心に染み入る歌曲的な雰囲気に満ちたソナタ形式。冒頭でライトモチーフ風の短い動機が第1・2ヴァイオリンによって提示される(譜例1)。この動機は3拍子から6拍子へと滑らかに移ろい曲全体を統一的に貫いていく。ついで5小節目にクラリネットがピアノで入るが、本格的なクラリネットの登場は14小節目からのフォルテ・エスプレッシーヴォによる第1主題で、ここにチェロが含羞を交えた深い叙情を添える。最初の副次主題のあと38小節目からはクラリネットによる「非常に特徴的なハーモニーとメロディの柔和さ」(クロード・ロスタン Claude Rostand)を持つ第2主題へひきつがれる。その10小節後に第3主題が登場し、8分休符による効果的なシンコペーションのゆったりとした軽い間奏が続く。2番目の副次主題(59小節目から)は柔軟な旋律線のすべてをクラリネットが担当し、これを経過部として展開部へ進む。展開部ではじめて出てくる3番目の副次主題はここでしか登場せず、その間に提示部の各要素が、作品114の三重奏曲にはない自由さで用いられることは注目される。冒頭の動機が何度か繰り返されて展開部が終わり、提示部を踏襲した再現部へ続く。最後はコーダが付加され、またも冒頭の動機、さらにクラリネットにより第1主題が演奏されて楽章を終える。
三部形式、23小節のアンダンティーノが、中間部の2/4拍子のプレスト(Presto non assai, ma con sentimento)を取り囲んでいる。軸になるのは急速な中間部で、より穏やかな両端部分はさしずめ前奏と後奏として機能している。この流動的な楽章において、アンダンティーノの主要主題がところを変えて現れる。ただし、明確な道筋が定まっているという感じではない。このアンダンテ主題は、初めはクラリネットによって弱音で示される(譜例3-1)。だがこの主題は、特定の形式によらないプレスト部にも引き続き現れるだけでなく、せかせかした足取りのスケルツォ主題として変奏されもするのである(譜例3-2)。このような構図は、いわゆるブラームス後期ピアノ小品集にも共通するものである。