オオムラサキ (大紫、Sasakia charonda )は、チョウ目 (鱗翅目)タテハチョウ科 に分類されるチョウ の1種。日本 の国蝶 。
本種は最初に日本で発見され(種の基産地は神奈川県 )、属名の Sasakia は佐々木忠次郎 に献名 された。
生息域
日本 ・朝鮮半島 ・中国 ・台湾 北部・ベトナム 北部に分布している。
日本では北海道 から九州 まで各地に分布し、南限は宮崎県 小林市 。日本では生息環境が限られ、適度に管理された、やや規模の大きな雑木林 を好んで生息する傾向が強い。かつては東京都 区内 の雑木林でも見られた。都市近郊では地域絶滅 の危機に瀕する産地もある一方、山梨県 のように今でも広域に多産する地域がある。
形態
日本に分布する広義のタテハチョウ科の中では最大級の種類。生態や幼虫、蛹の形態は同じコムラサキ亜科 のゴマダラチョウ によく似る。
成虫 は前翅長50-55 mm ほどで、オスの翅 の表面は光沢 のある青紫色で美しい。メスはオスよりひと回り大きいが、翅に青紫色の光沢はなくこげ茶色をしている。
日本での地理的変異はやや顕著。北海道から東北地方の個体は翅表の明色斑や裏面が黄色く、小型。西日本各地の個体は一般に大型で、翅表明色斑が白色に近く、かつ裏面が白から淡い緑色の個体も多い。九州産は翅表明色斑が縮小し、一見して黒っぽい印象を与える。
北海道夕張郡 栗山町 の本種の集団は、他地域の集団と斑紋が異なるとして新亜種S. c. kuriyamaensis として記載された[ 3] 。
日本以外では、裏面に濃色の斑紋が出現した型が多く見られ、また、中国雲南省 からベトナムにかけての個体群は明色斑が非常に発達し、大型となる。朝鮮半島、中国東北部から中部にかけての個体群は亜種 S. c. coreana 、台湾産は亜種 S. c. formosana 、雲南省からベトナム北部の個体群は亜種 S. c. yunnanensis とされる[ 4] 。
以上のような地理的変異とは別に、後翅後角の赤い斑紋が白いスギタニ型と呼ばれる個体変異、雄の翅表面の青紫部分がやや明るい青をしているブルーとあだ名されている個体変異がある。
雌雄嵌合体 も何例か記録されている[ 5] 。
生態
成虫は年に1回だけ6 - 7月に発生し、8月にも生き残った成虫を見かける。クヌギ 、コナラ 、ニレ 、クワ 、ヤナギ などの樹液 に集まったり、クリ 、クサギ などの花で吸蜜する[ 6] 。ときに腐果 や糞 などの汚物に来ることもある[ 7] 。餌場では勇ましく、カブトムシ 、クワガタムシ 、スズメバチ など他の昆虫を羽で蹴散らしながら樹液を吸う姿をよく見かける。また、飛翔能力が高く、近くに居る時にはその音が聞こえる程である。鳥の様に力強くはばたいて、あるいは滑空しながら雄大に飛ぶ。縄張り飛翔は午後に行われることが多く、西日を浴びて高い樹冠を活発に飛び回る姿を見かける。
雄は樹木の周囲に縄張りを作る。
幼虫 の食樹はエノキ の葉やエゾエノキの葉をたべる。卵 から孵った幼虫は、夏から秋にかけてエノキの葉を食べて成長する。冬は地面に降りて、食樹の根際や空洞内に溜まった落ち葉の中で越冬 する。春に休眠から覚めると再び食樹に登って葉を食い、更に成長を続け、蛹 になる。蛹の状態でも、体を震わせることができる。
文化
日本の国蝶
オオムラサキ 75円切手 (1956年発行)
日本の国蝶は、法律や条例で規定されたものではなく、日本昆虫学会 が選んだものである。
国蝶の選出については、1933年ごろより、片山胖、結城次郎、中原和郎、柴谷篤弘、野平安藝雄らが、同好会誌『Zephyrus』で論議していた
。オオムラサキは当時から候補種だったが、ミカドアゲハ 、ギフチョウ 、アゲハチョウ といった蝶も検討された。結城 (1935) はオオムラサキに対抗してアゲハチョウを推す理由を詳細に記述している。ただしこの時点では決定がなされずに経過した。
1956年 にオオムラサキが75円切手 の図案に採用されたことを契機として、日本昆虫学会は1957年 の総会でオオムラサキを国蝶に選んだ。
下妻市
茨城県 下妻市 のマスコットキャラクター「シモンちゃん」は本種を萌え擬人化 したデザインとなっている[ 11] 。なお、女の子のように見えるが、羽の模様はオスのものである。
脚注
出典
参考文献
猪又敏男 「日本のオオムラサキ」『月刊むし 』第449号、2008年、27-36頁。
江崎悌三 「「國蝶」問題」『Zephyrus』第6巻第3/4号、1936年、382-383頁。
片山胖 「第八回懇親会記事」『Zephyrus』第5巻第1号、1933年、49-51頁。
柴谷篤弘 「國蝶選定に就いて」『Zephyrus』第7巻第2/3号、1937年、217-221頁。
中原和郎 「オホムラサキ國蝶論」『Zephyrus』第6巻第3/4号、1936年、383-384頁。
日本蝶類愛好会 編『日本の蝶・世界の蝶』保育社 、1970年。全国書誌番号 :69007753 。
野平安藝雄 「再び國蝶問題に就いて」『Zephyrus』第7巻第4号、1938年、298-301頁。
結城次郎 「「國蝶」を如何に選ぶべきか」『Zephyrus』第6巻第1/2号、1935年、146-149頁。
関連項目
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