いこと、他により安全性が高い抗菌薬が開発されたことなどにより、その後日本では使用されなくなった。2015年、多剤耐性を有するグラム陰性菌に対する抗生物質として見直され、改めて希少疾病用医薬品として承認された。

近年、コリスチンは多剤耐性緑膿菌(MDRP)などの多剤耐性グラム陰性桿菌感染症に比較的有効な貴重な治療薬の一つとして欧米で見直されており、日本でも2010年10月に厚生労働省薬事・食品衛生審議会が多剤耐性菌への使用に限り許可する方針を固めるなど見直しが始まっている[2]

2015年、コリスチン耐性を持つ細菌が発見された[3][4]

薬効薬理

  • 抗菌作用
    • コリスチンは、グラム陰性桿菌に対して殺菌的に作用する。
菌種 コリスチン感受性
緑膿菌 3.13μg/mLで約71%発育抑制
大腸菌 1.56μg/mLで100%発育抑制
赤痢菌 1.56μg/mLで100%発育抑制
  • 薬剤耐性
    • 耐性を獲得し難く、他種抗生物質との間には交叉耐性がないため他種抗生物質耐性菌にも有効である。
  • 作用機序
    • グラム陰性細菌の細胞質膜の障害である。(グラム陽性細菌の細胞質膜には効果が期待できない)

効能・効果

  • オルドレブ
    • 〈適応菌種〉コリスチンに感性の大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、緑膿菌、アシネトバクター属で、他の抗菌薬に耐性の菌株[5]
    • 〈適応症〉各種感染症。
  • コリマイシン[6]
    • <適応菌種> コリスチンに感性の大腸菌、赤痢菌
    • <適応症> 感染性腸炎

副作用

治験で認められた副作用は、腎機能障害が21%で神経系障害が2%であった[5]

重大とされている副作用は、腎不全、腎機能障害、呼吸窮迫、無呼吸、偽膜性大腸炎である。

薬剤耐性

コリスチンは主に動物に使用され[7]、動物用医薬品のほか、家畜の成長などを目的として飼料に混ぜて与える飼料添加物として使用されている。しかし2015年以降、主にへのコリスチン乱用で、コリスチンに耐性のある大腸菌が豚や人で見つかり、コリスチンすら効かない耐性菌が現れる懸念が広がっていった[8]。現在では、中国、オーストラリア、マレーシアなどの国が、コリスチンを成長目的で飼料添加することを禁止している。また、バングラデシュ、スリランカ、タイ、インドネシア、ベトナム、シンガポール、および欧州連合(EU)などの国が、コリスチンを含め成長目的で抗生剤を飼料添加することを禁止している[9]。日本国内では、2018年7月1日から家畜へのコリスチン含有飼料使用が禁止となり、使用した場合、飼料安全法違反となる[10]

しかしながらペルーでは2019年にコリスチンを含む動物用製品の輸入、製造、販売を禁止したにもかかわらず、2022に公表された市場調査では、小売業者から採取した鶏肉サンプルで76%でコリスチン耐性株が検出されている[11]

関連項目

出典

  1. ^ 新薬18製品が承認”. ミクス (2015年3月27日). 2015年3月28日閲覧。
  2. ^ “60年前発見の抗生物質復活、多剤耐性菌に効く”. 読売新聞. (2010年10月26日). https://web.archive.org/web/20101027101545/http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20101025-OYT1T00975.htm 2010年10月26日閲覧。 
  3. ^ “最強の抗生物質でも殺せない細菌、中国で発見される 世界に広まるのか”. ハフィントン・ポスト. (2015年12月5日). https://www.huffingtonpost.jp/2015/11/27/bacteria-resistant-to-last-resort-drug_n_8660600.html?ncid=tweetlnkjphpmg00000001 
  4. ^ “中国で見つかった最強の抗生物質コリスチンに耐性を持つ細菌がついに他国にも飛び火”. gigazine. (2015年12月22日). https://gigazine.net/news/20151222-mcr-1-discovered-in-uk/ 
  5. ^ a b オルドレブ点滴静注用150mg 添付文書” (2015年3月). 2016年7月20日閲覧。
  6. ^ http://database.japic.or.jp/pdf/newPINS/00056486.pdf
  7. ^ 最強の抗生物質でも殺せない細菌、中国で発見される 世界に広まるのか”. 20220120閲覧。
  8. ^ 畜産用の抗菌薬2種類、国が使用禁止 耐性菌拡大を懸念”. 20220120閲覧。
  9. ^ Why colistin should be banned in food-animal production sector in India”. 20220120閲覧。
  10. ^ 飼料添加物「硫酸コリスチン」の指定取り消しについて”. 大分県. 20220120閲覧。
  11. ^ Resistant bacteria discovered in chicken in study in Peru”. 20220120閲覧。

参考文献

  • 獣医学大辞典編集委員会編集 『明解獣医学辞典』 チクサン出版社 1991年 ISBN 4885006104
  • 伊藤勝昭ほか編集 『新獣医薬理学 第二版』 近代出版 2004年 ISBN 4874021018
  • 松本哲哉(2007). 「基礎・臨床の両面からみた耐性菌の現状と対策1:多剤耐性緑膿菌(MDRP)」『モダンメディア』53(3):14-19.
  • 「コリマイシンS散」医薬品インタビューフォーム・新様式第2版(ポーラファルマ)

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