本項では、イギリス軍 のC4Iシステム について扱う。イギリス軍は、アメリカ軍 と並んで北大西洋条約機構 の中核的な軍事力であり、また海外領土 での作戦行動も想定されることから、C4I化には多大な努力を払ってきた。1998年 7月 に公表された戦略防衛見直し (SDR )において、各軍におけるC4I化の統合方針が策定され、これに基づいてC4Iシステムの開発・配備が進められている。
戦略級システム
イギリス軍は、全軍共通の戦略級C4IシステムとしてJOCS (Joint Operational Command System) を配備している。JOCSは、湾岸戦争 の経験から開始されたJCSI(Joint Command System Initiative)計画のもとで開発された。1995年 から1996年 におこなわれたパイロット・フェーズにおいては、イングランド ・ハートフォードシャー のノースウッド司令部 内に常設統合司令部 (Permanent Joint Headquarters, PJHQ)を構築することが最重点とされた。
1997年 から2002年 のフェーズ2で、JOCSは総合的なC4Iシステムとして実用段階に移行した。1999年 からは、より拡大されたフェーズ3が運用されており、これはアメリカ軍の汎地球指揮統制システム(GCCS) にほぼ相当するものである。
作戦級システム
トリミンガム のレーダーサイト 。UKADGEの一環をなす。
他国と同様、イギリス軍においても、作戦級システムは軍種別に異なるものが配備されている。
FBMS(Formation Battle Management System)
イギリス陸軍 の基幹的な作戦級C4Iシステムとして、軍団 から旅団 までの階梯において兵力運用を統制するもので、プターミガン 戦域通信システムを通信基盤として使用する。これは、1998年 に策定された陸上戦闘空間デジタル化管理計画 (The Digitization of the Battle Space (Land) Management Plan)第1段階の中核的な施策として進められているものであり、1999年より、緊急展開部隊を皮切りに、各部隊への配備が進められている。
RNCSS(Royal Navy Command Support System)
イギリス海軍 の基幹的な作戦級C4Iシステムで、スカイネット衛星通信システム を通信基盤として使用する。
UKADGE(UK Air Defence Ground Environment)
イギリス本土防空のためのGCI システムであり、イギリス空軍 の基幹的な作戦級/戦術級C4Iシステムとして機能している。航空自衛隊 の自動警戒管制組織 (BADGEシステム)を端緒とするヒューズ社製ADGEシステムの系譜に属しており、直接的には、北大西洋条約機構が欧州正面に配備しているNADGEシステム に準拠したものとなっている。
戦術級システム
陸軍
イギリス陸軍では、基幹的な戦術級C4IシステムとしてBGBMS (Battle Group Battle Management System)の配備を進めている。これは陸上戦闘空間デジタル化管理計画 第2段階の一環として開発され、群 /大隊 以下の階梯で使用されるものであり、アメリカ陸軍 のFBCB2システム 、陸上自衛隊 の基幹連隊指揮統制システム (ReCS)にほぼ匹敵するものである。
BGBMSは、通信基盤として、ボウマン 戦術無線通信システムを使用する。これは、従来使われてきたクランスマン を代替する、3軍共通の地上作戦用戦術無線通信システムであり、アメリカ軍の統合戦術無線システム (JTRS)と同様、抗堪性および相互運用性に優れたものである。2004年に行われた旅団規模での運用試験を経て、順次に配備が進められている。
海軍
イギリス海軍では、国産の戦術情報処理装置 と戦術データ・リンク によるネットワーク・システムを運用してきた。
戦術情報処理装置
駆逐艦 以上の艦艇においてはADA /ADAWS が、フリゲート においてはCAAIS 、CACS 、SSCS シリーズが搭載されている。
戦術データ・リンク
1960年代 後半より、リンク 10 が標準的なデータ・リンクとして運用されてきたが、現在、リンク 16 によって段階的に更新されつつある。
空軍
ボーイング・セントリーAEW
他国と同様、GCI システムであるUKADGEシステム が、戦術級C4Iシステムの役目も兼ねることとなっている。また、空中において戦術C4Iシステムの中核となるものとして、ボーイング・セントリーAEW (AWACS )機が運用されている。
なお、従来よりUKADGEで用いられてきた戦術データ・リンク は、他国の同級システムと同様に地対空のリンクであったが、90年代より改良型データ・モデム が作戦機に導入されており、これを航空無線機 と連接することで、IFDLなど作戦機間でのデータ・リンクが可能となっている。また、より高性能のデータ・リンク端末である統合戦術情報伝達システム (JTIDS)や多機能情報伝達システム (MIDS)も作戦機に導入されつつあり、これにより、より大容量で相互運用性にも優れたリンク 16 の運用が順次に開始されている。
参考文献
関連項目